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てんとう虫と青いアネモネ

駅のホームでぽつん、と花が咲いている
母の姿は、青いアネモネ
澄みきったかなしみが身体中に染み込んでいる
帰郷した日にはいつもあたたかな炊き込みご飯
ずっと変わらない味を噛みしめる
こころのぶらんこをやさしく揺すってくれる
お見送りをしてくれる青いアネモネの
ちいさな肩に風が吹いていた
わたしの目は視界が震えていて
またいつでも来なねと微笑む目尻の
皺は桜色をしていて
また春になったらねと精一杯微笑む
わたし達の頭上は今にも雨が降り出しそうだった
発車時刻三分前の光と影を胸に宿す
今にも泣きだしそうだ
死んだら会えないからねと念を押す青いアネモネの
湖畔に降る雨景色を眺めていた
新幹線がゆっくりと動きだす
遠のく青いアネモネの微笑み
遠のく青いアネモネの手のひら
遠のく青いアネモネのちいさなちいさな姿
また春になったらねと
てんとう虫ほどのなみだをこぼした

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