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読書感想文

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読んだ本や文章の感想を書いたものです。
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記事一覧

『まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション』(奥本素子・種村剛 著 共同文化社 2022)読書感想文

もはや私たちは科学技術なしでは生きられない。 とはいえ、科学技術との関わり方は人それぞれ違う。科学技術に対する感情や意見も人それぞれ違う。 例えば、「原子力発電は使わない方が良い?使った方が良い?」「新型コロナのワクチンは打った方が良い?打たない方が良い?」という質問への応答は人それぞれだろう。また、「科学技術って信頼できる?」「科学技術政策はどう進めたら良さそう?」といった質問への応答も人それぞれだろう。 「科学技術コミュニケーション」とは科学技術において、 取り組

『リーチ先生』(原田マハ 著 集英社文庫 2019)読書感想文

タイトルにもある「リーチ先生」こと、バーナード・リーチはイギリス人の陶芸家だ。若き日は東京に居を構え、創作活動に勤しんだ。柳宗悦や濱田庄司らとの親交も深かった。 本書は沖亀乃介・沖高市という陶工親子とリーチとの交流を描いた美術史小説である。主人公である沖親子はフィクションらしいが、リーチはもちろん、柳宗悦や濱田庄司といった実在の人物も多数登場する。 本書のメインは若き日の沖亀乃介(カメちゃん)の視点で描かれたリーチの半生である。亀乃介はひょんなことからリーチの弟子となり、

『なぜ科学者は平気でウソをつくのか』(小谷太郎 著 フォレスト出版 2021)読書感想文

今のところ、研究の世界は捏造などの研究不正(ウソ)と縁を切れていない。世間を騒がすような研究不正も登場する。そのような研究不正は元々、研究業界やマスコミを歓喜させる大発見だった。 本書は、常温核融合やSTAP細胞などの科学史に刻まれた研究不正について書かれた新書である。 研究不正は一時、大発見として取り沙汰されてしまう。しかしながら、後々、論文内の不可解な記述や追試の失敗などにより、各所から疑念が浮かび上がり、ウソであることが暴かれてしまう。 本書では、大発見として発表

『数学文章作法 基礎編・推敲編』(結城浩 著 筑摩書房 2013・2014)読書感想文

論理的でかつ平易な文章を書きたい。いつもそう思う。それはつまり、自らの考えや伝えたい情報を、相手に正確にかつ分かり易く伝えたい、という願望だ。今回のnote記事では、そのための指針を与えてくれる書籍『数学文章作法』を紹介したい。 『数学文章作法』に通底するテーマ今回紹介する『数学文章作法』は基礎編と推敲編の2冊から成る。以下ではそれぞれを『基礎編』『推敲編』と表す。また、2冊を合わせて指す場合は『数学文章作法』とする。 さて、『数学文章作法』には通底するテーマがある。それ

朝永振一郎「滞独日記」から学ぶこと

影響を受けた本は何冊かある。朝永振一郎 著・江沢洋 編『量子力学と私』に収録されている「滞独日記」もその一つだ。「滞独日記」はノーベル賞を受賞した物理学者・朝永振一郎博士のドイツ留学時代の日記だ。どこが好きなのかと言えば、ネガティブ発言のオンパレードなところだ。 例えば、「丁度自分一人とりのこされて人々がみな進んでいくような気持ちがするのである」「どうして自分はこう頭が悪いのだろう、などと中学生のなやみのようなものが湧いてくる」「世の人々のだれを見ても、自分より優れていると

『理系女性の人生設計ガイド』(大隅典子・大島まり・山本佳世子 著 講談社 2021)読書感想文

この本のタイトルおよび著者を見ると、「理系女性による理系女性のための本」という印象を持つ。メインターゲットは理系の女子学生や女性研究者なのだろうが、男性が読んでも学びが多い。それは、扱っている人生設計やキャリアアップというテーマが、男女双方に関わるものだからである。 この本は以下のような3部構成になっている。 第I部 先輩理系女性たちが歩んできた道 第II部 大学で、企業で。理系女性のさまざまな活躍の場所 第III部 2人の教授が現在・未来の理系女性を語る 第I部で

『集中力はいらない』(森博嗣 著 SBクリエイティブ 2018)読書感想文

この本は研究者(大学教員)であった森博嗣氏が考える思考法についての新書だ。様々なこと考え(思考を「分散」させ)、何らの着想を得て、その思考を「発散」させることの大切さが説かれている。 「研究者」というと何か一つのことを集中して考えているイメージもあるが、いつもそうではない。特に、新しい研究テーマを探っている段階や、何か解決したい課題の突破口を探っているときには、ことさら思考を「分散」させている(だろう)。森氏も研究者時代を以下のように回顧している。 さて、集中型の思考は大

『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』(菅野仁 著 筑摩書房 2008)読書感想文

お笑い芸人の又吉さんもテレビで紹介した本とのこと。購入したときは、書店のレジ近くに平積みされていた。 もちろん、僕がこの本を買った理由は「又吉さんもテレビで紹介した」「レジ近くに平積みされていた」からだけではない。僕も「友だち」だったり、人間関係に悩んだりするからである(大学院生のとき程ではないが…)。 「そうそう」と、うなずきながら、『友だち幻想』を読み進めると、心が救われる文章が多いことに気付く。例えば、以下だ。 まだまだ「社会経験」が十分でない僕は、こういう面が残

『みな、やっとの思いで坂をのぼる』(永野三智 著 ころから株式会社 2018)読書感想文

今回は『みな、やっとの思いで坂をのぼる』という本を紹介したい。この本には副題がある。「水俣病患者相談のいま」だ。そう、この本には、水俣病の“今”が描かれている。 著者である永野三智氏は水俣で生まれ育ったが、水俣病のある生活から目を背けるために別の土地へ逃げ移った過去を持つ。水俣病患者の知人に心無い言葉をかけてしまった経験も持つ。しかし、恩師が関わる水俣病訴訟をきっかけに、改めて、水俣病と向き合い、現在は財団法人 相思社の水俣病相談窓口を担当されている。その法人は坂の上にある

『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』(エリック・シュミットほか 著・土方奈美 訳 日本経済新聞出版 2017)読書感想文

クリエイティブな仕事ができる人材が社会から求められている。 「クリエイティブ」という言葉から連想するものの一つに「GAFA」がある。それらの企業のリーダーたちやそこで活躍するエンジニアは、さぞかし「クリエイティブ」なのだろう、と思ったりする。 「GAFA」の一角であるGoogleについて書かれた本『How Google Works:私たちの働き方とマネジメント』が積読状態だったので、読んでみた。 スライドの使い方やメールの書き方、会議の運営方法など、Tipsのようなもの

『原子力の哲学』(戸谷洋志 著 集英社 2020)読書感想文

以前、戸谷洋志氏の著書『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』を読んだことがあった。彼が哲学者であり、原子力も一つの研究対象としていることも知っていた。そんな戸谷氏が『原子力の哲学』という新書を上梓したと知ったので、読んでみた。 本書では、ハイデガー、ヤスパース、アンダース、アーレント、ヨナス、デリタ、デュピュイ、という7人の哲学者の原子力に対する思想が紹介されている。ここで言う、「原子力」には核兵器だけでなく、原子力発電も含まれている。 我々のような哲学の非

『伝わる英語表現』(長部三郎 著 岩波書店 2001)読書感想文

英語に対する苦手意識は中学生の頃から持ち続けている。一方で、もっと英語が分かる・話せるようになりたいな、という気持ちもある。そんな背景から、英語の勉強しようかな、と思うときがたまにある。 先日、久しぶりに書店をぶらぶらしていたら、この本が目に留まった。 本書のおおまかな目次は以下の通り。 ・序章 ・第1章:英語と日本語の違い ・第2章:日本語は名詞、英語は動詞 ・第3章:日本語は抽象的、英語は具体的 ・第4章:「一字一文」の原則 ・第5章:英語の構造と日本語 ・終章

『探求する精神』(大栗博司 著 幻冬舎 2021)読書感想文

大栗博司氏の著書は、『強い力と弱い力』や『大栗先生の超弦理論入門』など、これまでにも何冊か読んだことがあった。その度にいつも「なるほどなぁ」と学びながら、「学界をリードする研究者であり、かつ、こんな文章を書けるなんて、スーパーマンだな」などと思っていた。そんな大栗氏の新刊ということで、本書を手に取った。 本書は、大栗氏が半生を振り返りながら、研究や科学、大学や教育などについて自身の考えを記したものである。なので本書は大栗氏の回顧録のようなものでもある。バリバリ現役の彼がなぜ

『物理学者のすごい思考法』(橋本幸士 著 集英社 2021)読書感想文

本書は理論物理学者である橋本幸士氏によるエッセイ集である。彼の日常、そして、その日常を彼がどんな視点で見ているのかが記されている。それぞれのエッセイからは、彼が理論物理学者の眼で世界をどう捉えているのかが垣間見られる。 本書に描かれている橋本氏の日常には、大きく二つあると感じた。 まず一つは、家庭での日常。つまりは、夫や父親としての橋本氏の日常。もう一つは研究者コミュニティでの日常。つまりは、物理学者としての橋本氏の日常だ。 家庭での日常に関わる話題では、ギョーザの皮が