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ファーストリテイリング(FR)の決算発表


 先週14日にFRの決算(2021年8月期通期)発表が行われました。

 今回の投資家の感心は今期(2022年8月期)の業績見通しと人権問題の2点だったと思われますが、業績見通しは「期待外れ」「慎重」、人権問題は「安堵」「流石は柳井さん」だったのではないかと私は個人的には感じました。

 2021年8月期の結果は概ね市場予想通りでありましたが、2022年8年期の予想は、利益ベースで市場予想を約10%下回る予想数値であり(営業利益3,000億円⇒2,700億円)でした。特に上半期は国内ユニクロ事業で10%以上の減収減益を見込んでおり、これを下半期にコロナの終息等により大幅な増収増益への転換を見込んで、全社ベース通期で約3%の売上増、営業利益で約8%の増益を見込んでいます。

 また、今期は「変革への準備段階」と位置付けており、不透明要因が多い中で「ある意味保守的に考えた」とも説明しています。そして、中国と東南アジアへの出店スピードはこれまで通り、一方で、米国が前下期に黒字転換(不採算店の整理が貢献)したことにより、米国西海岸、東海岸に集中して出店スピードを上げ、欧州も大量出店の本格的な準備にかかると説明しています。

 

 翌日の14日の株価は取引開始直後から約3.15%の大幅な下落となりました。これは2022年8月期の見通しが「市場予想」を下回ったためでありますが、約3%超の下落で留まった一つの理由は「慎重な見通し」であると「前向きに捉えた(期中に上方修正がある)」投資家もいたからであると考えられます。

 FRぐらいの注目企業になると、市場予想を10%下回る数値になれば、7%から10%程度の下落は十分に想定できたところでした。

 一方で、今回は下落後に株価は急速に戻し、取引終了時には0.12%の下落率水準まで回復しました。

 これを可能にした一つの理由が、人権問題への「安堵感」と「柳井さんの言葉」であったのではないかと感じます。(日経平均が大幅高に転じたことも理由の一つです)

 今回の決算発表は3部構成で、「決算数値関連」「有明プロジェクト」そして最後に「ファーストリテイリング 今後の展望」でした。

 柳井さんが自ら話をしたのは最後の「ファーストリテイリング 今後の展望」であり、これは毎年のことです。

 柳井さんの話すスタイルは、スライド1枚にポイントだけを例えば「新しい時代が始まった」とかを記載したものを映し出し、柳井さん自ら語るスタイルです。(私見ですが、柳井さんは原稿を読むのは得意ではないと思われます。自分の言葉で、その場の雰囲気も感じながら語る時の方が、説得力があると感じられます。

今回は16枚のスライド中、2枚が店舗の写真でしたが、残り14枚の半分は「人権問題」に割いています。

表紙があり②新しい時代が始まった③LifeWearをさらに進化させる「お客様の要望に応え、顧客を創造する」経営の実現④グローバル展開をさらに加速させる⑤⑥写真⑦人権侵害を容認しない⑧取引先工場への労働環境モニタリング⑨主要生産国に従業員が常駐、現場を訪問して改善指導を実施⑩人権・環境問題などの国際的取り組みに参画⑪「独立自尊の商人」⑫グローバル化の流れは変わらない⑬事業を通じて、より良い世界をつくっていく⑭より高いレベルのトレーサビリティを確保する⑮志ある個人や企業は国境を越えられる⑯扉を閉ざして成功した企業はない、国を閉ざして繁栄した国もない、となっており、⑦から⑭までが人権関係のものでした。

特に⑪「独立自尊の商人」では、「私たちはグローバルに事業を展開する企業として、お互いに利益があるフェアな取引をし、その国の社会を豊かにしていくことが使命です。そのような明確な理念を持つ「独立自尊の商人」として、自らの信念と現実が違っていたら、勇気を持って「それは違う」と発言しなければなりません。目先の利益のために、安易な政治的立場に便乗することは、世界のさまざまなお客様の期待に応えることにはならず、それはビジネスの死を意味します。長い目で見て、決して企業のためにも、社会のためにも、国のためにもなりません。これは私の商人としての信念であります」

ここでは特に心を込めて、力強い口調になり、説得力がありました。

さらに⑮・⑯のグローバル展開では「絶対にグローバル展開は成功させる!」という強い意志が伝わっていたと感じます。

経営トップ自ら、しかも柳井さんが、投資家が懸念していた「人権問題」について説明し、そこに柳井さんの信念、企業の理念、グローバル化を織り交ぜて説明したことにより、より納得性があり説得力があったのではないかと感じます。

14日終値ベースでは2021年8月期実績ベースPER43.7倍、2022年8月期会社予想ベースPER42.4倍、同じく市場予想ベースPER36.7倍、2023年8月期市場予想ベースPER32.0倍となっていますので、今後の株価の動きは要注目だと思います。

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