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【植物が出てくる本】『愛なき世界』三浦しをん

書店でこの本を見たとき、まずカバーデザインに心を奪われました。
夜空のような深い青色の背景に、精細な植物画。さらに、箔押しで描かれたイチョウの葉や実験道具も美しく、思わず手にとって、しばらく眺めてしまいました。

三浦しをん『愛なき世界』(2018年:中央公論新社)


洋食店で住み込みで働く青年、藤丸陽太は、植物の葉について研究している大学院生の本村紗英と出会い、次第に惹かれるようになります。
しかし、本村の目には、研究対象のシロイヌナズナしか映っていないようで……。
「植物」が恋敵になってしまった、藤丸の恋の行方は?

物語は、藤丸の視点と本村の視点で交互に語られるのですが、
恋愛要素はやや薄めで、本村を中心としたT大の植物研究者たちの日常が、面白おかしく描かれた作品といえます。

クリスマスは無関係、実験中に火災報知器がなっても気がつかない、そんな「植物命」の研究者たちの生活。
彼らが交わす会話には「理系ってこんな感じかな」というリアリティがあります。

そして、本村のキャラクターが独特です。
学部時代の大腸菌の研究から、もう少し愛着を抱けそうな植物に転向。
そのくせ植物を育てることは苦手で、サボテンも枯らしてしまう。
運動は苦手。
普段はあまり発言しないためか、研究のことを熱っぽく語ると「本村さんがたくさんしゃべった」と驚かれる。

このぼんやりした雰囲気に、激しくシンパシーを感じてしまいました。
私は本村さんほど賢くないですが、何となく、仲良くなれそう……💕

本村が自らの植物観を語る場面があります。

「植物には、脳も神経もありません。つまり、思考も感情もない。人間が言うところの『愛』という概念がないのです」

それでも、いや、それだからこそ(?)、ただ「知りたい」という欲求だけに突き動かされ、植物研究に取りつかれる本村。
将来の展望があるわけでも、お金になるわけでも、就職に有利なわけでもない。でも研究が楽しい。
彼氏と遊園地に行くより、シロイヌナズナの細胞を見ている方が楽しい。

それでいいんだな……。
結論めいたものにはたどり着けませんでしたが、彼女の気持ちはとてもよく理解できました。

難しい研究の内容や手法が細かく描写され、しかも、楽しく読めることがすごい!(私は文系出身なので、ちょっと途中でついていけなくなった部分もありましたが💦)

また、 今アツい「PCR検査」の方法が、かなり細かく記されており、こんなに手間がかかるものなんだな……と驚きました。

※タイトルの画像は、シロイヌナズナの写真がなかったため、ただの「ナズナ」です😅



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