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大人だって

太陽が反射してきらきら輝く水面に、小さな波紋ができる。

手ごたえ。動揺しながら釣竿を上げると、つやつやしたイワナがかかっていた。

「ママすげぇ!」

息子が駆け寄ってくる。

イワナを掴むと、手の中で暴れた。思わず「きゃあ」と声が出る。何度も魚を調理してきたのに、そういえば生きている魚を触るのは初めてだ。

釣り針を外すのに苦戦していると、夫が「こうやるんだよ」と針を外してくれた。イワナを網に入れ、網ごと水中に戻す。

「オレも負けねぇ!」

なかなか釣れずに飽きはじめていた息子が、釣竿を握りなおして岩にあぐらをかく。

「ママも負けないもんねー」

釣り針に新たな餌をつけ、渓流に放った。

陽射しが暖かく、額に汗がにじむ。水音に耳を澄ませながら、楽しい気持ちが湧き上がってくるのを感じていた。

都会育ちの息子に楽しんでほしくて来たのに、いつの間にか、私が楽しんでいる。

いいのかな、大人なのに。

……いいに決まってるよね。



#旅する日本語 #大童

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吉玉サキ

ライター・エッセイスト/著書『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』http://urx2.nu/Vmkr webメディア・雑誌で執筆中/有料記事は知人に読まれたくないだけで有益な情報とかじゃないです/お仕事のご相談はsaki.yoshidama@gmail.com

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