『バンド・デシネ』

大体こういうものを始める時には、自己紹介だと思ったのですが、
苦手なので、先日ある朗読会に参加した際に読んだものを
挨拶がわりに載せます。読んでもらえたら嬉しいです。

以下本文。
※朗読会では実際に読んでいない箇所があります。

一 わたし、私、わたし

初めまして、ヨタです。私は、
二〇〇三年十二月二十八日に、地球上に引っ越してきて今十九年。
日で言えば、今日が七千二百五十三日目です。
後五十三日すれば丁度、二十歳を迎えます。

ある人が、こんな風に、自分を名乗っていました。
彼が、死んでしまったのが、丁度、一年前の今日、十一月五日。
彼はその時、一九歳。
次はどこを旅しているのでしょう。

私は、上村陽太郎と言います。
太陽の陽に太郎で陽太郎。
太陽の様にみんなを照らす明るい子になるのだそうです。
なれているのでしょうか。

普段は、演出と劇作を専攻しています。
演技はしたことがありません。人前に立つのは大の苦手です。

もう良いかい
まだだよ

   全員と目を合わすまで続ける

もう良いかい
もういいよ

ふと、小さい頃、お風呂上がった時、大きな声で
出たよー。って言っていたのを思い出した。
今は何をきっかけに湯船を出ていただろうか。
最近は、そう言うところをなんとなくで過ごしてしまっている。

【朗読】とは、声高く読み上げること。特に、文章や詩歌の思想・感情を汲み取り、発音正しく趣あるように読み上げること。 



二 旅人

・ルール 「」内、ト書は読んでも読まなくても良い。

ここにいるのは僕一人。ここには誰もいない。

ここは山のある国です。ここは花の咲く国です。ここは海のある国です。
ここは牛のいる国で。ここは猫もいる国で。ここは魚もいる国です。
でもこの国には空がない。この国には鳥がいない。
(ただ空間がそこにはある。)

ずっと向こうまで続いている野原に、私は立っている。
ずっと向こうまで見えている。
でもこの国には空がない。飛び立つはずの鳥がいない。
ずっと向こうまで見えるのに、どこまで行っても地平線がない。
きっと野原のあることには、見守る空があるのでしょう?
きっと地面のあることには、地平線だってあるのでしょう?
空を探しにいくのです。鳥を見つけに行くのです。

空は、どこかへ隠れてしまったのでしょうか。
鳥は、どこかへ逃げてしまったのでしょうか。
空はどこにあるのだろう。鳥たちはどこへ行ったのだろう。
山のてっぺんに登ってみても、そこには鳥は見つからない。
海の底へ潜ってみても、そこには空は見当たらない。
空はどこにあるのだろう。鳥たちはどこへ行ったのだろう。

空は本当にあったのだろうか。ふと立ち止まって考える。
本当に空はあったのでしょうか。あるいはいなかったのでしょうか。
どれだけ叫んで探してみても、どれだけ優しく声をかけても、
返事は返ってこない。

空は、恥ずかしがり屋でしょうか。空は、へそを曲げているのでしょうか。
空は、どこかへ隠れてしまったのでしょうか。
鳥たちは、どこかへ逃げてしまったのでしょうか。
空はどこにあるのだろう。鳥たちはどこへ行ったのだろう。
もう一度山に登ってみると、今度は遠くで声がした。
「こっちだよ」
声のする方へ向かってみると、そこには何もない。
空は恥ずかしがり屋でした。すると、今度も遠くで声がした。
「そっちじゃないよ」
声のする方へ向かってみると、そこに鳥は飛んでいない。
鳥は、へそを曲げていました。
空はどこにあるのでしょうか。あるいはないのでしょうか。
「ここじゃないよ」
鳥たちはどこにいるのでしょうか。あるいはいないのでしょうか。
「ここにはない、がある」
空はあるのでしょうか。あるいは、

   そこに、男が一人立っている。

こう言うことなのでしょうか。朗読、は、演技、ではない。



三 自らについての記述

これが全てではないこと。全てを形にすることは不可能なこと。
私のごくごく一部、茶碗に盛られたお米の中の一粒みたいな、ハンカチの糸一本みたいな、何かを形作ったものの一欠片(かけら)にしか過ぎないこと。
でも、開示されたその欠片はひどく脆く大切なもので、
この時間はある意味自然で、ある意味危険な営みであること。
それを忘れずにいたい。

朝ごはんを食べているとき、片手間でスマートフォンを見ながら、
母親の声が聞こえてくる。(一人二役をその場で)
「ほら早くしないと、遅刻するよ」
「わかってる」
「ほらスマホばっか見ない」
「はいはい」
「はいはいって、もう、お弁当ここ置いとくよ」

   母親のまま、立ち上がり

わたしを語ることは、それくらいの、ほんのそれくらいのことだった

   赤子を抱いている

泣かないで?泣かないで?
大丈夫だから、ここにいるよ
うん、大丈夫だよ、ねぇ?
うん、うん。
わたしは、彼女がなんで泣いてるのか、分からなかったけれど、
それでも、なんのために泣いているのかはどうしてか伝わってきた

   気づくと赤子は消えている
   赤子となり泣いている

きっと、この綺麗な体にも、真っ赤な血液が流れていることを、
全身で、大きな声で、精一杯伝えているのだ

(赤子の泣き声)

泣くな、泣くな
いつだってわたしはこういう時に泣きたくなんかない
頭で必死に紡いだ言葉が涙になっているだけなんだ
その澄んで見える涙の中にも、確かに真っ赤な真っ赤な血液が流れているのだ
もっと話したい、もっとあなたを見ていたい

(幼児の泣き声)

あなたがそんなにも真っ直ぐにわたしを見るから、
わたしはあなたから目が離せない

(泣き声)

あなたがそんなにも美しいのは、時折見せる笑顔でも、
静かになった寝顔でもなくって、その小さな体の中に、
目一杯ぐちゃぐちゃになった矛盾を抱えても、
それでも、叫び続けるその声とその体に流れる血が赤々としているから

全てに理由をつけてくれるな、泣いてもいいじゃないか。



四 バンド・デシネ

   一人一人に目を向ける
   その後この文章に目を向ける

これまで死んでしまった人たちに
私の心がわかるだろうか
私の感情がわかるだろうか
常に変わり続けるこの感情に
死んでしまった人たちは追いついて来られるだろうか

   少し考える、そのそぶりを見せる

それでも
今の私があるのは
その死んでしまった人たちのおかげで
じゃあ彼らが見てたのは”今”なのだろうか

未来を見ることなんてできない
でもきっとそうとは知らずにずっと先を見ている

今に何もないと歴史を羨む気持ちも
未来を悲観してもうダメだと諦めてしまう気持ちも
そういうものの全てをもって
空を見上げてみる

どれだけ汚れて見えても
目を逸らしちゃいけない
そうしたら
これまで死んでしまった人たちにも
胸を張って誇れるような
そんな人間にになれるだろうから



五 故郷についての考察

①朝、起きる、畳む
 畳んで、分けて、洗う
 洗った、濡れてる、乾かす
 干して、乾いた、着る
 着た、汚れる、洗う
 夜、目を閉じる、眠る

②朝、起きて布団を畳む
 布団とシーツ、分けて洗う
 洗った洋服、乾かす
 外の服は乾いている。着替える
 きていた服は、汚れているから。洗う
 夜、目を閉じる、眠る。

③朝、起きて、パジャマを畳む
 私と父、分けて洗濯。
 手を洗って、濡れた手を、乾かす
 干してある、ドライフルーツを、切る
 切った、手が汚れて、洗う
 夜、目を閉じる、眠る。


うさぎおいしかのやま
こぶなつりしかのかわ
夢は今も巡りて
忘れ難きふるさと

いかにいます父母
つつがなしや友がき
雨に風につけても
思いいずるふるさと

こころざしをはたして
いつの日にか帰らん
山は青き故郷
水は清き故郷

以上、五本になります。
読んでくださった方ありがとうございます。


   






















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