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高安よ、もう一度。

15日間にわたって開催された大相撲三月場所が幕を閉じた。

元大関の高安が優勝争いを引っ張り、その後ろを新関脇若隆景、大関御嶽海、平幕の琴ノ若などが追う展開だったが、最終的には新関脇若隆景が初めての優勝を飾った。 

館内のお客様やテレビを通じて観戦していた多くの大相撲ファンが、元大関の苦労人32歳の高安を応援していたのではないだろうか。元横綱の鶴竜も場所中のNHKの解説の席で「高安に期待したい」と公言していたほどだ。そして何よりも私自身が高安の初優勝を切に願っていた。

そんな心境だっただけに、千秋楽の本割で阿炎に負けた瞬間は残念極まりない気持ちであった。成績が芳しくない阿炎だっただけに、なお一層勿体なかったように感じる。

結果的に若隆景も結びの一番で大関正代に敗れ、高安と若隆景が12勝3敗で並び、両者による優勝決定戦にもつれ込んだ。高安、若隆景とも優勝に直結する大一番に敗れたことになる。やはり両者とも体が硬くなってしまっていたのか。

一旦優勝が遠ざかったかのように見えた高安の敗戦であったが、若隆景の敗戦により再び賜杯を手にするチャンスが訪れた。

いつになく気合の入った様子の高安。時間一杯を迎え、珍しく館内に響き渡るほどの大きな声を高安が発した。その声に館内のお客様も驚き、それと同時に館内の雰囲気は一段と高まった。

両者の気迫のこもった取り組みは、実に素晴らしい一番であった。両者の気持ちがぶつかり合い、見ていて実に気持ちが良かった。両者一歩も引かない展開であったが、一瞬高安が若隆景を土俵際まで追い詰めた。その瞬間高安の初優勝が決まったかのように見えた。しかし、である。類稀なるその強靭で柔軟な足腰で若隆景は土俵の中に体を残し、反面体が崩れた高安が惜しくも先に土俵に手をついた。

三月場所の賜杯は、高安の目の前まで来ていた。しかし、するりと高安の手の中を通り過ぎ、若き大関候補の手にその賜杯は収まった。

私は高安を応援していたが、若隆景自身は本当に素晴らしい力士である。実力の面では本当に申し分ない。横綱になってもおかしくない逸材であろう。

しかし、今回に限っては高安が優勝出来ず実に残念であった。実力は充分な高安である。状態の良さをキープし、次にやって来たチャンスは確実に物にして欲しい。

高安よ、もう一度夢を見させてくれ。


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