見出し画像

めがね(だいたい)全ロケ地探索

2007年公開、全編が与論島で撮影された荻上直子監督の映画『めがね』。
舞台が与論であることも、離島であることさえ語られていないのだけれど、スクリーンにはまごうかたなき与論の風景が記録されていました。
こんな辺境の島でさえ、その姿は刻々と変化していきます。2023年春、土地の記憶が消えてしまう前に、映画の進行に沿ってロケ地を巡ってみました。
1枚目が映画のスクリーンショット、2枚目以降が現在の姿、最後にマップという構成で紹介していきます。

01: トゥマイ

映画冒頭、ユージが「来た」とつぶやくシーンが撮影されました。
トゥマイというのは、この浜辺の名前です。背後に見えるコンクリートの構造物は現在撤去されていますが、過去の航空写真(2008年)で確認できます。さらに遡ると、作品内に何度か登場する西側の漁港は、かつて砂浜だったこともわかりますね。

●●

02: 与論中学校

映画冒頭、ユージに続いてハルナが「来た」とつぶやくシーンが撮影されました。
防球ネットが張られていたり、背後の国旗掲揚台らしきものが消えていたりしますが、校舎自体はそのまま。近くにはハルナが座っていたと思われる朝礼台も残されていました。

●●

03: 与論空港 駐機場

サクラが降機するシーンが撮影された場所です。
このとき使われていた機材は39人乗りのボンバルディア DHC-8-100 で、2017年に退役。青と黄のイメージカラーで塗装され、尾翼にはシーサーが描かれています。現在はボンバルディア DHC-8-400 カーゴコンビが導入され、座席数は50に増加。機体デザインは JAL に準じているので、地域性は感じられなくなりましたね。

●●

04: 与論空港 ターミナルビル

サクラが降機し、続いて空港の建物を出るシーンが撮影された場所です。
空港名は「論」の字が見切れて、この場所がどこなのか判然としません。いわゆるご当地映画と違うのはここですね。公開当時、製作陣は舞台が与論であることを喧伝しないよう気遣っていたとか。携帯電話の通じない南のどこかという、場所を限定しない開かれた感じを大切にしたかったんだと思います。

●●

05: トゥマイ

ユージとハルナが、かき氷屋の開店準備をする場面が撮影されました。
この小屋はもちろんセットで、現在その名残はまったくありません。
かき氷屋の背後には大きなモクマオウの木が並んでいますが、撮影から数年後、与論を直撃した猛烈な台風による塩害で枯死してしまいました。ふだん緑豊かなこの島も、その台風の後には多くの植物が赤茶色に枯れて痛々しい姿を見せていたのを思い出します。参考写真は2012年のウドノスビーチ。

●●

06: トゥマイ 西側

かき氷屋に向かってサクラがやってくる場面が撮影されました。
ここにも、01で触れたコンクリートの構造物が見られますね。それ以外は現在でも変わらぬ雰囲気を保っているようです。

●●

07: トゥマイ 東側

かき氷屋の前でサクラとユージ、ハルナが出会う場面が撮影されました。
トゥマイは島内に数ある砂浜の中でも白くきめの細かい砂が特徴で、ほどよい広さと岩の配置も相まって、美しく居心地のいい場所。サクラの店があるとしたら、まさしくここだろうと思わせる、製作スタッフのセンスを感じられるロケ地です。

●●

08: ???

やっとタイトルまで辿り着きました(長い……)。本編では2分半のあたり。ここからは、はしょり気味でまいります。
さてこの場面、さすがに海だけではロケ地が特定できず。リーフの様子や島影の見えないところから東海岸のどこか、としか言いようがないですね。写真はトゥマイで撮影したもので、たぶんここだとは思うんですが……情報求む!

●●

09: コーラルウェイ

空港を出たタエコがスーツケースを引きずって歩く場面が撮影されました。
空港に沿って伸びる島内でも少なくなった未舗装の道で、サンゴの砂が敷き詰められています。
草むらに囲まれた白い道に風がざわめき、鳥が目の前を横切り、雲の影が流れていく……まことに映画的なマジックの散りばめられた、全編でも屈指の素晴らしいカットだと思います。

●●

10: ヨロン島ビレッジ

タエコが民宿ハマダに到着する場面が撮影されました。
何度も登場するハマダ食堂部分のセットは後に再建され、宿泊者の憩いの場となっていましたが、近年老朽化が激しくなったため改装されました。また、室内は別の建物です。
ビレッジはフロント兼レストラン棟を挟んで、高台のホテル棟とハマダとして使われたペンション棟というつくり。このシーンの冒頭、ホテル棟の姿がちらりと映り込んでいるの、気づきましたか?

●●

11: メーラビビーチへの道

微かに聞こえる音楽に誘われてタエコが林に踏み入る場面が撮影されました。
10で紹介したビレッジ入口の、道を挟んで向かい側に建つ民家脇を通る細い道。時期によっては藪の勢いが強すぎて通行不能になることも。
映画ではここを抜けるとかき氷屋のあるトゥマイに辿り着きますが、実際はメーラビビーチ(ナホーバッタイ)という小さな砂浜に出ます。ここも別のシーンで登場するので、後に紹介しますね。

●●

12: トゥマイ

11で林を抜けたあと、砂浜へと降りる場面が撮影されました。
トゥマイへの下り口は、タエコが見たままの風景を実際に体験することができます。薮を抜けた先に広がる白いビーチと真っ青な海はまさに『めがね』の世界。メルシー体操をする子どもたちはいませんが。

●●

13: 茶花漁港

タエコが、謎のおばちゃんの座っている堤防を通りかかる場面が撮影されました。
与論いちばんの繁華街・茶花銀座の目と鼻の先にある漁港。町中からすぐそばなのに、堤防で糸を垂れる釣り人が大物を上げたりウミガメが息継ぎに顔を出したりしますし、隣接するビーチにはステージが設けられ、各種イベントも開催されます。

●●

14: メーラビビーチ(ナホーバッタイ)

タエコが、たそがれを試みて「……無理!」となる場面が撮影されました。
他にもタエコが編み物をしたり、ヨモギとビールを飲む場面などでも登場します。
このシーンで一緒にいる犬・コージを演じたのはビレッジのアイドル「ケン」。みんなの人気者でしたが惜しくも2018年、めがねの国に旅立ちました。参考写真は2011年のもの。
メーラビとは与論の方言で若い女性を意味する言葉です。11で紹介した藪の中の細道を抜けた先にある、隠れ家感あふれる小さな砂浜。振り返ると見える大きな建物は某有名漫画家の別荘で「迎賓館」と呼ばれています。

●●

15: 寺崎漁港

ユージ、ヨモギ、ハルナたちが釣りをする場面が撮影されました。
水際を鮮やかな黄緑色に覆っているのは、与論の春の風物詩・アオサ。汁物や天ぷらなどにしていただきます。
01で言及したように、ここはかつてトゥマイから続く砂浜でした。参考写真を見ると、波を遮る岩陰に港が作られたことがわかります。

●●

16: ヨロン島ビレッジ 芝生広場

夕日の中、タエコがたそがれかけたところをサクラに引き戻される場面が撮影されました。
ビレッジのペンション棟奥にあるスペース。木立に囲まれ、芝の敷き詰められたちょっとした広場で、ときおりパーティやイベントが開催されることも。ふだんは看板犬研修中のラッキーと麦がくつろいでいます。

●●

17: ヨロン島ビレッジ ハマダ中庭

ハルナがもらってきた肉でサクラ、ユージ、タエコとBBQをする場面が撮影されました。
実際にビレッジでもハマダや中庭でBBQが行われることがあり、その特別感は何にも替え難いものです。写真はまだ改装前、2011年撮影のもの。

●●

18: キビ畑の道

タエコがハマダを引き払い、ハルナとマリンパレスへ向かう場面が撮影されました。
1枚目、車内の背景で見えるガードレールは海辺の駐車場へ上っていく道。2枚目、曲がり角の小屋はほとんど倒壊しています。3枚目、くねくねした坂道の周辺は土地の改良工事中で、ずいぶん雰囲気が変わりました。
このシーンはいろんな場所で撮影されたカットを行きつ戻りつ編集されており、場所を特定できない部分も多くあります。わずかなヒントからそれらを解明するのが楽しいのですけど。
ところでハルナの車のナンバー、気が付きましたか?

●●

19: 星砂荘

タエコがマリンパレスに到着する場面が撮影されました。
星砂荘は素朴な接客で人気の民宿。映画では薬師丸ひろ子の存在感がすごかったですね。サトイモが作られていた裏の畑も健在です。

●●

20: 大金久探索路

タエコがマリンパレスから逃げ出し、道に迷う場面が撮影されました。
探索路は南北に1km以上続く、防風林の中の散歩道。南の大金久海岸側は整備が進み、熱帯植物園の雰囲気を漂わせています。
映画の雰囲気を味わうなら北の舟倉海岸方面が、昔の姿をとどめているようですね。

●●

21: ???

20で紹介したタエコが島内をさまようシーンでは、探索路以外に映っているのはほぼキビ畑だけ。
なんとなく見たことのある風景だなとか、たぶんあの辺りだろうな、という推測はできるのですが、今のところロケ場所がどこなのか特定するにいたっていません。
与論では継続的に土地の改良工事が行われていて、数年でまったく様子が変わってしまうこともあります。
心当たりのある方、正確な場所をご存知の方、情報をお待ちしています!

●●

22: 朝戸地区の農道

映画も折り返し地点。
途方に暮れたタエコをサクラが三輪車で迎えに来る場面が撮影されました。
ここは18でも紹介した、小屋のある曲がり角のあたり。背後にちらりと見える建物や電柱の配置から、この場所であることがわかります。いまでは道が舗装されて、ずいぶん趣が変わりました。
このシーンがコーラルウェイで撮影されたという情報も見かけますが、未舗装の道ということから混同されているのでしょうか。あるいは、撮影自体はしたものの、本編ではカットされたのかも知れません。

●●

23: 麦屋地区の農道

三輪車に乗ったサクラとタエコが、夕闇に青く沈むキビ畑をゆく場面が撮影されました。
キビ畑のすぐ向こうに海とかすかに見える島影、電線など邪魔なものがなく抜けのよい眺めから、この場所だろうと思われます。このカットに大きな月がオーバーラップし、心にしみる美しいシーンでした。
ちなみにこの三輪車は、与論城址にあるサザンクロスセンターに展示されています。乗ってもいいみたいですよ。

●●

24: ヨロン島ビレッジ 芝生広場の入口

タエコがたそがれのコツについてユージに教えを乞う場面が撮影されました。
ハマダの中庭から芝生広場への通路になっている場所です。
この時すすめられ、タエコは初めてサクラのかき氷を食べることになりますが、次のかき氷屋の場面で客の一人として特別出演しているのがビレッジの料理長・中さん。堂々たる役者っぷりですね。

マリンパレス事件の後、ヨモギが現れたりエビを食べたりビールを飲んだり食べたり食べたり食べ……など諸々ありますが、ほとんどのシーンがビレッジ、トゥマイ、寺崎漁港、メーラビビーチの繰り返しで新しいロケ場所は登場しません。というわけで、次からは一気にラストへと向かいましょう。

●●

25: トゥマイ

一気にラストにと言いつつ、またもやトゥマイ。いいシーンなのでしょうがない。
タエコ、ヨモギ、サクラ、ユージ、ハルナが思い思いに座り海を眺める場面が撮影されました。
ここではヨモギがドイツ語の詩を暗誦していて、これが公開時のキャッチコピーである「何が自由か、知っている」の元になっています。普通に映画を見ていると何が何だかわかりませんよね。字幕付きだと和訳を見ることができるので、DVD、BDなどをお持ちの方は試してみてください。

●●

26: メーラビビーチ(ナホーバッタイ)

もうちょっと寄り道。メーラビビーチも、最後にもう一回見ときましょう。
毛糸玉を拾い上げたタエコが静かに広がる海を眺める場面が撮影されました。
メーラビビーチはたいてい誰もいない(というか、どのビーチでも人のいないことの方が多いです)ので、このシーンのように波と風の音しかしないひとときを、どっぷり楽しめますよ。

このあとすぐに雨が降り始め、長いような短いようなタエコの旅は終わりを迎えます。

●●

27: ハキビナ海岸付近の坂道

タエコがハルナの車で空港に送ってもらう場面が撮影されました。
続く一連のシーンでは、これまでとは違った風景を重ねているようで、映画のメインとなる島の北東部以外から選ばれている印象ですね。
この場所は、平らに見える与論島が、案外高低差のある土地だとわかる風景。うっかり自転車で島巡りを始めると、割と大変な目に遭います。

●●

28: 朝戸地区の道

タエコがハルナの車で空港に送ってもらう場面が撮影されました。「なんとなく不安になってきて、そこから80mくらい走ったらそこを右」の道です。
映画の流れで海沿いの道と思いきや、島のほぼ中央部だったのが意外。進む先に海が見えていたような気がしていたのですが、思い込みでした。とはいえ、そのまま進むと、はるかに海が見渡せるようになります。常にどこかしら海が見えるのが、小さな与論島のいいところですね。

この近くにある見晴らしのいい場所がハジピキパンタ(舵引き丘)。神様が船で漁に出たところ舵がひっかかり、引き上げるとみるみる陸地が盛り上がり、与論島になったという伝説の場所です。

●●

29: ミコノス通り

タエコがハルナの車で空港に送ってもらう場面が撮影されました。
1984年、与論町はギリシャのミコノス島と姉妹都市提携を締結。それを記念して茶花海岸に面した道路をミコノス通りと命名しました。この通りの陸側には、180mに渡ってミコノス島の風景をモチーフにした真っ白なレリーフが続いています。

そのすぐ横には、かつて島を代表する宿泊施設だった与論島観光ホテル跡がそびえています。このホテルは1971年に開業し、1979年には2号館も完成。しかし当時年間15万人を数えたという観光客数は年々減少、213室を誇る規模だっただけに経営も厳しくなり、2009年に閉館となりました。なんとか活用できる方法があればと思うんですが、難しいんでしょうね。

ハルナの車はそんな海岸通りを一路空港へとひた走り(実際には反対方向ですが)、映画はエンディングへ。

●●

30: トゥマイ

最後はここで締めないわけにはいきません。
季節が巡って(たぶん)次の春、サクラとユージ、ハルナ、それにタエコとヨモギが再会する場面が撮影されました。
果たしてタエコは島に残ったのか? なぜサクラとヨモギが一緒に現れた? など謎を秘めたラストシーンです。

あらためて見返すと、島をくまなくロケハンして撮影場所を選んでいるなあと、つくづく思いました。そしてタエコがかたくなな心をほぐしていく日々を描いたこの映画、よく考えたら登場人物は全てよそから来た人(旅んちゅ)なんですよね。旅人でさえ「おかえりなさい」と迎えてくれる与論の空気を、「めがね」でぜひ感じていただきたいと思います。

最後に島全体のマップを置いときますね。探索の一助となれば幸いです。


山の国に住みつつ与論島をテーマに活動中。なぜ? どうして? その顛末は note 本文にて公開中!