作品紹介:全知のバケモノと未知の魔女

皆さま、こんにちは。未言屋店主の奈月遥です。

今回は、『全知のバケモノと未知の魔女』という小説を紹介します。

こちらの作品はカクヨムで開かれている『「賢いヒロイン」中編コンテスト』に応募するために執筆したものです。コンテストの詳細についてはこちらの公式サイトを見てくださいまし。


さて、『全知のバケモノと未知の魔女』ですが、タイトルの通り主要な登場人物はバケモノと魔女の二人になります。

もともと、わたしは『この世界に確かにあるのに未だ言葉にされてなかった物事』から産み出した『未言』という造語を扱っています。
今回の作品もその『未言』を主軸にして構成を考えました。

それに加えて、『賢いヒロイン』と聞いてイメージしたのは千夜一夜物語のシェヘラザードです。娶った女性を初夜で殺す女性不審の王に対して、自分と妹の命を守るために毎晩毎晩物語を聴かせて、明日また続きを聴きたいと思った王は彼女を殺さず、そうして千日の後には王を改心させる。アラビアンライトの名でも有名なお話です。
このシェヘラザードの千夜の間に物語を途絶えさせなかった博識さ、物語によって自分と妹の命を存えさせた非暴力の力、王を楽しませて改心まで至らせる智慧、それがわたしには何よりも『賢い女性像』として思い浮かびました。

それで本作では『毎日、未言を教えることで死を免れる』という構成が決定しました。
それから『教えられる』というのが一番面白くなる相手として『全知であること』が設定されます。
『全てを知っている者が、知らない言葉を教えられる』という矛盾を物語の面白さの核にしたいと思ったのです。

しかしそこで、『何故、ヒロインは命を失うような状況に陥ったのか』逆から考えると『千夜一夜物語の王にあたるヒロインの相手は何故、女性を毎晩殺すのか』というところでなかなか納得のいく理由が作れませんでした。
始めは『世界を滅ぼす魔王』などの人物像を考えたのですが、世界を滅ぼすのに妻を娶ってどうすると書き出す前に自分で却下してしまいます。滅ぼされたくない国が女性を差し出したとしても、それを受け入れる理由が特に魔王にないですよね。だってこの世の全てを知っている存在が女性に誑かされるとか、ちょっとイメージと違うので。

結局、積極的に世界や人類を害するよりも、人類に恐れられて孤独である人物へと相手がシフトしていきました。そこで人々に恐れられているならそれはバケモノだろう、と考えました。
バケモノは普通、暴力の象徴で知性は取り沙汰されませんので、逆に『全知』という知性を最大の特徴とするバケモノはちょっと新しいんじゃないかなとも思って正式に採用しました。

こうして先にヒロインの相手となる『全知のバケモノ』の設定が固まってきました。バケモノなので、人間からは迫害される、しかも『全知』なんて特徴があれば人間はそれを利用したいだろう、ということで『全知のバケモノ』は何度も人間に捕獲されようになるもそれを撃退、時には正当防衛のために襲ってきた国を丸ごと滅ぼした、という過去が生まれて、人類に恐れられて孤独に生きるバケモノ像が出来上がります。

さて、ここから『全知のバケモノ』に『毎日未言を教えるヒロイン』の設定作りに入ります。
バケモノにものを教えるなら、これはもう愛の力だな、ということでヒロインから恐ろしいバケモノに求婚しに来たんだなと思いました。
バケモノのところに乗り込んで、求婚をする、しかもバケモノにものを教えようと思うキチガイ……ごほん、常識に捉われないヒロインです。なんだこいつ。そんなの普通の可愛いヒロインとか、清楚な姫とか、純情な村娘とか有り得ないだろ、と自分にツッコミます。
これはもうヒロインは『魔女』しかないな、と思いました。

わたしは以前から、自分の作品で扱う『魔女』については共通の設定を作っていました。
『魔女とは、肉体ではなく魂によって定義される生物種である』『魔女は、その肉体、精神、魂魄が異端である』『魔女は、運命の上に存在する番(つがい)という伴侶を持つ』大きな設定はこの三つです。
はい、『魔女には運命の相手』がいるのです。もうこれで、『恐ろしいバケモノ』に求婚する理由が出来ました。運命ですから、そりゃ全力で手に入れようとします。
そして魔女ならバケモノにも負けないくらい強いからちょうどいい、とヒロインも決定しました。

ここでわたしもはたと気付きました。
「千夜一夜物語を書こうと思ったのに、何故か完全に美女と野獣になっている」、と。
……まぁ、わたし、美女と野獣が大好きなので問題ないか、と最初の構成から思いっきり変化していることに目を瞑りました。書く前の構想と実際のプロットが変わるとかよくあることです。

そして完成したのが、『全知なのに知らないことを突き付けられるバケモノ』を『意地悪な魔女が好きだからこそいじめまくる』というなんていうか、バケモノがとても可哀想な展開になりました。
ま、書いてて面白いからいいか。

そんなこんなで完成した童話風恋愛ファンタジー『全知のバケモノと未知の魔女』、読んでいただたら幸いです。


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