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禁止されるほど読みたくなる【金色夜叉】岩波文庫チャレンジ56&57/100冊目

先の記事「蒲団」の一部“「金色夜叉」などを読んではならんとの規定“より、一目散に尾崎紅葉「金色夜叉(上下)」にチャレンジ。

続教科書シリーズ。学校で覚えたのは作者と作品名だけで、一切作品は読んで来なかったのだ、と今更ながら身につまされる。

実は上巻はほんのちょっと読んで閉じた形跡が(笑)。冒頭が難しい。面白い部分に入る前の我慢部分、最初のいかめしい文語体を抜ける必要がある

言文一致の会話まで進めば、ジェットコースター並みにページを捲る手が止まらない!面白い!すごく面白かった!!人に勧めてヨシ✨

ではなぜ「読んではならない」などと言われたのか。

調べても良く分からなかった。推測する限り「通俗小説を読む暇があったら学問しなさい」という事だろうか。金色夜叉というタイトル通り、お金の亡者と化す主人公みたいになってはならない、という事もあるのだろうか。

禁止と言われればやりたくなるもの。読むなと言われれば読みたくなるもの。

問題の冒頭はこれ、ご参考までに。

未だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠(さしこ)めて、真直に長く東より西に横たわれる大道は掃きけるように物の影を留めず、いと寂しくも往来の絶えたるに、例ならず繁き車輪の輾(きしり)は〜

現在の読書チャレンジをしていなかったら読み進められていたかどうか・・
大きな目標があるというのは難しい本を読み進める良い動機になりますね。


あらすじ(未完でも満足のエンディング)

間寛一と宮の恋物語。若い頃の宮は移り気で、婚約者だった寛一ではなく資産家の息子(ダイヤモンド)と結婚。

信じられるものは金だけと、捨てられた寛一は金色夜叉(高利貸し)に

人間よりは金銭の方がはるかに頼みになりますよ。頼みにならんのは人の心です!

世間から憎まれる高利貸し業。その身に起こる悲劇。心配する学友と近寄る女。数年後変わり果てた寛一と再開した宮は。二人の恋の行方は。そして寛一は改心できるのか。

その財は何になるの乎、何のためにそんな事をするの乎

金色夜叉(前編・中編・後編)
続編、金色夜叉
続続、金色夜叉
新続、金色夜叉

当時の新聞連載として続いていたが、作者が執筆中に亡くなったため未完のまま(引っ張りまくったと分かるタイトル笑)。それぞれの人物が最後どうなったかは記されていないが、残されていた筋書きが解説で読める。これで十分。

有名なセリフ・読みどころ

◯全員一致でしょう

有名なシーンといえばここではないだろうか。

あぁ、宮さんこうして二人が一処にいるのも今夜限だ。一月十七日、宮さん、善く覚えてお置き。来年の今月今夜は、寛一は何処でこの月を見るのだか!

一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死でも僕は忘れんよ!いいか、宮さん、来年の今月今夜になったらば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから・・

中途略あり

岩波文庫表紙の一場面。再三の説得も通じず、寛一との約束は反故に、好きでもない金持ちと結婚する判断をした宮への恨み節

月が曇ったらば、寛一は何処かでお前を恨んで、今夜のように泣いていると想うがいい。

熱海の浜で別れて以来、宮を恨み続ける寛一と、結婚して数年経って初めて自分の過ちに気づく宮。富と裕(ゆたか)には飽きがくると。だがこの過ちは、当時何も知らなかった自分を欺いた夫のせいだと。

なぜあれほど好いてくれた寛一を捨てたのか、最初の大きな謎だった宮の気持ち・人物像、それが段々見えてくるのも面白い。「なぜ」が頭から離れず「知りたい」気持ちにさせられた。

ちなみに、この作品で熱海温泉が有名になったそう。

◯自分的好きなシーン5選


寄寓していた家が焼け落ち(放火)、何もなくなってしまった時の寛一の心境

前の恨の消えざるにまた新たなる悲を添う。㷀然(けいぜん)として吾独り在り。在るが故に慶ぶべきか、亡きが故に悼むべきか、在る者は積憂(しゆう)の中に活き、亡き者は非命の下に殪る(たおる)。そもそもこの活とこの死とはいずれを哀み、いずれを悲まん

物語だけでなく、哲学が入っている所が好き。To be or not to beを思い出した。個人の好みによるのだろうが、現代小説が物足らなく感じてしまうのはこの哲学の部分ではなかろうかと、思った次第。


荒尾(元学友)がいい奴すぎる

寛一を裏切った宮への言葉
敵にはなるまい、けれど力にはなられんですよ」

寛一への言葉
「君のラヴァは君に負いた(そむいた)じゃろうが、君のフレンドは決して君に負かんはずじゃ」

学業を辞めて高利貸しに成り果てた寛一の足を洗わせようと説得。
「病があるからと謂うて毒を飲んで、その病が痊る(なおる)じゃろうか。」「君の親友のある者は、君がその才を用いるために、社会に出ようとするならば、及ぶ限りの助力をする精神であるのだ。」

なんとここ(下巻P54)で泣いた(笑)。人情に弱すぎる

旧友からの必至の説得、ここで改心するかと思えば、しないんだなぁ「僕は高利を貪る畜生だけれど、人を欺く事はせんのだ。」まだ引きずっている。


見惚れ・気惚れ・底惚れ

偶然同じ宿で密会していた雅と鈴に心の安寧を見出す寛一。鈴から女の惚れるには3通りあると聞かされる。

見惚れ・・ちょいと見た所で惚込んでしまう
気惚れ・・様子がいいとか、気合いが嬉しいとか(性格や雰囲気)
底惚れ・・お肚(おなか)の中から惚れる

若い内はどうしたって心が一人前になっていないのですから、やっぱりそれだけで、為方(しかた)のないものです。

年齢による女の恋の3通りを聞いた寛一は一人得心、大爆笑。ここの「はははははははははは!」は、小説に書いてはいないけど、若かった頃の自分はそんな事も分からんかったのか、分かってあげられなかったのか、なんてバカな時を過ごしたもんだ、という心の声に変換された。

自分と宮の恋はダイヤモンドに奪われたが、雅と鈴の恋は罪名には奪われない。このセリフも良い。

耀ける金剛石(ダイヤモンド)と汚れたる罪名とは、いずれか愛を割くの力多かる

(罪名は雅の負った罪:主人のお金使い込み)


悔悛する宮

いかばかり大いなるダイヤモンドも、宮は人の心の最も小き誠に値せざるを既に知りぬ。


修羅場!

金色夜叉の面白いところは、そのセリフだと思う。字面を追っているだけなのに、まるでドラマを見ているかのよう。ここ好きなんですよ。

振り向いてもらえない女
「この女で御座いましょう」

「貫一さん!」

振り向いてもらえない女
ええ、やかましい!貫一さんは其処に一人いたら沢山ではありませんか?貴方より私が間さんには言うことがあるのですから、少し静かにして聴いておいでなさい
 間さん、私想うのですね。つまりこういう女が貴方に腐れついていればこそ、どんなに申しても私の言は取上げては下さらんので御座いましょう。貴方はそんなに未練がおわり遊ばしても、元この女は貴方を棄てて、余所へ嫁に入ってしまったような、実に畜生にも劣った薄情者なのでは御座いませんか。ーー私よく存じていますわ。貴方もあんまり男らしくなくておいでなさる。それは如何にお可愛いのか存じませんけれど、一旦愛想を尽かして逃げていった女を、いつまでも思込んでぐずぐずしていらっしゃるとは、まぁ何たる不見識なことでしょう!貴方はそれでも男子です乎。私ならこんな女は一息に刺殺してしまうのです。」

カッコよ。効くよねぇ、ストレートパンチは。

勉強した言葉など

九重の天、八際の地

天を中央と8方向の九つの方角に区分した古代中国での総称。中央は鈞天(きんてん)、東方は蒼天(そうてん)、西方は昊天(こうてん)、南方は炎天(えんてん)、北方は玄天(げんてん)、東北方は変天(へんてん)、西北方は幽天(ゆうてん)、西南方は朱天(しゅてん)、東南方は陽天(ようてん)。

・心火と書いて「ちんちん」と読ませる

・高利貸=アイス、氷菓子から
 美人の高利貸しをクリーム、アイスクリームから

行く水に数画くよりも儚きは、思わぬ人を思うなりけり
(流れる水の上に数を書いても消えてしまって儚いが、さらに儚いのは、
思ってくれない人を慕って思うこと)😭これ好き


良い作品に出会えました✨

岩波文庫100冊チャレンジ、残り43冊🌟

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