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ピンキリのピンのほうの思い出が欲しかった

思考のマイブームがあるのだけど、4月はよく「恋愛の思い出が欲しかったこと」について考えていた。

理由は単純で、綿矢りささんの『ひらいて』を読んだからだ。読了直後から、恋とは何かを考え続けている。

また、前も書いたけれど3月4月は恋愛中(もしくは失恋中)の人に会う機会が多く、見ていたら羨ましくなった。ないものねだり癖だ。

「いい恋をしてみたかった」

私がそう言うと、3つ年上のテモヤンは大げさに目を丸くする。

「サキさん、Kさんと結婚する前に恋愛経験ないの?」

Kさんとは夫のことだ。

「恋愛経験はあるけど、ピンキリのキリみたいな恋ばっかだったんだよ。そうじゃなくて、ピンの恋をしてみたかった」

私は23歳のときに夫と出会ったのだけど、それ以前に何人かの人と付き合った。

しかしどの恋愛でも、お互いに好き好き言ってるわりに、まったく相手を尊重できていなかった。なんていうか、ドンキホーテに売ってそうなチープさだ。

相手は「この人は別に私のことが好きなわけじゃなくて、彼女が欲しいだけなんだろうな」と感じる人ばかりだったし、私も、自己評価の低さから「私なんかに告白してくれた!」というだけで付き合っちゃうので、相手のことを心から好きなわけではない。

付き合ってるうちに好きになれるかも……と淡い期待を抱いても、お互いにたいして好きでもない者同士が「恋人欲しい」という動機だけで一緒にいるので、イラっとすることばかりですぐに別れてしまう。

一度だけ苛烈にハマった恋もあったけど、端的に言えばメンヘラ同士の共依存で、ロクなもんじゃなかった。

相手をひとりの人間として尊重し、長く付き合える関係を築いたのは、私にとって夫が最初だ。初恋じゃないけど、初のピン恋。

「尊重かぁ。そんなこと言ったら、私だってそんな恋愛したことないかも。っていうか、今もできてるのかどうか……」

ミスドのカップを手に、テモヤンは表情をくるくる変える。大丈夫、テモヤンは十分に彼のことを尊重してると思うよ。

ピンの恋愛経験をひとつしか持たずに結婚した私は、ときたま愕然とする。

「私の人生における恋愛はこれですべてなのか」と。

私は夫と添い遂げることを望んでいるので、望みが叶えば、私の人生においてもう恋愛の思い出が増えることはない。

ということは、私の恋愛経験は今出揃ってるものがすべてだ。心の宝石箱に宝石が1個しかなく、あとは錆びた時代遅れのプチプラアクセがごちゃごちゃと入っているようなもの。

ザッツオール!? マジで!?

そう言うと、テモヤンは「ピンが1個あるだけでもマシじゃない? ない人もいっぱいいると思うよ」と慰めてくれる。

「他人が持ってるかどうかは関係ないよ。みんなが持ってなかったとしても、私は欲しいんだよ。私は強欲だからさ、ないものねだりする癖がある」

私が言うと、テモヤンは笑いながら

「私は強欲だって言える人、いいね。清々しい」

と言ってくれた。

長くなりそうなので明日に続きます。




あと3分なにか読みたい気分の方はこちらをどうぞ。働き方についての記事です。




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