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『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』第11章能力開発【371】

 時代の変化に合わせた学校を作るために必要な考え方や実践方法を学んでいます。これまで、教室、学校という視点に分けて紹介されたいろんなアプローチについてまとめてきました。

 今回の第11章では、教員の能力開発についての考えがまとめられています。教員が現場に出るまでの教職課程、そして現場に出てから学び続け教員としてのスキルを磨くために必要な考え方や実践について学んだことをまとめておきたいと思います。

形骸化する教員研修からの脱却

 この章では初めに、教員研修についての問題提起から始まります。今日の教員研修は一過性のものがあまりにも多く、教員の既存の知識や直面する問題について考え、それを改善するための内省的なものになっていません。そのためには、継続的に学び協力することが必要です。

 一過性の研修を脱し、生成的な研修を実現するためには、学校が直面する本当の課題に目を向け、現場と研修の場を行き来するような学びの空間になっていること(バックホーム・プランニング)、管理職や保護者などとのつながりを持って進めることができればより良いとされています。

正解主義からの脱却

 最新の認知科学によると、より正確なメンタル・モデルがあれば、子どものことを一つのシステムと見なし、その中でさまざまな要素が子どもの学習に影響し合っていると理解できるようになると考えられているようです。
 例えば、読解の能力や社会性、心理的な発達、言語能力、倫理性などは複数の要素が絡み合って影響し合っていると考えます。
 そのため、学力はこうすれば高められるという極端な思考を止め、子どもの発達状況を俯瞰して考えることができれば、応急処置的な取り組みを避けることができます。こういったシステム思考ができるための「4つの問いかけ」が本書では紹介されているので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

 教えるという仕事は複雑性が高いと言われています。子どもたちは自身を取り巻く環境に影響されているため、それらも配慮して教育活動を行う必要があります。

学力に影響を与える「学力とは関係ない要因」とは

 私たちは授業の中で学力が高まっていると考えがちかもしれません。しかし、先程述べたように子どもの学力に関わる要因はそれだけではないということを理解する必要があります。
 子どもたちと守衛さんが一緒に清掃活動をして、相手を尊重することを学んだり、留年した子たちに元の学年に戻るためのチャンスを与えることなどの例が示されていました。

 このように社会生活の中に学力があると捉えることができれば、学力を上げるために塾に通わせる、テストや宿題を増やすという手法を取るという考えはなくなっていくのではないでしょうか。

いろんなところでオープンな議論を

 子どもたちが学校のあり方について考えるためのオープン場は必要で、そうすることで主体的に関わる姿勢をもたせることができます。例えばピアスの着用についても一方的な判断はせずにまずは話し合ってみるということを大切にするべきだと考えられています。
 また、それは学校の教員にも言えることで、日頃の学習が本当に子どもたちの発達につながっているのかを考えるために、教員同士が共同できる場が教員研修で機能すれば良いとされています。

認知科学研究グループ

認知科学に基づいた子どもの発達

 「この20年ほどの間に、学習、知能、動機づけ、情動、注意、プロセスの相互作用など、人の精神の働き方についての新しい事実が発見されてきた」と書かれています。私たちは秩序を保ち知識を伝えるだけの役割から、子どもたちの発達を促すという役割も担っているため、そういった認知科学的な視点ももつことができれば、より効果的な教育方法を確立できます。そのための認知科学的な視点をいくつかこちらに書いておきます。

連想によって定着する記憶

 認知科学という視点では、記憶はお互いに連結されているため、現実的な文脈との関わりがあったり、動機づけなどは大いに影響すると考えられています。現実的な文脈と関連させることで、生徒の経験と学ぶ情報が結びつきやすくなります。

 また、情報伝達をするシナプスは、本人が「快」の状態で学んでいると記憶の定着により効果をもたらします。この辺りは、好きなことはすぐに覚えることができるけれど苦手なことややりたくないことはなかなか覚えられないという経験からも理解できると思います。これは、ジョセフ・ルドゥー『シナプスが人格をつくる』という書籍に詳しく書かれているそうです。

2つの思考

 ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』によると、物事の決定の際に2つのタイプの思考が働くそうです。それは、「早くて直観的で習慣化されたいくらか情緒的な思考」と「もっとゆっくりと論理的で抑制のきいた思考」です。
 人は、簡単に思いつく危険をより起こりやすい危険と比べて過大評価する傾向があるようで、そういったバイアスのような作用があることを理解していることが重要だと考えられています。

教えることを学ぶ

 日本の教育実習期間は、校種にもよりますが2〜4週間程度しかなく、オランダ教職課程の先生などがその短さに驚いていました。
 実際に実習に行っても、深く考えたり問い直すような時間的な余裕はありません。

 本書では、「教えることを学ぶ」ことの重要性を指摘しています。「教えるとは、ある時点になればマスターできる決まり切った手続きではなく、専門家としての人生を通して発展、進化する、継続したプロセスである」としています。

リサーチ型チーム学習

 実習生も経験のある教員も常に継続して教えるということについて学ぶ必要があり、その中で理論と実践を往復することが重要だと考えられています。確かに授業で完全に満足できるということはなく、常に次に試してみたいことを実践したり、授業の活動について理論を学び直して実践にいかす時はとても充実感があります。また、実習生との対話の中で自身のメンタル・モデルに気づくこともできると思います。

<参考文献>
・ピーター・M・センゲ他著、リヒテルズ直子訳『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(英治出版、2014)

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