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6月公開🥺「ホールドオーバーズ」が史上最高のクリスマス映画である理由【アカデミー賞ノミネート作品レビュー④】

主要アカデミー賞ノミネート作品を授賞式当日までに見るシリーズ、今年も授賞式が間近になると一週間に2本くらいのペースになってきて消化不良です・・笑

主演男優賞にノミネートの「ラスティン」と、作品賞・主演男優賞・助演女優賞・脚本賞を含む5部門にノミネートの「ホールドオーバーズ」を観ました。

ジャンルの違う映画を比べてしまうのもなんですが、オバマ夫妻がバックアップしてキング牧師のワシントン行進を描いた「ラスティン」よりも、「ホールドオーバーズ」の方が楽しめました。

本作の内容は、掲題のとおり「史上最高の大人向けクリスマス映画」という筆者の評価です。

明らかに子供向けのクリスマス映画も世の中には多いのですが、本作は完全に酸いも甘いも噛み分ける大人向け映画になっています。

しかも、よくあるファミリー向けの甘ったるい内容ではないのですよ。

なんと今作は、70年代のクリスマスに親に見捨てられた生徒と、ポール・ジアマッティ演じる、女っ気のない孤独な独身教諭と、子供を戦争で亡くして以来独り身の給食係、の孤独な3人が主人公です。

クリスマスに家族と過ごせないのは、70年代のアメリカ人にとっては死を意味するようですね・・今はどうなのか知りませんが、それはそれで窮屈な習慣に思えます。

タイトルのHoldoversとは、そんな、クリスマスに取り残された人たちのことを指すようです。

その孤独な3人の人間模様がなんとも暖かく、感情を揺さぶられる場面が多かったです。

そんな人たちを主人公にするとは、なんと心温まるクリスマス映画でしょう・・控えめに言って発想からして最高ですね。

また、今作の監督のアレクサンダー・ペイン監督の過去作は、そのどれもが3〜4人の人間関係を描いたロードムービーとなっており、今作もその形式を踏襲した形になっています。

ペインは今回監督賞ノミネートは逃したものの、脚本賞でノミネートしています。

過去には「サイドウェイズ」の脚本、「ファミリーツリー」「ネブラスカ」の監督を務めており、そのどれもが心温まる珠玉の人間ドラマになってます。

すっかり「名匠」という呼び名が相応しい監督になりつつあります。

また、この映画には70年代のシンガーソングライターの音楽が散りばめられていて、音楽の使い方も最高です。

中でも収穫だったのはLabi Sifflreという人の、Crying, Laughing, Loving, Lyingという曲です。

歌詞はこんな感じです。(訳詞は筆者)

Crying, crying never did nobody no good no how
That's why I don't cry
That's why I don't cry

泣くこと、いくら泣いても誰にも良いことが起こらなかった
だから私は泣かない
だから私は泣かない

Laughing, laughing sometimes does somebody some good somehow
That's why I--I'm laughing now
That's why I--I'm laughing now

笑うこと、笑えば時々なぜか誰かに何か良いことが起こる
だから私は、私は今、笑ってる
だから私は、私は今、笑ってる

Loving, loving never did me no good no how--no how
That's why I can't love you now
That's why I can't love you now

愛すること、いくら愛しても私には良いことが起こらなかった
だから私は、今はあなたを愛せない
だから私は、今はあなたを愛せない

Lying, lying never did nobody no good no how-no how
So why am I lying now?
So why am I lying now?
So why am I lying now?

嘘つくこと、いくら嘘ついても誰にも良いことが起こらなかった。
なのに、なぜ私は今嘘をついているんだろう?
なのに、なぜ私は今嘘をついているんだろう?
なのに、なぜ私は今嘘をついているんだろう?

訳しながら涙がでるほど美しい曲なのですが、調べるとアメリカではヒットせず、イギリスで1972年に11位になった曲のようです。

ペイン監督はどこからこの曲を知ったのでしょう・・音楽マニアっぽいところも最高ですね。

最後に、この映画の作りなのですが、自分は10代の時に見たシドニー・ルメット監督、リバー・フィニックス主演の「旅立ちの時」(Running on Empty,1988年)という映画を思い浮かべました。

「旅立ちの時」のラストシーンでは切ない別れのシーンがあるのですが、そのシーンで流れる曲が今まで忘れられませんでした。

これを機に調べたところ、ジェームス・テイラーのFire and Rain だったのですが、これは「ホールドオーバーズ」そっくりのエンディングですね。

アレクサンダー・ペイン監督は、絶対にこの「旅立ちの時」という映画を見ているはずです・・笑



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