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知られざる名作を見つけた【銀の匙】岩波文庫チャレンジ54/100冊目

チャレンジ54冊目中勘介「銀の匙」
作者が27歳の時に自身の子供時代を振り返った回想録。

「失われた時を求めて」読了後は日本文学が恋しくなり、教科書シリーズを読み進めているのだが、本作は学習した記憶がない(自分だけかもしれないが)

きっかけは荒川洋治さん「文庫の読書」。この中で触れられていたので記憶の片隅に残っていたらしく、本屋で見かけて手に取った。ここで目にしなければ出会えたか分からない本だったが、読んで良かった好きな作品の一つに数えたい。


全体的に素朴でほんわか。古き良き、畑・生垣・茶畑、のどかな風景が瞼に浮かぶ。当時を知らなくても、言葉から想像できる事もあって、なんとも懐かしい気分になる。茶箪笥は実家にあったなぁ。

そしてここで水中花が出てくるとは思わなかった。初めてこの言葉を知ったのは、外国文学「失われた時を求めて」の中(リンクはその時の記事)。日本の風物詩に偶然出会えて嬉しくなった。

作者がすごいのは誰もが大人になる頃には忘れているであろう、子供時代の些細な行動を緻密に繊細に描きあげているところ。

私は常にかような子供らしい驚嘆をもって自分の周囲を眺めたいと思う

子供時代が作者と重なる所もあって、自分の昔を思い出した。引っ込み思案で、親の裾を引っ張ったり、誰かの後ろに隠れたり・・してたかもなぁ。

文豪・夏目漱石が認めた価値

作品の価値を最初に認めたのは夏目漱石だと言う。

子供の体験を子供の体験としてこれほど真実に描きうる人は、(漱石の言葉を借りて言えば)、実際に「見たことがない」。大人は通例子供の時代のことを記憶しているつもりでいるが、実は子供として子供の立場で感じたことを忘れ去っているのである。

解説より

尊敬する夏目漱石が賞賛したと言うことは、この作品に感動した自分は同じ感性の持ち主と言っておいて良いでしょうか?☺️

印象的なシーン

繊細な主人公は学校で浮いた事があると、人目を離れてひとりぼっちになりたい気持ちになる。机の下や戸棚などに隠れては落ち着いた気分になるが、1番気に入ったのは箪笥の横、その箪笥に平仮名の「を」の字を書く癖がついた。

「を」の字はどこか女の坐った形に似ている

無数の「を」の字が行列をなす。小さな主人公は何事かあるごとに「を」の字に慰謝を求めていた。

主人公が大好きな伯母さんと山崎の戦いごっこをする場面も微笑ましい。自身は加藤清正、伯母さんは四王天但馬神で立ち回る。雨の日などには7、8ぺんもおんなじことを繰り返して遊んだこの遊び、後年の二人の再会でも一役果たす。

昔の歌に

最近「万葉集」をペラペラめくっている。昔の歌の好きなのは、リズムもそうだが、情景が浮かんでくるところ。今の歌詞と比べるのも一興だけど、流石に意味を調べないと分かりづらい・・というわけで登場した歌を調べてみた。


①契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
②淡路島 通ふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守
③大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
④天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ 乙女の姿 しばし留めむ
⑤諸共に あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし
⑥これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関

意味(参考:https://evrica.me/liberal-arts/category/hyaku-nin-isshu

①固く約束したのにね。お互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、波が末の松山を越すことがないように、二人の愛が永遠であることを。(波は気持ちの変化、波越す、で気持ちが変わること、浮気)

②淡路島から渡ってくる千鳥の鳴く声のせいで、幾夜目を覚ましたことであろうか、この須磨の関守は。

③大江山を越えて生野を通って丹後へ向かう道は遠すぎるので、いまだ天橋立に行ったこともなければ、(丹後の国にいる)母からの手紙も見ていません。

④空吹く風よ、雲のかよい道を閉ざしておくれ。天女の舞う姿をしばらくこの地上に止めておこう

⑤私がお前を見て愛しく思うように、お前も私のことを愛しいと思ってくれ、山桜よ。お前以外に私を知る人は(こんな山奥には)いないのだから。

⑥これがあの、これから旅立つ人も帰る人も、知っている人も知らない人も、別れてはまた会うという逢坂の関なのですよ。

例え意味が分からなくても、なんとなく口ずさみたくもなるんですよね。

歌以外で気になった言葉「天龍八部衆」・・仏法を守護する8部族
天(Deva、てん)
龍(Naga、りゅう)
夜叉(Yaksa、やしゃ)
乾闥婆(Gandharva、けんだつば)・・指輪物語ガンダルフの由来?
阿修羅(Asura、あしゅら)
迦楼羅(Garuda、かるら)・・ガルーダ!竜を好んで常食する伝説の鳥
緊那羅(Kimnara、きんなら)
摩睺羅伽(Mahoraga、まごらが)

調べてみると面白いですなぁ

岩波文庫100冊チャレンジ、残り56冊🌟

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