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短編映画『露光時間』の覚書

2021年に「露光時間」という短編を制作しました。

一通り映画祭も回り終わったので、YouTubeにて公開しようと思います。夏の終わりの頃の物語、ぜひご覧いただけると嬉しいです。

この作品の最初の企画書の日付が2020年7月27日、"作ろう"と考え始めてから気付けば3年以上が経過していました。今更ですが、本作のことについての記録を全然残していなかったので、うろ覚えながら覚書を残しておこうと思います。

きっかけ

前作「レミングたち」で音楽を担当してくれたイトウナホさんのバンド・AMENOMANI2の楽曲「十数えたら」をテーマに新たに短編を作ろうという話になりました。

見上げた先にうつるのはいつも
見つけられなかったあなたの影だけ
ゆらゆら揺れる滲むかげおくり
重ね合わせているあなたも何処かで
ゆっくりゆっくり過ぎて行く夏

「十数えたら」歌詞より

親しい人との別れを描いたこの曲で印象に残った"かげおくり"という言葉。小学校の国語の教科書で触れた記憶があります。日差しの強い日、自分の影をじっと見つめてからそらを見ると、空に影の巨人が浮かんで見えるような目の錯覚をつかった遊びです。

これはもしかすると、光を定着させる"フィルム"という媒体と相性が良いのではないかと思いました。そこで、フィルムや写真というもの自体を作品のモチーフとしつつ脚本を書き始めました。タイトルは『十数えたら』に呼応して『露光時間』と決めました。

そして、実際の撮影にもフィルムを使ってみようと考えました。

フィルムを使ってみる

写真であれ映像であれずっとデジタルで育ってきたので、頭ではなんとなく仕組みを知っていても、フィルムというものがどうにもとっつき難いという感覚がありました。ただ、諸先輩方は誰もが口を揃えて『フィルムは素晴らしい』と言います。ホントにそうか?という反骨な気持ちと、漠然とフィルムへの憧れとが共存していました。お金がないから、使ったことがないからデジタルで撮影を続けるのではなくて、一度は使ってみないと何も言える立場にないという気もしていました。

フィルムで撮影して、現像して、プリントするという、光を定着させることを自分の手で行う一連の流れを体感してみたいと思い、椎名町にあるレンタル暗室AMALABOで開催されているワークショップに参加しました。何度か通いながら、主催者の青山さんは技術だけでなくその面白さを、とても丁寧に熱心に楽しげに教えてくださいました。さらに本編のロケーションとしても使用させていただけることになりました。主演の中村更紗さんも、暗室作業のシーンのためにワークショップに参加してくれました。

暗室体験ワークショップ

また、本編ではデジタルでの撮影とスーパー16mmフィルムでの撮影を織り交ぜまることにしました。デジタルパートはCanon EOS C300 marklll、フィルムパートはCanon SCOOPIC 16MNを使用しました。実はどちらもCanonのカメラで撮影しています。この作品は16mm film trial roomの荒木泰晴さんと、キヤノンマーケティングジャパン株式会社の矢作大輔さんの快いお力添えなしには撮影できませんでした。

デジタルはともかく、16mmフィルムを自分で回すのは初めての経験だったので、Kodak VISION3の50Dと250Dを100ftずつ、実際の出演者お二人にご協力いただいてテスト撮影も行い、イマジカでの現像をお願いしました。

フィルムカメラを覗く大山さん

デジタルとフィルムとの撮影についての詳しいことは、また別の機会に書こうと思います。

ともあれ、いろんな形で実際にフィルムという媒体に触っていくことで、徐々に作品の輪郭が掴めていったように思います。

出演してくれたひとたち

フィルム撮影に対しての緊張もあり、おそらく現場は一杯一杯になるだろうと見込んで、脚本はなるべくシンプルに、登場人物も少なめにしました。キャストも面識があって信頼できる人たちにお願いしました。

主演・光莉 役の中村更紗さんは、それまで何度か細々とご一緒していていました。持っている熱の強さと、それに反した静かな佇まいと、話し方がとても魅力的で、ぜひとも出演をお願いしたいとずっと思っていました。印象的な赤のワンピースは彼女に提案していただきました。先述のワークショップへの参加も含め、作品に対してとても真摯に向き合ってくれて、本当にありがたく頼れる存在でした。

光莉の姉・星 役は大山真絵子さんにお願いしました。勝手なイメージながら彼女と中村更紗さんと姉妹感を前からずっと感じていたので、この役は大山真絵子さんしかいないなと思っていました。フィルムの映像にめちゃくちゃ映える人で、スキャンデータが上がってきた時の美しさにビビりました。「そ、よかった」の言い方がめちゃくちゃ好きで、その一言だけでもお姉ちゃんをやってもらえた価値があったと思います。

星の婚約者・義人は斎藤陸さんにお願いしました。これまで何度も一緒に作品を作ってきたのもあり、彼とは共通言語が出来上がっていて、現場にいてくれるだけで僕はとても安心感がありました。登場人物のバックグラウンドは劇中・脚本上ではほとんど説明していませんが、義人というキャラクターをしっかりと掘り下げてくれて、カット割を考えた時には使うつもりのなかった最後の表情を本編で使ってしまいました。

撮影した場所

本作は主に2つのロケーションを行ったり来たりします。前述したレンタル暗室AMALABOと、もう一つは千葉外房にある「お茶の間ゲストハウス」です。
千葉の外房にあるこの古民家ゲストハウスは、庭で焚き火ができるし、海まで歩いて30秒だし、カツオが美味いし、地酒も美味いし、犬もいるしで個人的によく泊まりに行くのですが、ここで撮影をしてみたいなあとずっと思っていました。

雨模様のリハーサル

本作の佇まいは、このロケーションの力があって地に足つくことができたのではないかと思います。同時に、何度も何度も訪れて自分にとって馴染みのある場所だったからこそ、今回の作品にとってはプラスに働いたのではないかと感じます。

音楽のこと

主題歌としての「十数えたら」だけでなく、劇伴もイトウナホさんにお願いしました。

現場も手伝ってもらいました

音楽への適切な表現なのかはわからないですが、イナホさんのピアノの音はどこか叫びのような力強さと鋭さ、切実さをはらんでいるように感じます。その音と主人公の光莉とが、とてもよく噛み合っているのではないかと思っています。「音楽っぽくない劇伴を」という無茶振りにしっかりと応えてもらえて、だからこそ「十数えたら」という主題歌が最後に気持ちよく流れ始めることで、爽やかさを帯びて物語を終えることができたのではないかと思います。

写植文字

グラフィックデザインは、いつもお世話になっている須藤史貴(minamo)さんにお願いしました。作品のモチーフを丁寧に掬い取ってくれ、アナログ的な手法も織り交ぜたこの一連のタイポグラフィはとても美しく気に入っています。

「露光時間」タイトルロゴ

そこで、光を用いて文字を焼き付ける文字入力法「写植」をモチーフに設定し、写植に用いられていた書体を中心にクレジットを制作しています。 クレジットを写植書体で入力したものを取り寄せた後、フィルムに文字を印刷し、簡易的な文字盤を作成しました。それに背面から光を透過させながら撮影することで独特のボケ味とムラ感を表現し、力強く刻まれつつ、儚さを感じさせるイメージを大切にしています。

minamo 公式ページより

ハーフカメラをモチーフにしたグラフィックも制作してもらいました。

完成してから

「露光時間」はわりとはっきり好みが分かれる作品のようで、あまりピンと来なかったという人もいるし、これまで観た自主映画で一番好きだったとまで言ってくれる人もいました。
そして正直に言うと、完成した当時、この作品が面白いのか面白くないのか、良い作品なのか悪い作品なのか、好きなのか嫌いなのか、自分では全く分かりませんでした。

ただ、ありがたいことにいくつかの映画祭で上映の機会をいただいて、時間を空けて何度か(大きなスクリーンで!)観るうちに、気づけばこの作品のことがとても好きになっていました。客観的になれているかどうかは分かりませんが、すごく良い作品だとも思っています。

札幌国際短編映画祭2022

何より、誰かの心には残ったのであれば、作ってよかったと心から思います。制作時から今の今まで、いろんなことに向き合うことのできた作品でした。

もしご覧いただいて、もし何か思うところがあれば、あるいは何も思うところがなかったということでも、今後の制作において大変励みになりますので、作品の感想をお寄せくださると嬉しい限りです。

最後になりましたが、あらためて本作にお力添えいただいたみなさま、上映の機会をくださった映画祭のみなさま、ご覧いただいてくれたみなさまに深く感謝申し上げます。

丁寧さを忘れずに、これからも作品を作っていこうと思います。

短編映画「露光時間」

2021年 / 15分 / カラー / 1.90:1
出演 : 中村 更紗, 大山 真絵子, 斎藤 陸
主題歌 :「十数えたら」
音楽 : イトウナホ
録音: 板垣 真幸
ヘアメイク: 津嘉山 南,  渡邉 瑠菜
助監督: 青木 翔平
グラフィックデザイン: minamo
企画・製作:AMENOMANI2

ロケーション協力:
レンタル暗室 AMALABO
お茶の間ゲストハウス

機材協力:
16mm film trial room
荒木泰晴
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
矢作大輔

企画・製作・脚本・監督・撮影・編集 :角 洋介

上映歴:
▼第一回国際和解映画祭 国際和解学研究所賞
▼第27回函館港イルミナシオン映画祭 ショートムービーコンペ部門 入選
▼Pramana Asian Film Festivaol 2022 オフィシャルセレクション
▼ダマー国際映画祭2022 審査員セレクション&オフィシャルセレクション
▼第2回演屋祭 優秀賞
▼Rising Sun International Film Festival 2022 入選
▼ジャパンワールド映画祭 2022 入選
▼第17回札幌国際短編映画祭 ナショナル部門 ノミネート
▼ごった煮映画祭り in 下北沢 上映作品
▼海の街の動画祭 勝浦ムビコン 特別上映


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