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映画撮影の記録 | 「ふたり ~あなたという光~」

2020年10月~11月ごろに撮影監督として携わった自主中編映画「ふたり~あなたという光~」についての覚書です。せっかくなら自分の立場からこそ書ける、撮影に関しての記録を残しておこうと思いました。何かの参考になれば幸いです。

監督は佐藤陽子さん、中編映画「わたしのヒーロー」に続き呼んでいただきました。本作は現在ポスプロが進行中です。2021年2月11日にクラウドファンディングのリターンとしての初お披露目が予定されています。
クラウドファンディングは1/16終了です。この映画は現在のところ、クラウドファンディングご支援でしか視聴することができません。

既に支援総額は500万円を突破し、いかに待ち望まれている作品かが伺えます。作品やこのプロジェクトについての製作陣の熱い想いが記されているので、ぜひ覗いてみてください。

「きょうだい」ということば

ひらがなで書くきょうだいという言葉を、この作品に携わって初めて知りました。

一般的な兄弟姉妹ではなく、
障がいをもった兄弟姉妹がいる人(健常者)を
ひらがなで表記する「きょうだい/きょうだい児」と言います。

佐藤陽子監督の最新作「ふたり ~あなたという光~」はこのきょうだいにスポットを当てた作品です。障がい者をテーマに据えた映画は比較的多く存在すると思います。でも、その兄弟姉妹にフォーカスを当てるというのは、見聞の狭い僕にとっては、語弊があるかもしれませんが、とても新鮮で興味深いことでした。

・幼少期から、親や周囲の目が「障がい」をもった兄弟姉妹に注がれて、十分に愛情を受けられないこと/反対に、障がい児の分まで社会で活躍せよ!と過剰に期待されてしまう場合もあること
・学校でも職場でも、自分が「きょうだい」であることを言えないでいること
・一方、自分のライフイベントである結婚などでは、「きょうだい」であることが避けられない課題になること
・親亡き後の「障がい」をもった兄弟姉妹の人生を背負っている(背負わされている)こと

"きょうだい児である"ということは、人生におけるあらゆる選択で常についてまわることだと、初めて知りました。

知られざる現実に光をあてる「映画」を通じて、障がい者当人やその家族と、それ以外の人々との間にある分断を溶かして共に歩んでいく。その一歩を踏み出したいと本プロジェクトを立ち上げました。

僕は"それ以外の人々"の立場です。その分断の向こう側について、全くの無知だったことが少なからずショックでした。

映画とは、作り手から視聴者への手紙だと僕は思っています。結局は書かれている内容こそが肝要で、それは三間瞳さんをはじめとするプロデューサー陣や、脚本・監督の佐藤陽子さんの思いです。ただ、せっかくならメモ紙に走り書きされた手紙でなく、手に馴染む質感の良い紙で、丁寧な文字で、思い悩み抜いた言葉で書かれた手紙が届いた方が嬉しいと僕は思っています。

この分断を橋渡しするための手紙を、決して過剰に美化はせず、けれど鑑賞に耐えうる美しさで真摯に映し出さなければならないと思いました。

撮影について

本作では主な登場人物として
・主人公 橘 のぞみ  (中西 美帆さん)
・のぞみの恋人・加藤崇 (熊木 陸斗さん)
・統合失調症の妹・橘 希栄 (納 葉さん)
この3人がこの作品の軸となり展開されます。

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普段光が当たることのない"きょうだい"にフォーカスを当てる必要がありました。それぞれの関係性に寄り添い、芝居の繊細なニュアンスを掬い上げるためにも、フルサイズセンサーの豊かな表現と浅い被写界深度が必要だと思い、メインカメラとしてCanon EOS C500 markll、レンズはCanon CN-E PRIMEのセットを選択しました。フルサイズを活かしきった描写は圧巻でした。クセのない端正な描写でありつつボケ感はなだらかで、特に人物のクローズアップは特筆すべき美しさでした。特にワイドレンズでもなお被写体が浮き上がる立体感、深度の浅さに驚かされました。

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また、同じくフルサイズかつ機動力の高いミラーレス機のCanon EOS R5をサブカメラに選択し、基本的にはずっとDji Ronin Sに搭載しておくことで、機材転換の時間短縮を図りました。

また、特にデリケートなシーンでは芝居の回数を極力減らすため、R5を三脚に据えて2カメ体制で撮影を行いました。Bカメのオペレートは助監督の板垣さんにお願いしました。

R5とRoninSの組み合わせの際は、オートフォーカスを使うためにシネプライムでなくRF-EFマウント変換でEF 24-70mmを使い撮影しました。V-NDを内蔵したマウント変換を使用することで、フィルターワークの速度も向上させました。夜間であったり激しい動きの場面では流石にフォーカスが泳ぐこともありましたが、基本的には被写体を逃すことはなくしっかりと追従してくれました。

また、R5はスチル機としても活躍しました。せっかくなのでR5とシネプライムの組み合わせでスチルの撮影を行いました。

ふたり3-1

小規模で現場スタッフの人数も少なくやや無理がある場面もありましたが、それでも満足のいくクオリティで撮りきることができたので、このセットアップがベストだったと思います。

最後に

本作は自主映画です。エンタメ性に富んだ内容ではないし、興行収入が見込めるかは分かりません。でも、自主映画だからこそ取り組めた内容だとも思います。何より製作陣たちの利益を度外視した強い思いをしたためたこの手紙が、分断の向こう側にいる我々にいくらかでも届くことを願います。

もちろん、この作品で描かれていることはきょうだいについてのほんの一部も一部だと思います。僕もまだ言葉を知った程度に過ぎません。でも、知れば想像する余地はある。たったの40分で全てを描けるわけがないけれど、でもご覧になった方が「きょうだい」について知るきっかけとなる作品となれば、携わったものとしてこんなに嬉しいことはありません。

現時点ではクラウドファンディングにてご支援していただき、そのリターンとしての上映会(オンライン含む)にて本作をご覧いただくことができます。映画館での興行も目指していますが、自主映画であるため可能かどうか、いつになるかは未定です。

ご興味を持っていただけたら幸いです。

「ふたり ~あなたという光~」 機材編成

メインカメラ:Canon EOS C500 markll (EF シネマロックマウント)
サブカメラ:Canon EOS R5 
レンズ:CN-E PRIME 20mm, 24mm, 35mm, 50mm, 85mm, 135mm,
Canon 24-70mm f2.8 EF, 70-200mm f2.8 EF
フィルター:Hollywood Black Magic 1/4 (一部シーンのみ)
C4K 10bit 422 C-Log2 内部収録

最後になりましたが、今回快く機材協力をしてくださった皆様に、改めて深く御礼申し上げます。

キヤノンマーケティングジャパン株式会社 様
矢作 大輔 様
古屋 幸一 様
重 浩介 様

本当にありがとうございました。

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