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【詩】欠損した身体器官の痛み

透き通った球体を覗き込むと
アストラルの靄の向こうから
ふたりの人物のシルエットが
浮かび上がってくる

棕櫚の木のある
赤褐色の乾いた土地で
ローブに身を包んだ女が
同じく重たいローブを着た
年配の男性になにかを手渡している

よくよく目を凝らしていると
手渡しているのは
まだ幼い乳飲み子だ

男に赤ん坊を託すということは
この子どもとの永遠の別れを
意味しているようだ
こころの中に
彼女の思念が流れ込んでくる
胸が張り裂けんばかりの
痛みを感じている

なにか余程の事情があってのこと
自分のもとに置いていては
赤ん坊の命が危ないのだ
身を切られるような思いで
彼女は大切な赤ん坊を手渡す
生き延びてほしいと願いながら

スクライングでいつか見た光景が
何気なく映画を見ているときに
フラッシュバックした
赤ちゃんを捨てようとする母親が
愛情を持って育ててくれそうな
里親を見つけるシーンで

スクリーンの母親は
我が子を養母に手渡した後
自分の乳房をおさえる
単なる悲しみの表現というより
与えられることのない
母乳で胸が張る痛みを
ありありと感じた

わたしにはすでに切除されて
両方の乳房がない
物理的にない身体器官の
張りと痛みを感じるということ

スクライングで見たものは
たましいの遠い記憶か
あるいは集合的無意識の情報か
意識のずっと深いところで
わたしはそれを知っているようだった

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