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途上国ベンチャーで働いてみた:組織再生(通算180日目)

2019年12月。バングラ現地法人が組織としてクラッシュする出来事が起こった。

ごり押しのトップダウンで組織を率いていた現地社長が自ら地雷を踏んでしまった。それまで、恐怖政治のもとで積み上がってきた社員の不満を押さえ込める唯一の重し、リーダーが持つ勢いと強さによるカリスマ性が、逆回転の渦を引き起こし、現地社長の存在は一転して嘲笑と罵倒の対象となった。

バングラの人たちはとても感情的で、扇動されやすい。ロジックとか、ファクトとか、そんなものはすっ飛ばして、感情が先行する。そして、感情がどれだけ人を動かすか、ということを理解している人間が、組織の中身をかき回す。リーダーへのリスペクトを完全に失った組織は、自発的な機動力をなくし、停滞モードに陥った。

年が明け、事態を収拾するため、否が応にも組織を率いる任を引き受けないわけにいかなくなった。はじめに手をつけたのは、組織図の改訂と人事考課制度づくりだった。経営理論などを学んで実践したわけではない、ただこれをやらなければ停滞した組織は動かないと感じたからだった。

現地に残された日本人は、私と社会人1年目の男の子の二人。現地スタッフの自発性を喚起することなしに、ビジネスの再興など不可能だと思った。そのために、スタッフそれぞれの現時点での役割と評価ランクを明確にし、何ができるようになればランクアップにつながるのかということを示すことにした。リーダーから与えられる無茶難題に応えるべく肉体を酷使していれば評価されるという文化ではなく、自分なりに考え、意思や意見を持った上で行動に移すことが評価される仕組みになれば、現地の人ならではのアイディアが出てくるかもしれない。受け身ではなく能動的に動いてもらえるようになれば、マネジメントの負荷は下がるのではないか。客観的な評価指標が明らかであれば、政治的な動きで組織を撹乱しようとする人間の動きも抑えられるだろう、と考えた。

以前の社長は、「現地の人間を信じるな」という思想が根本にあった。間違っていないと思う面もある。けれど、私は、「まずは現地の人間を信じる」という道を選ぶことにした。それ以外に、道はなかった。

日本の親会社からは人事制度づくりのコンサルタントの方を紹介されたが、正直にいってあまり役には立たなかった。

そして、混乱が少し和らぎ、新しい体制で気を取り直していけるかと思い始めた矢先、コロナがやってきた。

(続)


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