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映画レビュー『グリーンブック』

基本情報

監督

ピーターファレリー
『メリーに首ったけ』(1998年)
『Mr.ダマー』シリーズ

主要登場人物

トニー・"リップ"・ヴァレロンガ(役:ヴィゴ・モーテンセン)

ドクター・ドナルド・シャーリー(役:マハーシャラ・アリ)

感想

 人種差別的な考えを持つ粗暴な田舎者トニーと、黒人で同性愛者でありながらも非常に高尚な文化的生活を送る天才ピアニストのドクター・シャーリーの旅を通して当時の人種差別を描く作品です。なんと実話ベースに作られたとのこと。

「そうだ。私は城に住んでる。孤独にな!金持ちの白人たちは私のピアノを聞くために金を払う。文化人だと感じたくて。だけどすぐに俺はステージから降り、他のニガーと同じ扱いをされる。それが白人たちの本当の文化だからだ。私は自分の同胞たちにも受け入れてもらえず、1人で耐えるんだ。黒人でもなく、白人でもなく、それに男でもない。教えてくれ、トニー。私はいったい何者なんだ?」

 一番印象に残っているのはやはりこのセリフです。当時の黒人差別の状況について詳しいわけではないのですが、少なくとも映画の中で描写されている黒人たちは、差別を当然受けつつも連帯しているような印象がありました。しかしドン・シャーリーは黒人でありながらも黒人文化に馴染むことができず、アイデンティティについて非常に深く悩んでいたことがこのセリフから分かります。そのうえで

「世界は、最初の一歩を踏み出すのが怖い、孤独な連中であふれてる」

というトニーのセリフはドン・シャーリーにとって救いになったのではないかと思いました。

 この映画の良いところは人種差別問題を取り扱っているにもかかわらずシリアスになりすぎずコミカルに描かれている点にあると思います。特にトニーの阿保さとドン・シャーリーの品位の対比がよく活かされていると感じました。フライドチキンを手渡しして食べるシーンもほとんどコントでした。  
 しかし直接的な差別描写も盛り込んでいるので映画全体としては非常にバランスの良いものになっています。

 少し懸念があるとするならば、この映画はあくまでドン・シャーリーという上流階級の黒人が受けた差別の話であって、これを南部にいる労働者階級の黒人に適用してはいけないことを観客が理解できるかということです。(特に日本人)
 実際はもっと惨いものであるはずで、この映画だけで差別を知った気にならないように注意が必要であると思います。あくまでもドキュメンタリー的に受け取るべき作品で、一般化不可能なものです。

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