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映画をつなぐのは人だった話〜映画『宮城野』上映会 in 鎌倉

3月16日(土)に参加した上映会について感じたこと、書いておきます。
映画を豊かにするのは一人では難しくて、ある軸に共感する人の集まりによって、映画は出来ているっていう話に繋がっていくと感じたのです。

参加したのはこちら、
映画『宮城野』~樹木希林さんを偲んで鎌倉アンコール上映~ 

この映画の山崎達璽監督とは、10年以上前、まさにこの映画の製作段階で出会いました。結果仕事として関わる事ができなかったにもかかわらず、関係が続く稀有な存在です。そんな山崎監督が本腰入れて鎌倉での上映会を開催するというから、行ってきました。

鎌倉は年に数度は訪れる馴染みの町(?)だけど、映画館ってないなー、と思っていたら会場は鶴岡八幡宮への参道に面した鎌倉ギャラリー。メインストリート感あふれる立地と趣にして、ここでは映画初上映だそう。

中に入ってびっくりです、スクリーンが大きい!!

監督の住まう鎌倉で開催することと、上映環境にこだわる、とは聞いていたものの、一日限りゆえの妥協は一切なし。映画館ではないギャラリーという環境をいかに上質な上映空間にするかに、工夫と機材が最大限投入されていたのです。一番前の席(ソファ)の見上げ具合すごいですよね、でもとっても没入感ありそうでした。
しかも本邦初公開の4Kヴァージョンにして、サウンドも新たにミックスした5.1ch音源とのことで、スピーカーに囲まれた密な空間を出現させていて。
映画との距離、親密度が自然と高まるというものです。

映画監督・山崎達璽の、商業映画デビュー作『宮城野』にかけた意気込み、作品を大切に想う気持ちの表れでもありました。

映画『宮城野』(2008年製作)
監督:山崎達璽/原作:矢代静一/脚本:酒井雅秋
出演:毬谷友子、片岡愛之助、樹木希林、佐津川愛美、國村隼
音楽:Jazztronik/ディレクターズカット版 113分

この映画、観てもらうのが一番なんですが……なかなか機会がないので。
浮世絵師・東洲斎写楽をモチーフにした、ミステリーでありアートでありヒューマンでもラブでもあるドラマ。
そんな定義は観客に委ねられているのですが、原作の戯曲作家・矢代静一氏の娘である毬谷友子さんと、今をときめく歌舞伎俳優・片岡愛之助さんが主演、樹木希林さんも名を連ねるキャスト陣も強力なので、ここから入るのもよし。

スタッフで特筆すべきは美術の池谷仙克氏。山崎監督が中学生の頃『帝都物語』(1988年/実相寺昭雄監督)を観て、監督する時はこの人を美術に、と心に決めていたといいます。他にも寺山修司や鈴木清順監督とも組む大御所で、遺作として2017年の『銀魂』を手がけられていたんですね。
スタッフ起用で実現するのもすごいですが、その池谷美術が本作の監督演出とマッチして遺憾なく発揮され、冴え渡るのが本作なのです。監督が歌舞伎を愛するがゆえの演出も多く、古典芸能からの芸術・美術から入ってもよし。

ただ、今回「樹木希林さんを偲んで」をメインに据えていたのは、鎌倉で上映するにあたって多くの人に観てもらいたかったからだと、監督は仰っていました。数多くの文化人・映画人が鎌倉を愛した逸話がありますし、文化的客層も潜在的には多い街で、この映画との相性は抜群なはず。でも上質な映画の上映会だけでは人は動かないのが現実です。鎌倉の観光客、いま半端ないですからね、地元に近い人は休日にそうそう出歩くのも憚られるでしょう。だから人を動かすインセンティブって、かなり大事なんですね。

ある意味旬で、思い出深い樹木希林さんでつなぎ(実際希林さんの演技は秀逸で必見なのですが)、映画を見てもらってこそ、満足させられる自信があるんです。こうしたある種の開き直りはとっても正しくて、実際良い上映会、映画だったという印象を上書きして帰られたお客さんも多かったはず。それは観ている側から肌で感じました。

映画だけでなく、山崎監督はトークも絶品なんです。希林さんの思い出話、小ネタ話から、映画への興味につながりしっかり深まるんですね。謎に対する監督解答もあり、おもてなし精神に溢れていて、恐れ入りました。

トークのお相手だった俳優の島隆一さん、彼も山崎達璽と映画に惚れ込んだお一人だそうで、今回企画の仕掛人でした。この上映会の実現には、こうした何人もの人が関わっていて、そういった意味でも人がつないでいく映画といえます。

この人たらしぶりも監督の才能で、こんなにアートな作品を作るのに、アーティストぶったところがない。なのに、この着物姿にも表れているように自らの美意識がブレない。映画監督としてあるべき当たり前の姿かもしれませんが、ブレブレの監督って世に溢れていますものね。

という訳で、映画をつなぐのは人だった話です。何より私が人に惹かれ、信じてこの場にいたことに満足できたし、つなげたいと思ってこのnoteを書いているという。

映画会社に務めていたので、映画を作るのも配給するのも当然ですが、人との共同作業により、そのチームの良し悪しが映画の出来と結果に大きく影響することは見えていました(例外もある)。
そして観る側にとっても、映画の体験を豊かにするのは、知識や情報であったりもするんだけど、何よりそれは人からもたらされるものが大きいということ。映画自体もその情報も玉石混交のなか、何をどう選びどんなものが得られるか、そこにはすべて人が介在するし、介在させた方がよさそうです、という話で。

受け身で流行りのものだけ見ていては、商業主義に押し潰され、本当に良いものがわからなくなっていくんです。選ぶ力は積極的に身につけたいし、それは自分にしかわからないので、自分との対話も大事。
発することで得ることも大きいのは、最近映画やいろんなコミュニティを通じて感じていて、とてもリンクしたのでした。

最後に、山崎達璽監督に興味を持たれた方は、こちら
素敵な体験をありがとうございました。

最期まで読んでいただけただけでも嬉しいです。スキをいただいたり、サポートいただけたら、すこしでもお役に立てたり、いいこと書けたんだな、と思って、もっと書くモチベーションにつながります。 いつかお仕事であなた様や社会にご恩返しできるように、日々精進いたします。