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詩・礼・楽を学ぶ〜「すごい論語」刊行記念トークイベントより

5月25日に青山ブックセンター本店で行われた、安田登さん著『すごい論語』(ミシマ社) の刊行記念、トークイベントに参加しました。

能楽師でありマルチ過ぎる活動をされている安田登さんと、本書で対談された3名、いとうせいこう氏、釈徹宗氏、ドミニク・チェン氏が全員集結という豪華イベント! 案の定ですが、途切れることのないトークが繰り広げられ、問いや答え、気づきと反応、新たな発想など、それぞれがリンクする濃密な1時間半に。その中で、自己抽出したエッセンスの一部を、記しておきたいと思います。

============追記============

縁側ラヂヲに音源がアップされました!

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言わずと知れた幅広いタレントをもつ「いとうせいこうさん ✕ 音楽」
宗教学者であり住職でもある「釈徹宗さん ✕ 宗教」
AIやこれからの社会を研究する「ドミニク・チェンさん ✕ テクノロジー」
安田登さんと各々のテーマ視点、深い知見で、現代的な『論語』の解釈に迫っていく本、それが『すごい論語』。その番外編となったトークで、論語素人としては、論語の吸引力がいかばかりか、知ることになりました。

安田さんは『論語』を社会資源であるとし、各分野で、その資源の活用方法があるのだとおっしゃいます。では、どんなふうに捉えられるか。この4名が話しはじめると、不思議なことに、分野なんて必要だったっけ?という位、縦横無尽にクロストークが進んでいきました。付いていくので精一杯のなかでも 、やはり「論語」引用からのお話が印象的でした。

「詩に興(おこ)り、禮(れい)に立ち、樂(がく)に成る」

を順に追ってみて、詩(言葉)⇒禮(礼)⇒樂(音楽)と捉えてみるというお話。3つのいずれも教養として大事だけれど、「孔子は人間のアップデートを目指したのかもしれない」との仮説を、現代にあてはめると非常に面白いのです。

詩(言葉)を自在に操るようになった人間を、ヒューマン1.0とすると、宗教やそれぞれの民俗の礼(儀礼や礼儀)を備えて、手順に従えばうまくいくということを覚えるのが、ヒューマン2.0。ヒューマン2.0になるには、礼をわきまえることは非常に大事だよね、日常でも礼を忘れたらヒューマン1.0に逆戻りしてしまうよね、という戒めもありつつ。じゃあ音楽(歌と舞)を心得たら、ヒューマン3.0! ラッパーで音楽家のせいこうさん、能楽師の安田さんがそこにいて爆笑。

冗談ではなく、それらを自然に追求してらっしゃるお二人は本当に3.0だと思いますが、音楽って実は、それほど人間にとって忘れてはならない重要なものなのではないか、と想起されますよね。
だってなぜライブで何千人ものお客さんが一様にノッてるの? とか、世界各地の民俗音楽って、どれだけ多様で、大切に継承にされているか、とか。

また、関西人は数を数えるとき、調子をつけるというウワサを、大阪育ちの釈さんが当然のごとく実証。そのメロディ、知らなかった……。意味よりも調子を重視するのが関西人、関西弁のノリはヒップホップ(!?)であって、「ノリで答えが変わるのは日常だよ」なんて楽しいお話も。いい加減は「良い加減」、テキトーだって「適当」と思えば、調子やノリを忘れない関西人のアイデンティティ、高尚! と羨ましくなってしまいました。

ドミニクさんからは吃音持ちの人は、言葉を話すより歌やリズムにすると声が出るのだ、と。言葉というフィルターは人間本来持っていなかったのだから、歌や舞でコミュニケーションをとることが起源であり自然な状態なのかもしれません。歌やダンスはアナログだけど、言葉はデジタルであり、そこには自己と他者の境界があるのではないか、という見方も面白かったです。


その他にも「衣(ころも)」の話から、衣装や文様にどれだけの意味があったのか、じゃあ今ファッションの意味するところを考えてみたり。孔子が語らなかったのが「」と「」だというのも知って、個人的に「仁」という漢字と意味が好きなので、興味を持ちました。(「仁」は「にんべん」に「2」から、ヒューマン2.0では? というところにつながったのでした。)

こうして、問いが発展し、飛躍し、また戻り、つながる。なにせ、各分野の第一線の皆さんですから、呼応力が半端なく……チェーンストーリーを紡ぐように、楽しまれているのが伝わりました。話があちこち行くのだけれど、「おぉ、裏で『論語』が糸引いてた!」 という発見を、皆さんで共有することにもなりました。

聞いたことはアナログ⇒書くことはデジタルへの変換だから、ほんの一部しかまとめられないのがもどかしいです(言い訳……)。ですが、朗報です! 来月から安田さん、インターネットラジオをはじめるのでこの模様も配信されるそうです。

これは聴いて体験するのが一番。ぜひぜひ、聞いてみましょう。
私は4人のサイン入り本という、心強い資源をゲットしたので、あらためて読んで、自分なりの「論語」活用に思いを馳せておきたいと思います。


今回のご縁は、先月参加した「アート思考と身体」のイベントで、安田さんの『論語』にも触れられた話が興味深く、もっと聞きたい! という単純な動機でした。やはり期待を裏切らない、また違った側面から、安田先生の教養と探究心に触れることができました。ありがとうございました。


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