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彼女に振られたので山暮らししようかと思う。#12

いい加減な山

彼女に振られて、山暮らししよう!と決意をしてから4ヶ月たった。
まだ4ヶ月なのか、と思う。
日々のほとんどの思考を彼女と山暮らしに全振りしていたので、密度の濃い、恒久の時を過ごしたような気分だ。

週に1度は山林物件を見に行った。週2で行くこともある。
普通の住宅物件を見に行くのとは違って、山林を見に行くのは、もうそれ自体がハイキングみたいなもので、道なき道を行くときにはトレジャーハンター気分だ。インディジョーンズのテーマが脳内に響いたりもする。
ガサガサっと音がすれば、魔獣か!?と普通にびびる。
公道に接していますというふれこみの物件のくせに、どーみても廃れた獣道にしか見えず、「これが道か!」と突っ込んだり、
かるーく迷子になることもある。
要するに楽しい。

しかし、たいていの物事には終わりがあり、私たちはその度に新しい場所に立たなくてはならない。次のステージ。
そう。近隣の売りに出ている山林物件はすべて行きつくしてしまった。場所さえ指定しなければ、いくらでも物件探しを楽しめるのだが、想定している圏内となるとおのずと数は限られる。
いよいよ、決断の段となったのである。

手持ちのカードを全て並べる。
どの物件にも魅力的な部分とそうでない部分があり、ゆずれない所とまぁこのぐらいは……と許容する所との折り合いがつく場所を絞る。
そして、その場所に私は白羽の矢をたてた。ヨッシャマンの孤城を建てるのはここだ、と。

さっそく不動産屋に連絡を取り、立ち会いのもと物件を詳しく見せてもらうことにした。
約束の地、約束の時にさっそうと現れる不動産屋さん。もはや、お不動様と言っていいくらいの後光が差してみえた。スーツ姿のお不動さんは、慣れた感じで山使用ルックに変身。
が、最初の一言が、
「いやー、僕実際にこの物件見るの初めてで」
え?
お宅が取り扱ってる物件なのに?
すでに下見を済ませている私の方が先輩ということなのか?

そんなフレッシュな不動産屋さんと山散策。地図を見ながらあーでもないこーでもないと歩き回る。
というのも、山物件に関しては境界線が分からない所が多いのだ。なんとなくこの辺という、通常物件ではあり得ない取引になる。アパートだったら大変なことだ。えー、あなたのお部屋は102から105の辺りですね。みたいな感じになる。
「持ち主の方ならもう少しはっきり場所が分かりますか?」と聞いてみたら
「売り主さんも知らないと思います」という返事が返ってきた。もちろん、役所の人も分からない。分からないが税金は取る。(けどめっちゃ安い。1年で固定資産税1300円)
これが山!
このいい加減な所がまた良い。

事前に不動産事務所に電話をした時には、
「傾斜地なので住むのは不可能だと思います。キャンプも無理ではないでしょうか」と言っていたのだが、分け入ってみればなんのことはない。
むしろ平地の面積の方が多いくらいだった。
こんな感じ↓

不動産屋さんも、
「ここ、いいですね!」と少年のような顔つきになってきた。
これが山!
もしこれが女性だったら、「いいですよね!一緒に住みますか?」と思わず口走っていたところだ。

1100坪の敷地を散策し終える頃には、
私たちは無二の親友のような距離感で山を下りた。
あいにくと私には聞こえなかったが、もしかするとエアロスミスが流れていたかもしれない。
Don't  wanna  close  my  eyes

あとは、今住んでいる家が売れるのを待つばかりだ。
こっちを担当してくれている不動産屋さんによれば、だいぶ市場の動きが活発化しており、問い合わせも多いらしい。
あと少しだ。
もう少し手を伸ばせば、私の夢が叶う。
理想の人生まであと一歩だった。

しかし、実はこのあと物語は急変することになるのであった。

           つづく

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