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短編映画『寄り鯨の声を聴く』の覚書 | #0 前書き

新しい短編作品を作りました。
『寄り鯨の声を聴く』と題したこの作品は、タイトルの通りクジラをモチーフとしたお話です。いつものように、海に向かう話でもあります。

海に住む生物が海岸に乗り上げて身動きがとれない状態を"ストランディング"と呼びます。「寄り鯨」とは、ストランディングしたクジラのことを指す日本古来のことばです。

四方を海に囲まれた日本では、僕らが想像する以上に多くの鯨類が浜辺に漂着しています。報告されるストランディングの件数は年間300件を超えるそうです。

2023年1月、大阪府淀川河口にマッコウクジラが迷い込み、そのまま死亡してしまいました。死骸の処理をどうするか、その過程を追っていると、処理の方法にもさまざまな選択肢があり、その判断と実行には多くの知見と資金が必要であることを知りました。その情報を発信している人を辿ってゆくと、情熱を燃やして一心にクジラたちと向かい合っている人たちがいることも知りました。とかく生き物への愛に溢れている様子のほんの一端に触れて、尊敬と憧れの念を抱きました。

同時に、海に住むクジラたちが陸に打ち上がり身動きが取れなくなっている姿に、僕はなぜだか言葉にならない強烈なシンパシーを覚えました。

そして、そんな折り良いタイミングで「中学生に向けた短編映画シリーズのひとつを作りませんか?」というお話をジーンシアターの井村さんからご提案いただきました。扱うテーマは「好きなものがない」というコンプレックスについて。このことは僕自身がずっと抱えていた葛藤そのもので、向き合ってみたいと思いました。

そうして「もしかするとこれらはひとつの作品に昇華することができるのではないか」と考えだしました。

そんなさまざまなタイミングがうまく重なり合ってこの作品を作るに至りました。最初はもう少し気軽なものをと考えていましたが、気づいたらすっかりのめり込んでいました。いつものことです。ただ、今回はその制作過程が個人的にはとても貴重な経験となったので、それを記録に残しておこうと思って久しぶりにnoteを開きました。

そもそものきっかけの淀川のマッコウクジラのこと、国立科学博物館の田島木綿子先生のこと、読んだ本、ストランディングネットワークのこと、実際のストランディングの現場に行ったこと、モチーフとしてのストランディング、「好きなことがない」というテーマ、音楽のこと、CGのこと、使った機材のこと、ロケーションのこと、などなどざっくばらんに更新していこうと考えています。着地点は考えていません。もし、このnoteから映画に興味を持ってくれる人がいたら嬉しい限りです。

本編そのもののネタバレはしませんが、もしかすると本編をご覧になってから読まれた方がいいかもしれません。もしくは読んでから本編を観るとより楽しめるかもしれません。いずれにせよ映画に併せて楽しめる一助になるものを目指そうとお思います。もしかしてこれがメディアミックスというやつでしょうか。

本編はベネッセ ミライ科 夏の映画祭として8月6日(日)にオンライン配信で初お披露目の予定です。それに限らず上映の機会も作っていきたいと思いますので、よければ心に留めておいていただけると嬉しいです。

最後になりましたが、本作にお力添えいただいたみなさまに、深く深く感謝いたします。


短編映画『寄り鯨の声を聴く』

■出演:穂紫朋子, 久保田メイ, 山口森広, 岡崎森馬, 渡邊雛子
■音楽 :ioni
■歌 :工藤さくら
■助監督:緒方一智
■録音:木原広滋
■ヘアメイク:浅井美智恵
■衣裳:みやび
■美術:佐藤陽子
■撮影助手:板垣真幸
■VFX:大目貴之
■3DCGアーティスト:吉田ヂロウ
■グラフィックデザイン:須藤史貴
■プロデューサー:井村哲郎
■製作:ジーンハート株式会社

■取材協力:
国立科学博物館動物研究部
田島木綿子
山田格
塩﨑彬
西間庭恵子
大枝亮

富士ストランディングネットワーク

ストランディングネットワーク北海道
松田純佳
名倉のどか

大房岬自然公園 (指定管理者 千葉自然学校)
清水旭

6DORSALS KAYAK SERVICES
藤田健一郎

■機材協力:
Canon
EOS C500 Mark II
FLEX ZOOM LENS
EOS R5 C

■撮影技術協力:
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
矢作大輔

FOO
スタジオ6.11

■ロケーション協力:
山田徹
山田真理子
神栖市フィルムコミッション



脚本・監督・撮影・編集
角洋介

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