ビックリした!

 先週21日に日本電産の永守会長がCEOに復帰することが発表されました。昨年6月にその1年前に日産自動車から招聘した関氏はわずか1年足らずでCOOに戻る(降格)ことになり、事実上3回目の後継者又は後継者候補の離脱・降格となりました。
 
 これだけでも結構「ビックリ」でしたが「またか・・・」という感想を持った人も多いのではないかと思います。その後の報道等も賛否両論です。

今年1月にはブルームバーグが永守氏と関氏の不仲説を報じており、そこには永守氏が幹部社員に宛てたメールの内容が暴露されていました。
「今のやり方は甘い。今後、車載事業は私が直接指揮する。低収益、低成長、低株価の3T企業で、そこそこやれる人材をトップに据えたのは私の間違いであった。任命責任は私にある。日本電産は、高収益、高成長、高株価の3K企業であり続けるので、3T企業とはやり方が違う」。日産との企業体質・企業文化の違いを示しながら痛烈に批判しています。

 私が、最も「ビックリ」したのは、永守さんがオンライン決算発表(第3四半期)の席で次のように述べたことです。
「非常に早い決断、対処が必要だ。短期的に指揮をとって業績を改善する」
「今の株価は耐えられない水準だ。1万円くらいで残っていれば私の出る幕はなかった」

 日本電産の業績は、今期も売上高、利益ともに過去最高を更新する見通しです。普通に考えれば業績が良いのだからCEOを変える必要はないはずです。
 しかし、永守さんは足元の経営環境の悪化とその早さから、所謂「即断即決」のカリスマ経営者ならではの「経営手法」が「今は求められる」と厳しい判断をしたのだと思います。
 恐らく、単なる増収増益では満足できない。もっと成長し、もっと稼がないとダメだと言うことなのでしょう。

 株価は関氏がCEOの就任した昨年6月には12,000円を超えていましたが、直近は9,000円を割り込む水準まで下落しており(昨年末には13,000円を超えていた)、市場平均の下落率を大きく上回っています。(同期間の日経平均下落率は約7%、同社株価は約25%の下落(昨年末比では30%超の下落)、時価総額は6兆円を割り込み、時価総額ランキングでもベスト10の常連でしたが、直近では25位まで後退しています)

 私の知る限りでは、日本の大企業の経営トップが「株価低迷」を一つの理由に「降格や退任」させられたことは、「物言う株主」の圧力以外では初めてではないかと推察します。しかも、創業者と言えども永守さんは「代表取締役会長」ですからこの一年間も経営の重要な一角を担っていたことは事実です。

 永守さんの「株価への拘り」は異常とも言えるほど「強い」と言われています。常々「株式時価総額は経営への市場の評価であり、企業価値であり、企業規模である」と言っています。特にM&Aを得意とする永守さんからすれば、株式時価総額は「買収や合併する際の資金」であると考えていますから、なおさら拘りが強いとも言えると思います。(例えば、時価総額1,000億円の企業を株式を使って買収しようとした場合、自社の時価総額が10兆円なら約1%の株式を新たに発行すれば買収できますが、時価総額5兆円だと同じく2%の株式を発行しなければならず、単純に言うと「倍の金額」ということになるからです。GAFAMなどが多用してきた戦略です)

 永守さんの復帰で翌日の株価は「大きく上昇する」と予想されましたが、全体の市況が悪かった(日経平均は447円安)こともあり、株価の終値は10円安の8.960円でした。根本的にマーケットは「永守さんの復帰」に「No」を突き付けた可能性もあると私は考えています。

 理由は、「永守さん復帰で業績の一段の拡大は期待されるが、今年78歳になる「永守頼み」で本当に日本電産は大丈夫なのか?」「後継者が育たない環境そのものに問題があるのではないか?」という疑心暗鬼です。
 機関投資家の一部には、「後継者問題がある企業は投資対象外」ということを言い始めているところもあります。

 日本電産は永守さんが創業者であり、「永守流」の経営でこれまで成長してきており、社内には良くも悪くも「永守文化」「日本電産文化」があることは広く知られています。
 そして、それは他の大企業やサラリーマン経営の企業とは根本的な違いであると考えられます。
 創業経営者の後を継ぐことの難しさは、孫さんや柳井さんの事例を見ても明らかであり、永守さんも全く同じだと思います。

 CEOだった関氏は2020年に日産自動車から入社しており、日産では副COOを務めた方です。入社後1年足らずでCEOに就任し、さらに1年足らずでCEOからCOOへ降格となりましたが、日本電産に入社してわずか2年しか経っていません。

 強烈な「永守文化」「日本電産文化」がある企業に入社して2年程度で、その「文化」が理解できることは到底無理なのではないかと感じます。これまで後継候補として招聘した3人は、すべて普通の大企業(オーナー企業ではない)で高い「実績」をあげ、永守さんも何度も面談し、口説き落とした人達です。
 そんな人達でも「文化を理解して経営する」ことがいかに難しいかを物語っていると思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?