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【キッチンカー物語②】~大人になろうよ~

※『URBAN RESEARCH Media』にて2021年6月30日に掲載された内容を、ここに残す。


右脳派(直感型)か左脳派(論理的)か。
僕は本来自分が左脳派だと思っている。学校では国語や芸術より理数系が好きだった。
だけど30歳を前にして「このまま理屈に身を固めて生きていくなんてつまらない!」とさじを投げてしまった。そこから右脳のギアを上げた。
日本料理の世界に出逢ったのはそれからのこと。
今回の『キッチンカー』も直感。ドイツ行くって決めた時もそう。「これ、めっちゃいい!」がぶわっと出てきたら絶対嘘つかない!思い立ったが吉日吉本!
でもそんな情熱だけでは時々大人に怒られるんですよね。

子「これ欲しい!!!」
親「なんで欲しいの!?本当に使いこなせるの!?そこまで欲しいんだったら、どうしたら自分のものになるか、少しは考えてみなさい!」
子「……」

■借金ヴァージンの喪失

キッチンカー作るのにざっと500万円いる。そんな大金持ったことない。
2019年に個人事業主として開業しまがいなりにも“流しの料理人”としてやってきたけど、お店を持たなくていいから初期投資はゼロ。お金を借りたこともなかった。
でも世の中って意外と優しくて、資金調達の方法なんていくらでもある。
クラウドファンディングに成功した知人もいるし、株で儲けた先輩もいる。親族に土下座してもいいし、サラ金だってある。要はノウハウなんてどこにでも転がっている。
むしろこんな時代に金融機関からお金を借りるなんて”古臭い”とさえ思っていた。
それでも『古典的な方法』を選んだ——なぜか?
僕はお金に執着がない。あったらいいけど、なくてもいい。
ただ、人間関係にはかなり執着があると思う。あったら嬉しいし、なくなったらとても悲しい。
だから「せっかく育ててきた人間関係をお金に邪魔されたくない」という変な理屈が働いた。
——「お金はお金」だと思うなら、シビアに、ドライに、『お金だけのカンケイ』で付き合ってくれる相手を探そう——
加えて、僕の広い交友関係の中において銀行勤めの人がとにかくいない。おそらく違う星で生きているんだと思う(笑)そんな違う星の人達と絡んでみたら自分がどう変化するか?Life is chemistry.
ということでやってみた。
——借金ヴァージンの喪失——


■10年封印していたビジネス脳

政策金融公庫ってところと信用金庫ってところがお金の面倒を見てくれるらしい。アポイントを取って行ってみた。
立派なビル。受付のお姉さん。しんみりした窓もないパーテーション会議室。「嗚呼、懐かしい」と思いながら担当者さんとご挨拶をする。
『初めまして。私の夢を実現するためにお金を大量に借りに来た、あなたの知らない者です。』
何気にすごく面白いシチュエーションだなあと思った。みんなこうしてイチから事業を始めるのか、と。
僕は自己紹介を始めた。
大学を出た話。リクルートに入った話。博報堂に入った話。社長賞まで取った話……
——大人がどんな話をすれば喜ぶか、僕は知っていた。でもそれはずっと避けてきた価値観。——
『大企業にいてもクソみたいな人もいるし、中卒でも頭キレキレの人もいる。要はその人の“魅力”。魅力……!』という主観をグッと堪える。
『一見冷たそうな担当者でも、きっとドラマのある人生を歩んできたに違いない。そういうところに触れてみたい!飲みに行きたい……』という人間味をグッと抑える。
……いかんいかん。僕はこの人と”仲良くなるため”にここに来たんじゃない。大金を借りに来たんだ。しかも相手は個人でなく大企業。目の前にいるのは、人でなく、大きな組織だ、と。

僕は10年ぶりにビジネスの話を始めた。ただ当時と違うのは自分が大企業の名刺を持ち合わせていないこと。
そして彼は言った。
「では『事業計画書』を出してください。それを弊社として判断させて頂きます」


■トラウマを乗り越えて

僕は2006年から2012年までの約6年間営業をしていた。特に広告代理店に勤めていた時代は毎日のように企画書を書きまくっていた。24時間、ジャックバウアーのように働いていた。


ある日、鼻血どころか、耳血が出た。

毎日マウンドに立ち続け、肩でなく精神が故障する寸前だった。

ニュースでよく見る『広告代理店の過労』、その最前線に、僕はいた。(詳しくはnote「【実録】僕の躁鬱記録」)


出来が良かったか悪かったかはさておき、とにかく企業戦士をしていたし、企画書作りにおいては世界最高レベルの企業に所属していたのかもしれない。
入社したこと自体、全く後悔はない。だけど大人のドロドロに、僕は飽き飽きしてしまった。


そしてピーターパーン症候群をかけた。自分に。もっと直感で生きろよ、と。

あれから10年。

『企画書を出してください』


またかよ……

逃げちゃだめだ×3。碇シンジ君だって、もう大人になった。


——使えるかどうかわからないけど、あのトラウマの箱を開けてみる——
SWOT分析/市場動向/ロジック/マーケティング/スケジューリング/収益計画/シナジー効果/そしてSDGs……


おや、
——まだ餅の絵が描ける——

金融機関への事業企画書と共に、僕は国の補助金に応募することにした。そんなこと、今までの人生で、したことないのに。

役所の出す数十ページにも及ぶ『応募要項』。その難解な古文書を一言一句、目で追う。
※ラピュタの石碑の前でムスカ大佐は言った。「読める、読めるぞ……!」それほど難解で、読解できるのは、ラピュタ人だけ。

——死に物狂いで得たあの力(strength)。今ここで使わねば!——
完全に覚醒した。


■最後まであきらめない


〆切前日。
何度も何度も確認したのに、書類が一枚足りない。税理士のサインがあれば済むたった一枚の紙きれが必要だと、役所が言い出したのだ。
〆切の一週間前に追加されたその情報は、ウェブから確認しなければ出てこない。そのやり口の汚さに憤慨し、クレーム電話を入れ、一時間粘った。

それでも中央政権の前に、国民一人の無力さよ。税理も会計もこれまで全てひとりでやってきた。先生はいない。


偽装したっていい。それで僕は簡単に犯罪者。
その時だ。同時期に全く別の事業を始めた友人のことを思い出した。
「アンタ、税理士まだついてないなら、いつでも私の先生紹介してあげるよ。いい人よ」
ダメ元で泣きの電話を入れた。
事情を説明し、本来なら長いお付き合いの上で、人となりや過去から現在、未来への事業への理解と、それ相応の報酬をお支払いしないといけないのに……私の唐突な新規事業プレゼンに真摯に耳を傾けてくれ、かなり異例の措置として、御一筆を頂けることになった。
もちろんこれは不正ではない。ただ、僕の直感への『賛同』とその『責任』を、サインとしてきちんと残して頂けただけだ。ただ、それがどれだけの助けになったことか……

リミットがある中での一瞬の判断。その税理士さんとも『初めまして。私の“ひらめき”にどうか力を貸していただけませんでしょうか?』から始まった。


時計はカチカチ。
脳内はパチパチ。
まわれ。左右の脳ミソよ。


ぐる

ぐるぐる

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる


そして受かった。金融機関からの融資も決まった。

まったく、大人ってモンは……

昨今のパンデミックで、言い訳を並べる大人ばかりメディアに出ていやな気持ちになることが多い。と同時に「自分はカッコイイ大人になれているか?」とも自問する。

僕は一度大人の世界から逃げてしまったけれど、こうしてまた大人の世界に飛び込んでみた。

そしたら担当者さんがボソリと言ったんですよね。
「うーん、この事業書でなんとかしましょう。オレから上司に通しときますんで。ところでヨシモトさん、京都に好きなお店とかありますか? 教えて欲しいナァ」

なんあだ。結局みんな、人恋しいのか。

大人も悪くないね。
この人もきっと誰かと、飲み屋に行きたいのねん。

~つづく~


クスっと笑えたら100円!(笑)そんなおみくじみたいな言霊を発信していけたらと思っています。サポートいつでもお待ちしております。