ありむかで

【第11話】カルチャーショック備忘録・完

 夫はイノシシの解体を習いに、下界に出かけてしまいました。そんな夜にピッタリの話題です。田舎暮らしカルチャーショック、最終章。

③ここは「動物たちの歌舞伎町」である

 大三島の人口は約7000人。島ポテンシャルとして多いんだか少ないんだか分からんが、一つ言えることは「人間より動物の方が圧倒的に多い」ということ。自分が寝起きする場所でほぼ24時間、常になにかしらの生き物が幅をきかせている。鳥の盛大すぎるおしゃべり(ウグイス聞き放題/ツバメも蠅みたいにたくさん飛んでる)、動物の足音。ニンゲンなんてちっぽけな脇役に過ぎないことを毎日思い知らされる。そう、ここは動物たちの眠らない街、歌舞伎町なのであった。

■イノシシ一家

 例えば、家の横にある竹藪からは毎晩イノシシの声がする。竹をバキッ、バキバキと踏み倒す音。あまりの重量感に、最初は茂みの奥で力士が極秘特訓でもしてるんじゃないかと思ったほどだ。ここ1週間ぐらいは鼻を鳴らすフゴフゴ音の種類が増え、どうやら子どもが加わったらしい。姿は見てみたい、でも襲われたり畑を荒らされるのはイヤ! というわけで、私としては玄関先をうろつきながらも、時折大声で「ショーッ!」などと、変質者顔負けの威嚇をすることになる。

■切ない野犬

 犬もスゲェですよ。もう人間とは何代も交流していないような野犬。ちょっと話はそれるけど、この島では毎日、朝昼夕に小学校みたいなチャイムが鳴るんですね。時報代わりなのかな。昼の12時、夕方5時はまだよしとして、朝はなんと6時という「さわやかな拷問」サービスなのだが、この鐘の音が野犬たちのパッションを揺さぶるらしく……。山という山から遠吠えの大合唱。え、こんなに潜んでたの??と引くような数だ。「ゥオ~ン、オ~ン」「キャーン」「バオーーッ」など、歩いて行ける範囲に数十頭はいるよね。確実に。

 ちなみに彼らには縄張りがあるらしく、我が家は白いブチ犬(ガリガリ but 巨乳)の管轄下であった。しょっちゅう見回りに来るのだが、エサをねだるわけでも吠えて威嚇するワケでもない。困ったような顔でしばらく立ちすくむだけ。私が一歩でも前進すれば、彼女はジグザグに走って逃げる。本当に野生なんですね……。きっと赤ちゃんの分まで養分摂りたいんだろう。食べ物あげたくなるけど、それはきっと越えてはならない壁。毛羽立ってあばらが出そうな彼女の後姿を見送りながら、何とも言えない気分になるのだった。

 まだまだ書きたいんですが、たくさんありすぎて徹夜になっちゃいそうなので、タイムテーブルにしてまとめます。いかにヤツらの顔色伺って生活してるかってことがよく分かりますな。

6:00 野良犬大合唱 …… 島内放送のチャイムにより誘発。一度起こされるがなんとか二度寝。

9:30 ハチたちが出勤 …… クマバチ、アナバチ、スズメバチ、ミツバチ、アシナガバチなど、日本のハチ・オールスター。家の周りをブイブイ飛び回るので、洗濯物はそれまでに干す終えるのがベター。

 一番キャラが立っているのは、クマバチ。でかい黒豆に羽が生えているような風貌だが、派手な羽音の割に結構温厚な「おっとり系」なのだ。至近距離でばったり遭遇しても「ん?」という感じで一瞬観察されてそれっきり。しかし土手沿いの道路では、オスたちが5m間隔でホバリングしているので、自転車で通る際にはシューティングゲームの要領で避けながら進まなければならない。調べたところ、ここはクマバチのナンパスポットのようで、どうやら交尾相手を探しているらしい。基本、人間は無視。ぶつかりそうになっても「おいおい、邪魔だなぁ」と避けてくれる。

16:30 ハチ、帰巣。この時間帯は「昼の生き物」と「夜の生き物」がスイッチする空白時間だ。心置きなく外に出て、人間サマの天下を満喫する。

17:30 夜の生き物、そろそろ出動? …… 夜になるとヤモリやムカデが活動を始めるので、日没までに大急ぎで洗濯物を取り込む。じゃないとパーカーのフードやズボンのポケットを宿泊施設にされちゃうよ! ムカデに噛まれると場合によっては死ぬこともあるらしい。

  家にも出る、薬剤撒いても隙間ふさいでも出る……て、ハイ! たった今出たーーーっ!! 

 まさに私が座っているこのパソコンの上ですよ。全長10センチ、ボディ幅1センチ(足除く)。見よ、この生命力みなぎる艶を! 速攻「虫コロリアース」(パウダースプレー)で退治。おそらく土壁の隙間から侵入したものと考えられるので、家中の隙間に今スプレーしてきた。

 部屋中に毒ガス充満してるが、窓開けると外からの侵入者が怖いので、私も一緒にゆるく殺されることにした。若干肺が苦しい、なう。都会には都会の、田舎には田舎の切実な恐怖がある。それを思い知った、なう。

 一番怖いのは寝ているときだ。アウトオブ意識。布団に入ってきたときのことを考えると、頭が冴えすぎちゃって一昨日は1時間しか寝られなかった。そんなときの強い味方として、通販ではテント式の蚊帳が売っている。上の空間だけじゃなく、下の床部分にも結界を張ってくれる強い味方。「ムカデ 蚊帳」と検索しただけで仰山出てくるし数万円代のもあるから、それだけ出してもムカデから逃れたい人は多いに違いない。ムカデビジネスのパイは大きいのだ。きっと。

 ムカデ・パンデミック真っ最中なので、イノシシについて考えらんなくなっちゃったけど……

23:00 イノシシが竹藪で力士状態

 あー、今はどうでもいい! とりあえず蚊帳だ、蚊帳を買わなきゃ!!

                              (続く)


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