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原子・元素・原子核

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原子・元素・原子核に関わるテーマについて考えたり、学んだことを書いた記事をまとめています。
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現代の「錬金術」:宇宙元素合成

人類は金(Au)という物質に魅了されてしまう。「金(Au)を生み出したい」という欲望に搔き立てたれた中世の錬金術師たちは、様々な試みにより化学を発展させた。しかし、化学反応しか扱えなかった彼らの野望は儚くも散ってしまう。 結局、僕たち人類は、地球のどこかに埋まっている金(Au)の鉱石を掘り当て、精錬することを続けるしかなかった。 金(Au)は地球のどこかに埋まっている。しかし、そもそも、その金(Au)はどのように生まれたのだろうか。錬金術師ではない何かが、過去に、金(Au

現代の「錬金術」:放射性廃棄物の核変換

日本は(現在のところ)高レベル放射性廃棄物(HLW: High-Level Radioactive Waste)を地層処分する方針だ。しかし、処分地選定は足踏み状態にある。 処分場の建設が技術的には可能であるにも関わらず、前進できていない理由は、地層処分への信頼不足や選定プロセスの問題からきている。この現状は、地層処分を含むHLWの処分問題が科学技術のみでは解決できないことを物語っている。 さて、これまでの原子力発電の利用によりHLWはすでに存在している。よって、この問題

現代の「錬金術」:言葉に付け加わる新たな意味

時の流れと共に、言葉に新たな意味が付け加わることは稀ではない。今回取り上げる「錬金術」もその一つだ。 「錬金術」は元々、中世ヨーロッパなどで行われていた試みのことを指していた。この試みは研究というよりは、儀式の要素が強かったとも聞く。ちなみに、あのアイザック・ニュートンも熱狂していたことが伝えられている。 結局、彼らの「卑金属から貴金属を生み出す」という野望は叶わなかった。それはひとえに彼らが化学反応しか扱えなかったことによる。 原子核反応でしか元素は変化しない化学反応

太陽系の元素組成から垣間見る原子核の構造

原子核は「陽子と中性子の集合体」だ。その集合体が生み出す性質はとても豊かで、かつ、まだまだ謎に包まれている。原子核の「構造」の重要性は太陽系の元素組成からも垣間見ることができる。 さて、私たちの住む太陽系はどのような元素でできているのか。太陽光や隕石などの分析によって、それは明らかにされている。 上図は太陽系の元素組成を表したグラフだ。縦軸が各元素の割合を示し、横軸が原子番号(つまり元素)を表している。 グラフの特徴からは、原子核が“単なる”陽子と中性子の集合体ではない

原子核反応を使えば新しい元素をつくることもできる

原子核反応を使えば、陽子の数(原子番号)を変えることもできる。それは、元素を変えることに相当する。つまり、ある元素から、別の元素を作ることができるのだ。 例えば、43番元素テクネチウム(Tc)や61番元素プロメチウム(Pm)は原子核反応を通して人工的に合成し発見された元素だ。このように、原子核反応を使って、未知の元素を発見することもできる。 2016年に、以下の四つの新元素が国際的に認定され、元素周期表に載ることが決まった。 「113番元素」→ Nihonium「Nh」

陽子の数を変えれば元素も変わる

元素の名前は陽子の数(原子番号)で指定される。ということは、陽子の数を変えることができれば、元素を変えることができることになる。これはいわば、ある元素から別の元素を生み出す〈錬金術〉とも言える。 その〈錬金術〉を可能にするのが、原子核反応だ。以下の式は、人類史上初の人工的に行われた原子核反応だ。アーネスト・ラザフォード博士(1871~1937)らの研究グループによって、1919年に成された。 彼らは、窒素14の原子核(14N)にヘリウム4の原子核(4He:α粒子とも呼ばれ

原子核で元素を読み解く

水素(H)、ヘリウム(He)、ニホニウム(Nh)...このような元素の分類は原子核で決まっている。 原子核には、陽子と中性子、という二つの構成要素がある。図の左は、炭素(C)を例にした原子核の概念図だ。図の右には、元素記号を用いた原子核の表示例を示してある。 元素の名前は原子番号に対応している。そして、その原子番号の正体は陽子の数だ。今の場合、陽子が6個あるので、炭素(C)となる。 陽子が1個(原子番号が1)は水素(H)、陽子が2個(原子番号が2)はヘリウム(He)、陽

元素周期表は陽子の数が少ない順に並んでいる

スイヘー、リーベー、ボクノフネ…。1番が水素(H)、2番がヘリウム(He)、3番がリチウム(Li)…といった具合に、周期表に並ぶ元素には“順番”がある。この順番はどのように決められているのか? 元素の順番は原子番号と呼ばれる。元素とは原子の種類なので、納得の名称だ。原子番号はいわば、元素の背番号と言えるだろう。「1番は水素」「2番はヘリウム」と決まっているのだ。 この原子番号の正体は、陽子の数だ。陽子とは、原子の中心にある原子核の構成要素の一つだ。原子核は陽子と中性子の集

原子核はなぜまとまっているのか?

原子の中心には原子核がある。原子核にはさらに構成要素がある。陽子(ようし)と中性子(ちゅうせいし)だ。まとめて、核子(かくし)と呼ばれたりもする。 原子核の大きさは、おおよそ10 fm(フェムトメートル)。他方で核子は、だいたい1 fm。とてつもなく小さな存在だ。下図には、原子核と核子(陽子と中性子)の概念図を示してある。 陽子と中性子はとても似ており、その大きさや重さも瓜二つ。ただし、似ていない点もある。それは電気的な性質だ。陽子はプラスの電気(+1)を帯びているが、中

原子はどのくらい小さいのか?

私たちも、ミミズもオケラもアメンボも、身の周りのものは全て、原子からできている。しかし、原子はとても小さな存在なため、肉眼では到底見えない。では、原子はどのくらい小さいのだろうか。 髪の毛の断面を100万分割すると、だいたい原子1個分になる原子の大きさ(直径)はおおよそ0.1 nm。「nm」は「ナノメートル」と読む。“ナノ”は「ナノテクノロジー」などの“ナノ”だ。 “ナノ”はどの程度小さいのだろうか。髪の毛を例に考えてみる。髪の毛の太さは、だいたい0.1 mm(ミリメート

実験と理論で探る原子の姿

原子の中心には原子核があり、その周りに電子が存在している。しかし、原子はとても小さく、肉眼では到底見ることができない。 ではなぜ、そのような原子の姿が分かるのだろうか。原子の姿を見破った研究が行われた時代にさかのぼってみたい。 原子の中心にはとても小さな“核”がある20世紀が始まった頃。アーネスト・ラザフォード博士(1871~1937)の研究グループは驚くべき実験結果を得た(1909年)。 それは、プラスの電気を持ったα粒子を原子に照射すると、たまに跳ね返されてくる、と

原子は原子核と電子からできている

身の周りの物質を細かく細かく見ていくと、原子(げんし)に辿り着く。つまり、物質は原子からできているのだ。その原子には種類があり、その種類は元素(げんそ)と呼ばれる。 下図には、炭素(C)という種類の原子(元素)から成るグラファイトを示した。この物質は、えんぴつの芯の材料でもある。グラファイトを細かく細かくした上で、電子顕微鏡というハイテク顕微鏡を使うと、原子の輪郭を写すことができる。 図の右端には、電子顕微鏡から読み取れる、グラファイトのイメージ図を示している。このイメー

化学反応とは原子の組み合わせの変化

物質を細かく細かく見ていくと、原子や分子に行きつく。つまりは、身の周りの物質は原子(元素)からできているのだ。 自然界においては複数個の原子が結合し、一つの分子として存在する。中には原子1個で分子として動いているものもあり、単原子分子と呼ばれる。 それら原子や分子を考えることで、化学反応も理解することができる。 原子の組み合わせを変える化学反応以下では、炭素が燃える、つまり、炭素と酸素が結合する化学反応を例に話を進めたい。下図は、その概念図だ。 図中の黒丸が酸素原子、

元素周期表はたまに“進化”する

元素とは原子の種類だ。すると、元素周期表は「原子の種類の一覧表」だと理解できる。では、原子の種類、つまり、元素は、何種類あるのだろうか。この疑問は、実のところ未だに謎に包まれている。 元素は今のところ118種類が知られているスイヘーリーベー、ボクノフネ、ナナマガリシップス… 元素周期表は水素(H)から始まる。現在、周期表に記載されている元素の数は118個に及ぶ。 「現在」と書いたのには、理由がある。元素は、たまに追加されるためである。例えば、112番元素「フレロビウム(