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ゲストハウスなんくる荘12 弟のLINE

あらすじ:那覇にあるゲストハウス・なんくる荘にやってきた未夏子。気ままに生きる彼女は、次第になんくる荘の長期滞在者たちと打ち解けていく。

前回まではこちらから読めます。


ひきこもり始めて一週間目、まどかちゃんは午前中に出かけていき、夕方に帰ってきた。

「ただいま」

リビングでまどかちゃんの顔を見るのはすごく久しぶりな感じがする。

「おかえり」

リビングには、あたしとマナブさんとアキバさんがいた。残念ながらヒロキ君はもうバイトへ出かけてしまっている。

まどかちゃんがいる。

つい一週間前まで当たり前だったことなのに、今はまどかちゃんがそこにいることを強く意識してしまう。仲直りのあとのような、気恥ずかしいようなむずがゆいような気分。きっと、マナブさんもアキバさんも同じだろう。

「あのね、店長にちゃんと言ってきた」

まどかちゃんは籐椅子に座る。

「バイト先の人たちに悪口言われて辛くて、ズル休みしちゃいました、って。ズル休みしたからクビになってもしかたないけど、あたしは辞めたくないです、って言った」

窓越しの西日のぬくもりを、ビキニの背中に感じる。さっきまでは照りつけるようだった陽射しが、今はじんわりとリビングを包みこんでいた。

「ちゃんと言えてえらいね」

そう言うと、まどかちゃんは照れたように笑った。マナブさんのような笑い方だ。いつものまどかちゃんほどの天真爛漫ではないけど、それでもこの一週間とは比べ物にならないほど元気になっている。

明るいうちだけ開けっ放しにしている玄関から、ネコンチュが入ってきた。その口に、なにか黒いものを咥えているのが見える。

「まどかちゃん! 逃げて!」

思わず叫ぶ。

「え!? 何?」

思ったとおり、ネコンチュは咥えていたゴキブリを床に置き、逃げようとダッシュするゴキブリを前足で捕まえては放し、放してはまた捕まえるというえげつない遊びを始めた。まどかちゃんがひきこもっている間にネコンチュが覚えた遊びだ。

まどかちゃんが悲鳴をあげ、籐椅子の上に立つ。そんなところに立っても逃げたことにはならないのに。

ネコンチュが前足で押さえつけているゴキブリを、ネコンチュの前足ごと手のひらで叩いた。ネコンチュが「ふぎゃ!」と声をあげて逃げていく。つぶれたゴキブリはまだ足だけ動いていた。ティッシュでくるんでもう一度握りつぶし、ゴミ箱に捨てた。

振り向くと、まどかちゃんもアキバさんもマナブさんも、魂を抜かれたような顔であたしを見ていた。

「ミカコちゃんって怖いものないでしょ」

まどかちゃんが少しだけ羨ましそうに呟いた。

海でひと泳ぎしてから部屋に戻ると、シャワールームから水音がしていた。まどかちゃんが使っているのだろう。

スマホを見ると、めずらしくLINEの通知。開くと、弟の陸生からLINEが来ていた。とても久しぶりだ。

「昨日、広治さんとこに赤ちゃん生まれた
女の子
名前は希良里
すげー可愛かった」

しわしわのあかちゃんの画像。

「美希はこないだ4ヶ月に入った
検診で順調って言われてる
つわり辛そうだけど」

「式は来月の18日だから
いいかげん返事して
レストランの人に早く人数教えてくださいって言われてる」

「かーちゃんの電話たまには出てやって
心配してる
姉ちゃんがどこにいてもいいけどたまには電話してやれ」

陸生は家族思いだけど、それにしてもこんなに説教くさいLINEをするやつだっただろうか。

返信しようと画面を見ていると、バスルームからまどかちゃんが出てきた。

「お待たせー。ミカコちゃん使っていいよー」

「いいや、あたし」

スマホを枕元に放り投げて、ビキニのまま、バスタオルを持って部屋を出た。

もう一度、海へ行こう。



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