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【第42話】イノシシの脂でハンドクリームをつくってみた

ふつう飲食店の洗いものなんてしていたら、手が荒れるはず。でも「猪骨ラーメン」の裏方をやっていると、不思議と手がカサつかない。もしかしたらイノシシの脂がよいのでは…! ということで、猪脂でハンドクリームなぞ作ってみることにしました。猟師の奥さんとかは、たまに使っています。最近では、害獣活用の一手としても注目されているみたい。

取り急ぎ、第一回試作メモ。手順ごとにいきます。

1.内臓脂をゲットする

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クリームを試作してみたいと言ったら、「しまなみイノシシ活用隊」のボスがストックを1袋分けてくれた。ありがとうございます。

内臓についている脂は、冬によくとれる。きれいなピンク色じゃー。冷凍。1キロよりもっとありそうな。

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もったいないのでチビチビ使うことに。134gがどこまでクリームに化けるか?

2.香料を用意する

当たり前といえば当たり前なんだけど、獣の脂は(うっすらながら)獣の匂いがする。業者さんだと「脱臭」という工程があるらしく、そこがキモみたい。だがウチには特殊な機械もないので、「マイナスの美学」ではなく「プラスのチカラ技」で乗り切る。

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匂いは引くんじゃない、足すんだ! 今回は3種類を試作してみよう。

A  香りの素材を足さないプレーン仕様

B 猪オイルの抽出後に、市販のアロマオイルを足したもの(家にあったローズウッド系ブレンドオイル)

C 香り系ハーブの雄「ローズマリー」と一緒に煮出したもの(庭に生えていたものをちょん切ってきた)

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溶けやすいように、角切りにしてみた。

3.脂を湯煎する

ネットでググると、抽出の方法は「フライパンなどで直火派」が多いみたいだが、焦げつきが心配なのでガラス瓶に入れて湯煎する。

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勇ましく出陣した三人(瓶)だが……

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2時間たってもあまり溶けてない! ムキーッ!!

しかしかき混ぜてみると、瓶の底には透明なオイルがそれなりにたまっている。よかった。

シカやアナグマと比べて、ブタの脂は融点が低い。で、イノシシはそれよりさらに低い温度で溶ける。ある論文を見たら、「ブタが30~34℃、イノシシが28~30℃」と書いてあった。イノシシの焼肉やチャーシューは、脂の口どけがいいような気がしていたのだが、そういうことだったのか。クリームを手に塗った時にも、きっと体温ですぐ溶けよくのびるはず。

4.濾して不純物を取り除く

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三角コーナー用のネットをろうとにかぶせて濾した。

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湯煎すると、やっぱり色もきれいだ。

右から、A(プレーン)、B(アロマ垂らし)、C(ローズマリー)の順。ローズマリーは緑色が移っている。計ったら、合計で約60gだった。

5.残りの脂肪を直火にかける

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かなりの脂肪が溶け残っていたので、禁じ手にしていた「直火」を決行。残りのローズマリーもたっぷり入れて。

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5分もしないうちに、大量に溶け出すオイル。湯煎の苦労はなんだったのか。あたりに充満する香ばしい匂い、じゅうじゅうと脂肪が焦げる音。完全に街の中華料理店だ。

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濾したオイルも琥珀色ですね。揚げ物した後の残り油にも似ている。

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容器の重さをひくと、ぜんぶで90gぐらいは取れたんじゃないだろうか。歩留まり67%なら、まずまずだ。

6.固まるまで冷ます

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これでだいたい出来上がり。

匂いを嗅いでみたら、一番よかったのが「B」のアロマ。オイルは、シトラス系の軽めの香りより、ウッド系など重めのほうが合うかも。

匂いがきつかったのが直火の「D」。臭いってわけじゃないんだけど、完全にラードとか中華料理店の厨房……酸化した脂の匂いですね。冷えて固まったら、若干薄くなったけど。

プレーンの「A」にも油の匂いはあるが、気になるほどじゃない。「C」のローズマリーは好き嫌い分かれるかな。あれはやっぱり熱が通るより、ナマの香りがいいと思うの。

まぁいろいろ書きましたが、塗ったときの感触はかなりいいです。

冷めてから指ですくってみると、指先でじわっとオイルが溶けるのを感じる。手の甲にのばすと体温でゆるくなり、さらにスルーっと馴染んでいく。あとはしっとりさらさら。安定の潤い感でございます。

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ってな話を軽くしたら、わが島のアロマ大王さまが、一緒に試作しようと誘ってくれた。自ら育てたレモンや柑橘でアロマオイルをつくっている、香りとオイルのプロですよ。さて、猪クリームがどう進化するか? 柑橘と猪の香りはどう調和するのか? 楽しみ。


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