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私小説『現代史』 1.父の絵

まえがき

覚えていることがどんどん減ってくる。日々起きていることは直ぐに忘れる。新しいことを覚えるのがもっと難しくなってきた。それに比べれば、遠い昔のことの方がまだましだ。妙に細部まで覚えていることがある。

と最近まで楽観していた。しかし、そんなこともどんどん忘れ始めていることに気が付き始めた。やがて、こうやってすべての記憶は白紙になり、一つの生命が永遠の時間の中に消えていくのだろうと思うと、特に異常なことが起きているわけではないと思う。自然の通常運行。

思い出すというのは面白いことだと思い始める。遠い昔の自分が大きな地平の中の、長い時間の流れの中の小さな一点として見える。それを見つめている自分が今いる。その時は、その場を離れることによってしか見えないものがあることはどんなに想像しても知ることはできない。そういう同時代には決して見えないTime and Space を現代史と呼べばどうだろう?そして、その中の無数の登場人物の内面を知ることができる人間が、一人は確実にいる。

私的な、小さな、一つの説としての現代史を書くことはできないだろうか、そう思って書き始めるのが、この私小説『現代史』です。

1.父の絵


父はたくさんの絵を残して他界した。その絵を整理もせず、ガサっと束ねて置いたまま9年も経ってしまった。生きている時も死んでからも親不孝者だ。

何枚か額に入れてみようと思って父の描いた絵を全て広げて見ると、知らない世界が開かれたような気分になった。

写真1


いったいこれはどこで描いたのだろう?いや、何を思ってこれを描いていたのだろうと一枚一枚見て考えてしまう。日本にいる学生時代はほとんど父とは喋らず、海外で生活を始めてからはほとんど帰国せず、常に遠い存在のままだった。今となっては、どういう人生だったのか想像するしかない。

写真2

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