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「人生を狂わせる名著50」を読んで、小説の愉しさを少しだけ思い出せた話


最後に小説を読み切ったのは、いつ頃だろう?

高校までは全く小説を読むタチではなかったのに、大学に入ってからは一転、授業をサボってまで、貪るようによく小説を読んでいた。

いまは取り壊されてしまった下北沢駅前のドトールがお気に入りで、入り浸ってはぬくぬくと読書していた。本屋があれば立ち寄って、岩波文庫の棚のラインナップをみては、その本屋の嗜好を想像したり。

なぜ、そんなに小説を読んでいたのだろう?それまで読んでこなかった反動もあっただろうけど、もっと世の中を知りたい・人を知りたい、という好奇心が強かったのだと思う。すごく。

そんな好奇心も、大学を卒業して目の前の忙しさへ夢中になっているうちに、どこかへ置き忘れてしまい、今や技術書・ビジネス本しか手が伸びなくなってしまった(だいぶ重症…


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さいきん読んだ本、これはこれで良いですが、何か淋しい…


そんな当時持っていたはずの好奇心を、5分でスパッと蘇らせてくれる本に出会った。三宅香帆さんという書評家の「人生を狂わす名著50」という本だ。


どんな本?

この本は、『京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」 と思う本ベスト20 を選んでみた。 《リーディング・ハイ》』というタイトルで「天狼院書店」のウェブサイトに掲載され、2016年、年間はてなブックマーク数ランキングで第2位となり、本好きのSNSの間で大反響を呼んだ記事をもとに書かれたブックガイドです。
(この本の使い方より)

要は、おすすめ本が紹介された書評本。紹介されている50冊は、三宅さんの考える“推しポイント”がギュギュっと圧縮された状態で、1冊5−6ページほどとテンポよく紹介されている。

本のラインナップも、小説がメインとはいえ幅広く、チラチラと昔読んだ本もあったりして、個人的にはちょうど良い塩梅だと思う。

▼すぐに読みたい/読み返したいなと思った本
・人間の大地(サン・テグジュペリ)
・ぼくは勉強ができない(山田詠美)
・人間の建設(小林秀雄, 岡潔)
・イグアナの娘(萩尾望都)
・存在の耐えられない軽さ(ミラン・クンデラ)
・こころ(夏目漱石)
・わたしを離さないで(カズオ・イシグロ)


なにゆえオススメ?

この本の素敵なところは、大きく2つ。

①小説を読むことの何が楽しかったのか、を思い出させてくれる
よい小説に出会うと、新しい考え方や境遇を疑似体験でき、妙に高揚して考え込んでしまうことがあると思う。この本を読んでいると、その感覚を軽やかな文体で追体験させてくれる。そのチカラがすごい!
著者の三宅さんの”本への愛”がそうさせているのだろうけど、自分が昔貪るように読んでいた、あのころの感覚を妙に思い出させてくれる。

②読書欲エンジンのかかりやすさがピカイチ
詳しくは後述するが、小説を読む気にさせる要素がそこかしこに散りばめられている。あらすじはあくまでチラ見せにとどめ、その小説からどんなことが見えてくるのか、を話のうまい友人からアツく聞かされている感覚に近く、読みたい気持ちがムクムクと湧いてくる。小説と縁遠かった人には、特にちょうど良いと思う。


本を読みたくさせる6つの“仕掛け”

この本は、実際に手にとってもらうと分かるとおり、フォーマットが割とカチッと決まっている。そこがよく練られていて、小説と離れていた人でも、スムーズに咀嚼できる構成になっている。そんなフォーマットの良い点について、6つほどご紹介。

①読むべきターゲットを明確化
紹介の最初で、「●●なあなたへ」と読むべきターゲットを明確にしてくれている。たとえば「こころ(夏目漱石 著)」だと、

”自分って実はめっちゃワガママな人間なのでは…と思いはじめたあなたへ” 

といった具合。「なに?」とおもわず気になってしまい、かつ自分のことかも?と共感できるターゲット設定になっていてGood。


②本のテーマを「VS」構造で表現
こちらも、たとえば「こころ(夏目漱石 著)」だと、

”自由 VS 孤独” 

といった具合。常識的な価値観を揺さぶるぞ、という期待を持たせてくれ、なになに?と興味をくすぐってくれる。


③本の紹介にハッシュタグ(#)
これもおもしろいなと思った。本ごとにSNSのようなハッシュタグが5つ前後ついていて、何かしら引っかかるものがあれば読んでみては、という気遣いがありがたい🙏
こちらも、「こころ(夏目漱石 著)」だとこんな感じ。

#日本文学史に残る傑作  #明治時代  #教科書に載ってる  #ていうか載せちゃダメなレベル  #載っているのは一部なので全部読んでください! #大人になってからの再読におすすめ


④「人生を狂わせる一言」で推しポイントをPR!

”自由と独立と己れとに充ちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しさを味わわなくてはならないでしょう” 

ここが一番の読みどころ。たとえば、「こころ(夏目漱石 著)」だと、上記が引用されており、おお?と気になる。

三宅さんが心揺さぶられた一言を引用し、そこを軸になぜこの本がおすすめなのか、推しポイントを軽やかに解説してくれている。これが、夜中に友人が本について熱く語っているような感覚で、すごく心地よい。


⑤「次に読む本」のレコメンドがニクい
本を紹介した最後に、この本を読んだ方に次にオススメする本が3冊紹介されている。この3冊のレコメンドがちょうど良い。
Amazonのレコメンドとは違い、その本の抽象化されたテーマと紐付けて紹介されている。パッとみて少し離れた本もあるけれど、通底しているものがあり、本の間口をうまく広げてくれそう。


⑥何より、1冊紹介が約6ページとコンパクト
上の5要素がコンパクトにまとまっているのが、小説と縁遠かった人には何よりありがたく、優しい。コンパクトにまとめるために、あえてフォーマットをカチッと決めているのだろう、うまく奏功している。


まずは、ここだけでも読んでみて

ここまでで、どれどれどんなもんだ?と思われた方がいたら、まずは50冊のうちどれか1冊の書評だけでも読んでみてください。1書評5ページほどと少ないので5分ほどで読めるはず。
個人的なオススメは、上でも少し触れていた49冊目の「こころ(夏目漱石)」。だれもが学校の教科書で触れていて、いまさらな〜と思っているのであれば、一読をオススメ。p.366-373です!


さいごに

この本を読んでいて、大学のころ読んだ京極夏彦の「姑獲鳥の夏」を思い出した。

同じサークルの友人の一人暮らしの部屋に遊びに行ったときのこと。部屋の壁一面が本棚で、圧倒された。こんなに本を読んでいるのか、と内心びっくりしたのを覚えている。
そんな友人からおもしろいから読んでみ?と渡されたのがこの本。600ページほどと分厚いにもかかわらず、貪るように読んだ記憶がある(ただ、内容は全く覚えていない。。)

「人生を狂わす名著50」を読みながら、そんな小説との刹那な思い出も少しずつ、思い出せるようになってきた。

これまでの小説との思い出に想いを馳せながら、これからの出会いもつくっていきたい。

小説と縁遠くなってしまった人に、おすすめの1冊です。

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