ヘアアイロンを買う輪廻を解脱した話
髪の毛を自分で巻くことができない。
あまりにも巻けないので、自分の髪質的に無理なのだと思っていたが、美容院の人に頼むといつだってキレイに巻いてくれる。私の技術面に問題があるということなのだ。
練習すれば自分でも巻けるはず……!!
そう信じて私はヘアアイロンを買った。5000もした。牛丼10杯食べられる値段である。
しかし、いくら練習しても髪はあらぬ方向へはね、寝癖と区別のつかないうねりを生み出し続けるだけであった。
1年ほど時が過ぎ、練習すらしなくなった頃、妹にヘアアイロンをあげた。後悔がないと言えば嘘になる。でも、やるだけやったのだ。
私はこの、ヘアアイロンを買う→うまく使えない→あきらめる→人にあげるというのを3回繰り返している。
流石に諦めるべきだと思う。でも、YouTubeでギャルが髪の巻き方をレクチャーしているのを見ると、「もう1回やれば出来るかも……!」と思えてくるから不思議だ。
でもいざ買うとなると、過去の失敗経験を思い出し、ぎりぎり踏みとどまる。
そのとき、ちょうど香典返しのカタログが届いた。見ると、食べ物や家電など、色々選べるようになっている。もちろんヘアアイロンもあった。私は迷わずヘアアイロンを注文した。香典返しでもらうヘアアイロンなら、ほぼタダみたいなもんである。ダメージゼロだ。
しばらくして1枚のハガキが届いた。
ヘアアイロンが品切れなので、別の商品にしてくださいという内容であった。
あぁ、これは先日亡くなったじいちゃんが、「ヘアアイロンを買う輪廻を解脱しなさい」と言っているのだ。
私は髪を巻かずに強く生きていく。ありがとう、じいちゃん。
やっぱりヘアアイロンじゃなくてフライパンにするよ。
これを機にヘアアイロンへの未練をきっぱり捨てた。髪は巻かれるために生えているのではない。頭部を守るために生えているのだ。(たぶん)
念の為調べてみたら、頭部を守るためももちろんあるが、排便や排尿時に排泄されなかった老廃物が髪の毛に含まれて体外に排出されているという衝撃の事実を知った。
私は老廃物を巻こうとしていたのか……!!
老廃物にトリートメントをつけてつやつやにしていたのか……!!!
床に落ちている髪の毛を見るとちょっと嫌な気持ちになるのは、老廃物だからだろう。
カールした老廃物に美を見出す人間は滑稽で不思議だ。
老廃物も美しくなれる世界で私たちは生きている。
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