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言葉は一撃必殺

「すべての出会いに感謝」ヤンキーやねずみ講ネットビジネスマン、イケイケベンチャー社員はもれなくこの言葉が好きらしい。これを見るたび、この人とはうまく付き合えないだろうなと思ってしまう。見るからに出会いに感謝していなさそうな人ほどこの言葉をプロフィール欄に書き込んでいるのはなぜだろう。

「すべての出会いに感謝」している人の「感謝」を、僕は信用できない。

「感謝」と「好き」は、特別感という点ですごく似ている。「好き」とは、複数人いる中で特定の人物にだけ特別な感情を抱いているということだ。他の人たちと比べて、大きな想いを寄せている状態である。他の人と比べる、ということが重要で、もし仮に人間が1人しかいない状態であれば、その人間を「好き」だと思うことはない。つまり「好き」は相対的な概念なのだ。

「感謝」も同じことである。自分にとって嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと、様々ある中で、誰かが嬉しいことをしてくれた時、「感謝」したいと思うのだ。他の出来事と比べて、これはありがたい!と思うから感謝の気持ちが湧いてくる。

それなのに、「すべての出会いに感謝」してしまうと、すべての出会いが同一ライン上に並んでしまうことになる。「感謝」と言いながらもそこには特別感のかけらもない。「みんなと同じ」である。もし「すべての出会いに感謝」するはずの人に感謝されなかったら、他の出会いに比べて自分の出会いだけがマイナスだということにさえなってしまう。

「有難い」は、なかなか起こらない出来事が起こったことにたいして感謝の気持ちを表す言葉だ。「有難い」ことがポンポンポンポン起きていたとしたら、それはもはや「有易い」ことになってしまう。

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「好き」や「感謝」といった意味合いの強い言葉はそもそも、連発していると信頼性や説得力、価値がみるみるうちに下がってしまう。

付き合いたての頃は「好き」と伝えるたびに相手が喜んでくれたのに、数か月経つと分かりやすくリアクションが薄くなる、なんてことが何度もあったのでこれは間違いない。

そんな時は「好き」を強めるために「大」をつけて「大好き」とするのだけれど、これもどんどん価値が目減りしてしまうので、結局のところ少しの時間稼ぎぐらいにしかならず、ジリ貧状態である。

「好き」の最上級である「愛してる」に手を出すのは諸刃の剣だ。言葉の意味としては最も強い部類に入るし、想いも確実に伝わる言葉である。だが、もし「愛してる」を連発しすぎて価値が下がってしまうとなると、もう打つ手がなくなってしまう。結婚でもしようもんなら、すり減った「愛してる」を今後何十年も使っていかなくてはならない。それはもはや刃こぼれしてしまった刀のようなもので、いくら力を込めて振りかざそうが、ズバッと相手に効果的な一撃を与えることはもはや不可能である。

そういったことを考慮すると、「好き」だの「感謝」だの意味合いの強い言葉は使いどころが難しい。というか、言葉は多かれ少なかれそういう性質を持っているのかもしれない。軽はずみに使わず、ここぞというタイミングのために研ぎ澄ませておいた方がいい。

じゃあどうやって想いを伝えるのかといえば、行動である。自分の行動で持って想いを伝える。言葉ほど一撃でメッセージを届ける力はないが、行動でも示すことはできるのだ。

言葉は一撃必殺。刃こぼれしないように大切に使うことにしよう。

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