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日本のジェンダー・ギャップ指数が低いのは誰のせいか

スイスの非営利団体「世界経済フォーラム」が発表した2023年のジェンダー・ギャップ指数。日本は125位/146ヶ国だった。惨憺たる順位である。

なぜ日本の順位はこれほど低いのだろうか?


ジェンダー・ギャップ指数とは?

まずはジェンダー・ギャップ指数について確認したい。

ジェンダー・ギャップ指数はスイスの非営利団体「世界経済フォーラム(以下WEF)」が毎年発表している男女格差を表す指標だ。
経済参画、政治参画、教育、健康の各分野における、男性スコアに対する女性スコアの割合を示している。男女のスコアに差がなければ1.0であり、女性のスコアの方が高い場合はマイナスになる。

日本のスコア

2023年の日本の総合スコアは0.647だ。
教育のスコアは0.997
健康のスコアは0.973
教育と健康の分野においては、男女の平等がほぼ実現している、とスコアは物語っている。

一方で、
経済参画のスコアは0.561
政治参画のスコアは0.057
政治経済の分野ではあまり女性が活躍できていないことが示されている。
経済参画も進んでいないが、より劣っているのは政治参画の分野である。

仮に政治参画の分野のスコアが0.500だったとしたら、総合スコアは0.758となり、順位は125位から40位以内まで向上する。フランスを追い抜くことになる。
このことからも、政治参画の分野のスコアが如何に足を引っ張っているか分かるだろう。

政治参画とは

政治参画の分野の指数は、調査対象となっている146ヶ国の平均で0.226。他の対象分野と比較して明らかに低い数値となっている。
日本はその中でもかなり下位ではあるのだが、実現の難しい分野だということが分かる。

ジェンダーギャップ指数の政治参画の点数は「国会議員、閣僚、最近50年における行政府の長の在任年数の男女比」によって算出される。

日本の2023年の各項目の数値は以下の通り。
国会議員:10%
閣僚:8.3%
行政府の長の在任年数:0年/50年

この分野だけに絞ったランキングでは、日本は138位で、下には8ヶ国しか存在しない。

しかし、法律上は女性の政治参画を妨げるようなルールは存在しないはずだ。日本の選挙は普通選挙である。中学生でも知っている。

女性は怠惰なのか

では、法律上はイーブンのはずの男女でこうも政治参画の分野で格差が発生しているのか。

立候補率

一部の男女論者はこう説明する。

別に女性を排除している訳でもなく、有権者の半数は女性なのだし、もっと女性が立候補したり起業すれは良いだけ。

つまり、女性が立候補しないのが原因であり、政治参画のジェンダーギャップを低くしているのは女性側の問題だとする主張である。

令和四年度の参院選における女性の立候補者の割合は33.2%(全候補者545人のうち女性は181人)と、存外高い割合になっている。ただし、半分には届いておらず、女性の国会議員が少ない以前に、そもそもの立候補者が少ないことは事実のようだ。

一方で、同選挙での女性の当選者は35人。当選確率は19.3%となっている。全体の当選確率は22.9%のため、仮に男女同数が立候補していたとしても、当選者は男性の方が多くなる計算だ。
ただし、これだけでは性別が当選率と相関のある要素とは断言できない点に注意が必要だ。私は性別ではない要素が当選率に大きく関わっており、その要素が性別で偏りがあるために、こうした結果になっていると予想している。これは長くなるので別記事で検証したい。
また、仮に女性の方が当選しづらいとしても、有権者はどちらかと言えば女性が多いため、それは女性自身の意識の問題でもあるという主張は否定されない。

やはり、政治参画分野のジェンダーギャップは女性側の問題なのだろうか?

私は一概にそうとは言えないと考えるの。
ルール上に明記されていなかったとしても、暗に不利になるようなルールというのは有り得る。

例えば、何人も橋の下では眠ってはならないという法律があったとする。この法律は「何人も」と全ての人を対象にしているので、一見平等に見えるが、実際には橋の下で寝起きをせざるを得ないホームレスだけがこの法律の対象になってしまう。

選挙の話に戻る。
立候補に必要な要件は、
①日本国民であること
②衆議院なら25歳以上、参議院なら35歳以上であること
の2つのみとされている。
個人的には②の条件は不要であるし、撤廃すべきだと思うが、今は関係ないのでこれ以上は触れずにおく。

供託金

実際に立候補するには、上記の条件を満たした上で、供託金を用意する必要がある。
国政選挙の供託金は300万円だ。
(厳密には比例代表は一人600万円なのだが、個人の問題ではないため、ここでは割愛する。)

この供託金を問題とする意見がある。
つまり、賃金には男女格差があり、金銭的に不利な女性は供託金の用立てが難しいとの主張である。

供託金は一定数の得票がない場合は没収される。単なる預り金ではなく、失うかもしれないお金だ。
消えるかもしれない300万円を用意することは男性にとっても困難だ。これは女性に限った話ではない。
所得の低い女性の方が300万円の用立てが難しいのは事実かもしれないが、立候補者の割合が倍以上になる程に性別で負担感が異なるということはないはずだ。

そもそも日本の供託金の設立目的に、社会主義政党の抑制があったする記事もある。
つまり、供託金にはある種の人の政治参画を妨害する効果があるということだ。
ジェンダーギャップへの影響の多少は不明ですが、見直しが必要な制度ではある。

政党政治

日本の政治は政党政治である。
政党に所属しない議員は衆院で11人、参院で16人とわずか3.8%に過ぎない。

主要な政党では、比例代表の供託金は政党が負担するのが一般的らしい。
また、一部の政党を除いて、公認候補となると、公認料として活動資金が援助される。
(公明党などは逆に候補者が政党に公認料を支払うらしい。)
自民党の公認料は500万円だと聞く。
また、共産党は供託金や活動費の一切を党で負担してくれるらしい。

公認候補となることで、供託金や活動費などの金銭負担を軽減することができる。
また、2017年7月の東京都議会議員選挙が顕著だったが、取り立てて実績のない新人であっても、有力な党の公認候補となることでトップ当選を決めるような例も多い。
無所属の議員がほとんどいないことや、金銭負担のことを考えるに、主要な各政党がどのように公認候補を決めているかが、ジェンダーギャップ解消の鍵となるように思う。

以下は令和四年度の主要政党の立候補者に占める女性候補者の比率だ。(東京新聞による)
自民:23.2
立民:51.0
公明:20.8
維新:30.4
共産:55.2
国民:40.9
れいわ:35.7
社民:41.7
N党:23.2

立民と共産が五割を超えており、国民と社民も四割以上なのに対して、自民党は23.2%と1/4に満たない。
自民党の議席数を鑑みるに、政治参画のジェンダーギャップは自民党(と公明党)によるところが大きいと言っても過言ではないだろう。

なお、2009年以降、自民党は公認候補の選定を原則、公募で行っているようだ。
また、選挙区で公募を実施するか否かの判断や公募を
実施する組織の人的構成や候補者の選考・決定方法まで、これらは基本的に都道府県連や選挙区支部といった地方組織に委ねられており、党本部は地方組織の選定した候補を唯唯諾諾と公認している。
(堤英敬氏による自民党における候補者公募制度の採用と政党地方組織による)
党本部の怠慢と見るべきか、地方組織の意識の低さと見るべにか悩むところだ。

閣僚

2022年8月から2023年9月まで続いた第2次岸田第1次改造内閣の大臣のポストは45あり、女性が担当するものは6に過ぎなかった。13.3%である。
ジェンダーギャップ指数の掲げる女性大臣の割合は8.3%なのだが、ポジションを数え損ねている可能性がある。素人なので許して欲しい。

一方で現在の岸田内閣の大臣のポストは49あり、女性が担当するものは内10なので、20.4%である。

いずれにせよ、高い数字ではない。
これは岸田総理の責任だろうか?
閣僚が国会議員から選ばれることを考えれば、国会議員の議席数に占める女性の割合と閣僚に占める女性の割合が大きく乖離しない限りは、総理大臣が意図的に女性を閣僚から排除しているとは言えないだろう。

女性自身の姿勢

ジェンダーギャップ指数の政治参画分野の低迷は自民党のせいだ! みたいなことを言ってはみたが、とはいえ自民党としても女性自身が公募に応募してくれないことには女性を公認候補にするのは難しい。

ざっと探した限りでは、自民党の公募の応募者の男女比のデータなどは発見できなかった。

自民党の公式サイトの候補者公募を見る限りでは、公募への応募に特別な資格や金銭は必要ないようだ。
(動機を800字以内で提出したり、履歴書などを提出する必要はあるが、特別な資格とは言えないだろう。)

自民党の支持者が有意に男性に偏っているようなことは有り得るだろうか?
明るい選挙推進協会の公表する第48回衆議院議員総選挙 全国意識調査の調査結果によれば、同選挙で自民党に投票した人は男女でほぼ同数である。

政治参画分野のジェンダーギャップ指数で世界一であるアイスランドでは、候補者の男女比が男性に偏っている政党は、ジェンダーギャップに問題があるとして、嫌われるという話を聞くが、本邦では女性であってもそういった意識は希薄のようだ。

選挙ドットコムによれば、本邦の有権者の男女比は、女性側にやや偏っている。2019年時点で350万人ほど女性が多いらしい。この先も高齢化に伴って有権者の女性の割合は漸増が予想される。
一方で投票者数は、数こそ女性の方が多いものの、男女の差は年々縮まっており、女性の投票率が男性より低いことが示唆されている。

また、65歳以上の女性の投票率が、同年齢の男性に比べて有意に低い。加齢に伴って女性の投票率が低下するようなデータがある。
これは、現在65歳以上の女性はジェンダーギャップが強く政治参画の意識が低い世代……ということはなく、かつてはこの世代でも女性の方が投票率が高かったことが確認されている。加齢によって女性の投票率が低下しているのだ。
若い頃は寧ろ女性の方が投票率が高いにも関わらず、寿命の長いはずの女性で、65歳以上になると投票率が低くなるのは不思議である。

また、政治的満足度は女性の方が低いが、政治的不満度は男女で差がない。

女性怠惰説の根拠

女性怠惰説の根拠として、日本財団の「1万人女性意識調査」から引用して、政治家になりたがる女性が少ないと主張されることが多いように思う。
この調査では「機会があれば政治家になりたいと思う」と回答した女性は「どちらかといえば」という消極的同意を含めても8%に満たなかったことが示されている。

だが、同調査は女性のみを対象として行われているため、機会があれば政治家になりたいと考える男性の割合は不明である。
政治家になりたがる女性の絶対数が少なかったとしても、男性と比べて多いのか少ないのかが分からなければ、「女性が政治家になりたがらないから、政治参画分野のジェンダーギャップ指数が低い」とは言えないだろう。

サンプル数が少ないうえに2019年とやや古いデータだが、一応女性の方が政治家になりたがらない傾向を示す調査結果が存在する。
どの世代でも、男性の方が政治家になりたい人が多く、1.5倍から1.8倍の差があるというデータである。

余談だが、日本財団の「1万人女性意識調査」では理想の女性閣僚率として、三割と回答した人が40%近くいることになっている。
これは、ジェンダーギャップ指数の低さが男性のせいのみではないことを示している。

総論

女性は男性よりも政治家になりたがらない傾向にあることは事実と言ってよさそうだ。
ただし、実際の立候補率は政治家になりたい人の男女比よりも男性に偏っており、女性が政治参画しづらい部分が存在することは否定できない。

女性の政治参画を妨げる何かの存在は否定しないものの、それを男性のせいにするのもまた誤りだろう。これは国民全体の意識の問題だと感じた。

最後に

ジェンダーギャップ指数の低さを問題視する人において、過度に他責的な言動が見られることがある。
仕組みを変えることで意識を変えるにせよ、仕組みを変えることへの理解を求める必要はあるはずだ。
一部のフェミニストの過剰な言動が、女性に政治家は不向きだとする意識を醸造している面すらあるだろう。
アメリカの南北戦争の再現など、どちらの立場でもしたくはない。攻撃ではなく、建設的な提案提起こそがジェンダーギャップの解消に続いていると私は信じる。

書き足りないことも多いが、一旦ここまで。

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