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悪い優しさ

僕は昔から「優しい人」と言われることが多いです。
”優しい自分”のことも好きなので、”優しい自分”像に合わせた言動をしている部分もあると思います。

「本当の優しさではないよね」

就職して、東京に出てきてすぐの頃、
ゲイの出会いアプリで知り合った年下のT君とたまに遊んでいました。
”セフレ”というほど淡泊な関係ではなく、一緒に居酒屋で飲んだり、街に遊びに行ったりするような仲で、友達以上、恋人未満的な存在でした。

T君は年下ではあるものの、ゲイとして目覚めが早く、かなり早い段階から大人のゲイ達と関わってきたようで、
人生の経験値はT君の方が圧倒的にあるし、自分の心をなんとなく見透かされている感じがしていました。
一方で、どことなく世を儚む雰囲気をまとっていて危うい感じのする人でした。

そんなT君と話している時に、
「ケンゾーって優しいよね」と言われて、「そ、そうかな」なんて言いながら、まんざらでもない顔をしていると、
「でも、本当の優しさではないよね」と言われました。

「人に興味が無いんだと思う。だから、なんでも”良いよ”って受け入れているフリをできるんだよね。関心が無いだけだよね。それって、”悪い優しさ”だと思うな。」

自分でも気づいていなかった核心を突いた言葉を、ニコニコと笑顔で話すT君に、畏怖の念すら抱きました。
少しフリーズした後、「確かに、そうかもしれない」と力なく笑うのが精一杯の僕に、
T君は「でも、それがケンゾーの良い所でもあると思うよ。そういう人、嫌いじゃないよ。」といたずらっぽい笑顔で言って、また違う話題を話し始めました。

T君とは、その後何度か会った後に、連絡を取らなくなってしまいましたが、他にも自分の未熟なところや嫌な部分を炙り出すような言葉の数々をくれて、自分に気づきを与えてくれた存在として異様に記憶に残っています。

成長に悪いタイプの人間

なぜ、そんな昔の話を思い出したかというと、
先日、前職の仕事仲間と飲む機会があり、元同期が仕事のことで悩んでいるという話を受けた際に、
持ち前の”悪い優しさ”を発揮してしまった気がしたからです。

6人くらいでワイワイと昔話で盛り上がった後に、
帰り道の方向が同じだった下戸の同期が「もう1件行かない?」と珍しく誘ってきたのです。

久しぶりに二人で居酒屋に入って話したのですが、
彼は今の上司との関係性に悩んでおり、自分に自信を無くしているようでした。
彼の悩みを聞きながら「それはツライよね。流石に上司の言い方は酷いんじゃないかな!」などと彼に同調していたのですが、
よくよく話を聞くと、彼の上司の言葉や表現の仕方がマズいのは間違いないですが、彼を成長させるための激励であり、意地悪をしているわけではないということは分かりました。
そして何より、彼自身も上司が意地悪ではなく、不器用ながらも後継者として育てようと必死になっているということは分かっているようでした。

そんな彼の話を、「上司は酷い奴だ!君は全く悪くない!」と言って慰めながら聞くのが、果たして彼のためになるのだろうか、と考えてしまったのです。
これは”悪い優しさ”なのではないかと。

しかし、睡眠に支障をきたすほど悩んでいる、という彼に、
「上司の言うことも一理ある、君はもっと頑張るべきだ!」というのは絶対に違うと思うし。

酔っぱらった頭で悩んだ末に、
「辛い時は辛いと伝えたり、周囲の人を頼ったらいいと思う。自分で良ければ誘ってくれればいつでも飲みに行くよ」
というようなことを話していたと思います。

タイミングや人によって担うべき役割は違うわけで、正解など無いのだと思いますので、今回の自分の対応が悪かったとも思いませんが、
自分は”良薬は口に苦し”というようなピリッとスパイスの効いた人間にはなれないな。と感じました。
甘々の砂糖たっぷりで健康に悪い菓子みたいな人間だと思います。

まぁ、でも、甘々な菓子も時には大事ですよね。
同期もまた、あえて僕に声を掛けたということは、今は甘々な菓子が欲しい気分だったのだろう!と思うようにします。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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