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木村拓哉は、100均の女をお姫様に変える。

 こんにちは、芳麗です。こちらは過去、cakesにて連載していた『雑誌が切りとる私たち』のアーカイブの中の一本です
 今回は、今も輝くスター木村拓哉さんの奥深い魅力を私なりに紐解きながら「タイムレスないい男とは? 女性が求める王子様とは何か?」についても考えています。
 私は文筆業として、コラムやエッセイなど1人で書くものと、ロングインタビューやルポルタージュなど取材対象と直接向き合った上で書くものの両方を続けています。(エッセイやコラムも、自分や誰かの人生を取材しながら書いているという点では同じだと思っていますが……)。
 だから、インタビュアーとして対象と向き合っている時もコラムニストの目線になるし、コラムやエッセイを書いている時も、インタビューで出会ってきた人たちの顔がよく浮かびます。
 というわけで、希代のスター、木村拓哉さん。私は、20年近く前から定点観測的に数年に1度のペースでインタビューさせていただく機会に恵まれてきましたが、つい先日も、とある女性誌の表紙インタビューにてお目にかかる機会がありました。インタビュー時間は決して長くなかったのですが、やはり今回も印象深く。変わらないままに進化していく男の生き様、かっこよさに深く嘆息した次第です。ワイルドさとひと匙の甘さを併せ持つ永遠の王子様でありながら、現在、ドラマ『教場』で演じている風間公親のごとく、眉間のシワが似合う渋みも兼ね備えている。そんな木村さんの奥深くブレない魅力に迫りながら、あれこれ思索しているコラムです。よろしければ、ぜひ!                           2023.0424  芳麗
 

木村拓哉は、100均の女をお姫様に変える。

 『anan』の好きな男ランキングでは前人未到の15年連続1位を達成し、今でも多くの女性ファッション紙の表紙を飾り続けている木村拓哉さん。“女性誌の永遠の恋人”といっても過言ではないキムタクの魅力とは。芳麗さんが、ファンタジーをリアルに伝えるそのスピリッツを解き明かします。
この道20年のベテラン女性誌ライター芳麗さんが贈る“ありふれた女”たちのための教科書です。


“木村拓哉”、“B’z”、”ONE PIECE”

 雑誌黄金期から現在にいたるまで、もっとも女性誌の表紙を多く飾った男性は、おそらく、木村拓哉だ。SMAPも木村拓哉も何度も危機を乗り越えながらも、40代の今なお女性誌の表紙を飾っている。女性誌にとって彼を超える存在は、いまだ現れないのだから。

 今回は、そんな“女性誌の永遠の恋人”、木村拓哉の魅力について解き明かしてみたい。

「anan」に好きな男ランキングというものがある。木村拓哉は前人未到の15年連続No.1を記録。いまだ、その座を誰にもゆずっていない。というか、そのままこの企画自体が終わってしまった。

 メジャーな女性ファッション誌の表紙を男が飾る。それはスペシャルなこと。時代のトップスターであると同時に、多くの女性が認める魅力をかねそえていなくては叶わないから。その魅力とは、カッコいいのに愛きょうがあるとか、色っぽくても清潔感があるとか、やんちゃだけど誠実であるとか。いくつもの相反する要素を絶妙なバランスで保っていることを要される。

 つまり、女性にとってリアルなのに、ファンタジーを味わわせてくれる王子様であることを求められる。女性誌には、節約術や着回しコーデなどのリアルな術とともに、恋したくなる男子や占いやスイーツなど、心拍数をあげてくれるファンタジーの両方が必要なのだ。同じSMAPのスーパースターであっても中居正広に「anan」や「MORE」の表紙オファーはそうそうない。(ちなみに、私個人は中居くんも好きである)

 今年1月、SMAP騒動が巻き起こった時、大騒ぎだった。普段は、芸能ニュースに興味がない人々も熱心にSMAPの存続を願っていた。私が驚いたのは、女性たちの木村拓哉への思い入れの深さだ。
 仕事の現場でもプライベートな場でも、周辺では、「ファンじゃないけど、実はキムタクが好き」とか、「キムタクのドラマの視聴率はなんだか気にかかる」などと語りだす女が数多いたこと。木村拓哉を悪者とする向きの報道に「そんなことないはず!」と反論する女も少なからず。

 30代以上の女はやっぱり木村拓哉が好きなのかと思っていたら、「興味ないし、好きじゃない」という人がいた。小学生の頃からデビット・ボウイのファンである彼女は、変態性のある男が好み。「キムタクのノーマルな感じには惹かれない」のだという。

 たしかに、木村拓哉は健全だ。
 ワイルドな風情を漂わせながらも品行方正。日本一モテる男の称号を手にしながらも、28歳で結婚して以降、女性がらみのスキャンダルは聞こえてこない。自らは語らずとも、家族を大切にしていているエピソードは定期的に週刊誌に報じられている。

 漫画「ONE PIECE」を愛読していて、B’zの稲葉浩志とも友人関係にあると聞くと合点がいく。そう、木村拓哉は、ONEPIECE、B’zとならぶ、日本庶民のヒーローなのだ。 

木村拓哉はウソをつかない

なぜ、なみいるカッコいい男の中でも、木村拓哉は多くの女にとって特別な存在なのか。その魅力について考えてみる。

 木村拓哉は、“愛想笑いをしないアイドル”を初めて成立させた人だという。それまで、アイドルスマイルはアイドルの基本装備だったが、木村拓哉は違う。まったく笑わないわけではないけれど、きっかけがないと笑わない。うれしい時、楽しい時、テレた時のみ笑う。雑誌の撮影やバラエティ番組はもちろん、ドラマでも同じだ。演技とはいえ、不自然な流れでは、笑わない。

「オレら(SMAP)としてはいわゆるアイドルという立ち位置で仕事はさせてもらいながらも、『ヘンなウソはなしにしようぜ』みたいな共通意識は最初っからすごく持っていましたね」
「素のときの自分と演じているときの自分を、意識して切り分けるということは一切ないですね。(中略) オン、オフのスイッチを入れたり、切ったりという感覚はないですね」

『TAKUYA KIMURA×MEN’S NON-NO ENDLESS』より

 木村拓哉は、オンとオフの区別をつけない。それは、虚像の自分と実像の自分を近づけるという行為でもある。

木村拓哉は“ジェスチャー”と“メタファー”に想いをこめる

私も、これまでに5回は彼にインタビューしたが、毎回、忘れがたい記憶と余韻がある。

 あれは、2003年のこと。女性誌「MORE」にて木村氏に2度目のインタビューをした。撮影はアラーキーこと、荒木経惟氏。天才で天然のアラーキーは、初対面の木村拓哉に相対するや、シッポを高速で振る犬のごとく興奮していて、唐突に自分のオリジナルのライカを見せびらかしていた。
 彼はそれをテレ笑いを浮かべながら聞き、無言でグッと親指を立てて、アラーキーと握手した。まるでドラマのような光景がリアルに起こっていた。

 ある時は、5000文字以上のインタビューを書かねばならないのに、ドラマ撮影の合間の25分しか時間がもらえなかった。当然、時間は足りず。マネージャーが「そろそろ」と私に声をかけてくる。それを木村氏は「準備はできているから、なんとかなる」と2回ほど制して10分ほど伸ばしてくれた。
 しかし、「本当にもう!」とマネージャーが哀願をすると、ゆっくりと振り返って部屋の時計を見やり、次にマネージャーの困った顔をちらりと確認、最後に私と目を合わせて、ふっと小さく笑った後、少し唇をとがらせながら立ちあがった。彼の意志や想いは、何気なくもカッコいいジェスチャーの中にこめられている。

 また、彼はメタファー、つまり“たとえ話”や“比喩表現”もよく使う。私がドラマ出演の醍醐味について尋ねると、「海賊が盗んだものを山分けしている感じ。言葉はナシ。みんなで目を合わせてニヤっとできるところ」だと語っていた。よくよく聞けば、「チームでモノを作り、みんなで味わう達成感」という意味だった。そういえば、彼はラジオ番組ではリスナーに自分を“キャプテン”と呼ばせている。こういった表現は、一貫して木村拓哉オリジナル。ユニークでサービス精神にあふれている。

 一期一会のインタビュアーだから、パフォーマンスをしたわけではない。彼のこういった色男なエピソードはあちらこちらで聞こえてくる。

 2014年に放映されたSMAPの27時間テレビでは、放映中、ずっと“キムタク”だったのはもちろん、ラストを盛り上げた元メンバー・森且行からの手紙にも「木村くんは、出会った頃からずっとずっとカッコよかった」と綴られていた。香取慎吾や亀梨和也など、木村拓哉の半径10m以内にいる人々も「木村拓哉は常にカッコいい」と一様に語っている。
 木村拓哉は、カッコつけなんて遙かに超えたレベルで、彼の理想とする男像を、みんなの求めるカッコいいを体現しているのだ。

「仮にリアルの反対がファンタジーだとするなら、オレはファンタジーをリアルに伝えていきたいって思うんですよね。
 見つめ合った瞬間に、相手と自分の間に星がキラキラ瞬くようなことなんてまずないですよ。(中略)現実的にはあり得ない話なんだけど、オレはそういったファンタジーをリアルに感じられるようになりたいんですよ。
 そのためには、自分も魔法にかかるとうか、実際にキラキラした星は見えなくても、オレには本気で見えているんだ、あるいは、本気で感じているんだってことが必要なんだと思う。その気持ちってきっと相手にも伝わるだろうし、そうなったらそれはもうリアルなんですよね」

『TAKUYA KIMURA×MEN’S NON-NO ENDLESS』より

 “ファンタジーをリアルに伝えていきたい”とは、とても女性誌的なスピリットである。

 さらに、彼の体現するカッコいい男像とは、決して複雑でも完璧でもなく、シンプルで老若男女に愛される適度なスキがある。さまざまなインタビューから、彼の掲げている“理想の男”のキーワードを拾ってみる。

「いつも全力で負けず嫌い」「“努力”は嫌い。何事も遊び心を持ち楽しむ」「正直ゆえに感情が顔に出る」「何よりもチームが大切」「モノ作りを愛するクラフトマン」「街を歩く女の子でも趣味でも、常に何かにドキドキしながら生きている」「やんちゃなトムソーヤ」……etc.

虚像と実像を一体化させた最強のアイドル

 アイドルとは、スターとは、偶像であり虚像である。だけど、虚像はウソではない。それは、理想とも言える。実像に頑丈な魅力がなければ、その影となる虚像も薄っぺらく、ましてや人を惹きつけない。

 木村拓哉は自分にも世間にも嘘をつかないと決めているように見える。強く潔癖な意志を持って、愛される虚像を実像と一体化させている。その視点をもって見なおせば、彼の言動や行動や生き様が、いかにブレがなく一貫性のあるものかがわかる。

 彼の流儀であるジェスチャーやメタファーは、大スターゆえにしがらみも多く直接的な表現では言えないことが多いけど、嘘をつかず、できるだけ本音で話そうと考えて編み出したのではないか。

 木村拓哉は嘘をつかないけれど、現実に埋没もしない。いくつになってもファンタジーをリアルに伝えようとする。だから、男としてもアイドルとしても穢れないのか。これって、女が永遠に求めてやまないリアルファンタジー。

 だって、隣にいる男は、現実にまみれるだけで、いっこうにファンタジーを見せてくれない。長く一緒にいれば、ひとつ屋根の下に暮せば、そんなのあたり前のこと。たとえ、職業アイドルの男と付き合ったって、半径1mの関係になれば、現実だけが立ちはだかる。そんなことは、わかっている。こっちもこっちだから文句はいえない。

「だけど、キムタクならばもしかして?」と女は心の奥で思う。

 日本一、カッコいいのに健全でスキもツッコみどころもある王子様。木村拓哉と恋したら、100円ショップに通う現実でも、お姫様になれるかもしれないと思うのだ。

イラスト:ハセガワシオリ

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