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それが倒れてくるとき、奔る亀裂の絶叫に

それが倒れてくるとき、奔る亀裂の絶叫に背を蹴ら
れ、自分がどこに在るのか、そこに在るのは何なの
か、目にしているのは何か、何をみているのか、な
ぜ蹴られるのか、見たことのない光景、記憶できる
のか、それが倒れてくるとき、そこから自分がどの
ようにしてどこのここへ移動し、私のあの小さな箱
庭はどうなったのか、爆撃音、散逸していく画像コマ撮り
時間の軸を一本に纏め、そこに繋ごうとする自分が
何者であるかふりかえろうと、それが倒れてくると
き、欠損だらけの絲鋸嵌絵ジグゾーパズルに埋まり、それは何をうつ
していたのか疑懼ぎくする私のうえに、それは倒れこむ

大丈夫ですか、腹の切創から私の腸がはみでていま
す、私の下肢あしはどこにありますか、電話が通じる方
はいますか、お母さんに連絡してください、お名前
は、誰か聞こえますか、何が起きているのですか、
助けてください、私の聲は聞こえますか、その頭蓋あたま
はすでに潰れています、誰か、誰か、その目玉は誰
のものですか、何をみているのでしょう、私は何も
みえない、彼は息をしていません、ああ彼女の顔は
やすらかです、児どもがその下に、誰が、誰がこん
なことを、誰かこたえて下さい、なぜ誰も来ないの
か、私たちだけしかいないのか、世界が壊れたのか
も、助けは来ないのかも どうして しれません 
出られないの とても 水を寒いですください寒い

煤煙に覆われる貌はどれも黑面で、挫創だらけの腕
に指先は小刻みに痙攣し、焦点の定まらない眼球が
昏い世界を揺らす、お母さん、児を抱きよせる、地
下鐵の乗降場プラットホームをみたす叫喚と焼け爛れる車体の刺激
臭、左右にふれ前かがみに足を引きずる女は首のな
い縫ぐるみを抱いている、小型犬の絶狂、心がつぶ
れる、泣いていいよ、そのときではないわ、アイは
どこに、停止する自動階段エスカレータを転げるものが怒鳴る、
彼らがやってくる、迷走する響動どよめき、逃げよう、どこ
へ、手を離さないで、踏まれる老人の上に身體からだを投
げだす、みんなやめて、混濁する半影が薄闇をかき
乱す、世界の規範は変わった、心の錘が踉蹌ふらつく、
老人は死んでいる、立てる、私たちもいきましょう

顚倒する世界に強打した脳震盪、昨日までの自分が
おもいだせない、大切なことなのに、一輪の花もの
こさず荒廢する言語野に、圧倒的に単純な言葉が襲
来し、暗号解読のまにあわない怒り、それは絶望、
報復、奪掠、感情を単純な槍に変換する死語の危険
な陶酔、浄化、灰を焼きつくしてなおおさまらない
焰、うまれるときは持っていないのにいつ学んだの
か、憎悪することを、偽装される正義の道を駆けて
はいけない、一瞬の逡巡たじろぎ、燃えあがりやすい世界で
錘石の心音こころのおとを聴くことはできるか、石はよく語る、
物質は忘れられることのない告白と受任から造られ
る、この身體はなおさらだ、彼らと共に謳い、身體
の片隅に隠れている錘の聲にこたえることは可能か

お母さん、白にくるむ青黒い児を抱く男が、靜かに泣
いている、お別れなの、瞼へ接吻する男にその児は
穏やかに目ざめ微笑みかえす、いえ愛よ、みんな今
どこ、母がしっかりりと肩を抱く、男は風にとけてゆく児
の匂いで肺をみたし、いかりではなく感謝のことばで
児をつつむ、生きることを愛するこの児とともにいま
を愛している、肉片が飛びちり、倒壊する混凝土コンクリート
床にも天井の隙間にも天を掴む腕が突きだされ、広
くなる空を飛びかう無人機の寫眞機カメラが彼らに焦点をフォー
あわせカスしても、彼らの時間はみだれない、私の魂よ、
私の小さな真実よ、男と児の額が一つとなる、あな
たも祈りなさい、お母さん、聲をあげながら息を吐
き、児を強く抱き、息を吸い、赤点が射し炸裂する

赤に重ねる赤は透明だ、三度目ならもう何もあらわ
さない、空も赤、建物も赤、道も赤、残骸も赤、川
も赤、疵口も赤、ゆえにその赤は自己の前にある赤
でないものを求め征き、粘粘ねばねばと垂れおちる、それは
より嗜虐的な赤かそれともより邪な赤か、純粋な赤
は何処に、肌触りのある赤、温かい眼前性プレザンスをもつ赤
はどこにあるのか、赤の愛と死、そして告発と懺悔
の赤、和解しえない赤と赤、赤と赤の絶対的非対称
性、語りえず葬られる赤の赤、堆積する赤を隠蔽す
る赤、赤による赤の殺戮、この無残な赤の楽土は誰
が望んだものなのか、東の空に昇ることができない
赤、たとえ倒れても誰も気づかない赤、枝に実るこ
とのできない赤、大地に到達できない落果する林檎

灰燼に汚涜される無力な無彩色の街、灰色の身體、
奥行を奪われる朦朧都市に、遠くなのか、近くなの
か、重機の凶暴に地は戦慄き、虚ろな空間のどこか
が裂開し膿が嘔吐している、誰のものか判らない松
葉杖を借り、負重する痛みに耐え、彼は家族の名を
よぶが、あそこでもあの蔭でも、多くの名前が徘徊
し、干あがる水辺に項垂うなだれる飢渇、川底から貌をあ
げないものの脇に、積みあがる塚に貌ののぞくもの
の開いた瞼を閉じ、ただもとめぐり、氏名を書き
記す端材が乱立する集団墓地に、憔悴する白彫ピエタに訊
ねる、見ませんでしたか、いえ、ありがとう、あな
たたちに幸運を、あなたたちに安らぎを、偏倚へんいする
軌跡は灰に埋もれ降りやまない塵埃に足をとられる

落日を追い灼ける空、陽が失われるほどに焦げつく
半球に、雷より緩やかに蛇行する黄煙が、灯りのな
い大地に影をひき、緑に暴かれる白影は弓なりに反
跳する、そして希薄な真昼、累累と骸、やがて夢み
ることのない浅い漆黑、そしてまた虚脱する薄暮、
多くの小さな聲が木霊する、その貌の汚れをとりま
しょう、瞼を透りぬける白い光、きれいな顔、貌を
拭いてもその白布は汚れない、私たちの顔を穢すも
のを信じてはいけない、あれはアイだろうか、児ど
もたちはこたえる、まだ来ないよ、あなたの顔もそ
のままで、うつつなのか、お父さん、重なる頬があつい

【23N27AN】
*画像はImage Creatorにて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。

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