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エピソード82 田の神

82田の神

田の神は、日本の農民の間で、稲作の豊凶を見守り、
あるいは、稲作の豊穣をもたらすと信じられてきた神
である。

稲作農民の間には山の神が春の稲作開始時期になると
家や里へ下って田の神となり、田の仕事にたずさわる
農民の作業を見守り、稲作の順調な推移を助けて豊作
をもたらすとする信仰があった。

新潟県の民俗事例では、3月16日に田の神が天竺より
やって来て家に降りるとされる。
つづいて4月16日には家から田へと出て行き、
10月16日には再度家に戻るといわれ、
11月16日には田の神は再び天竺に還るとされた。


82田の神 オリジナルストーリー

ここは早春の東北のとある村。
なにやら村人が二人、田んぼのことで話をしている。

五作:
まいったの~。今年の冬は寒かったのに雪が少なかっ
たおかげで山にあまり雪が積もっていない。
これでは稲を植えるのに水が足りるか心配じゃの~。

六平:
そうじゃな~。いつもの年なら山は雪が積もって地肌
が見えることなど無いのに今年は...。
確かに心配じゃのう。

二人は北の山々を見ながら今年の稲作のことを心配し
ていた。
そこに、みすぼらしい格好の男がやって来た。 

男:
どうしましたお二人さん、何か困りごとですかな?

男は聞いてきた。
五作も六平もこの男とは話したことも無く、この村の
者でないはずだが、なぜかこの男に見覚えがあったの
で二人は今年の田んぼの水の心配を話した。

男:
なるほど、なるほど。確かに今年の冬は雪が少なかっ
た、これでは稲を育てるだけの水が心配ですね~。
よし、わかりました。
私が山に入って水の事を調べてきましょう。

男はそう言うと二人と別れて山の方に歩いて行った。

そして、季節はめぐりいよいよ田植えの季節となった

五作:
やっぱり心配は的中した。
とてもこの川の水の量では田んぼに水が回らない。

六平:
そうだな、かと言ってこのところたいして雨も降って
いないとてもとても田んぼを水でいっぱいにするのは
無理だ。
どうしたらいいものか?

そこに前にあったあの男が現れた。
男は前よりもボロボロの格好になっていた。

男:
五作さん六平さん、山に行っていろいろ調べて、この
水不足をなんとかできる方法を見つけ出しました。
  
でも私一人では無理なのでお二人の力が借りたい、
一緒に山に来てください。

五作:
わかった!田んぼの為なら何でも手伝う。
連れてってくれ。

こうして男と五作、六平の三人は山の中にどんどん入
って行った。
そして山の五合目辺りまで来た時、男は池を指さした
五作と六平はこんなところに池があることさえ知らな
かった。

男:
見てくださいあの池を。
これだけの大きい池から水を引けば村の田んぼにも水
が足りるでしょう。
水を引く堀は私が時間をかけて作りました。

でもこの池から水を流すにはこの大岩をどかさないと
いけないんです。
そこでお二人に力を貸していただきたいんです。

そんなことならいくらでもと言わんばかりに五作と
六平は腕まくりをし、三人でその大岩を押し上げた、
何度も何度も力を入れやっと大岩は横に転がり、勢い
よく堀に水が流れ出た。

六平:
やったな、やったぞ!これで沢山水が流れる、きっと
田んぼの水も足りるだろう。
え、ちょっと待てよお前腕が折れてるじゃねえか!
大丈夫なのか?

男:
私なら大丈夫です。
そんなことより早くふもとまで下りて田んぼの水が足
りてるか見に行きましょう。
腕は村で見てもらいますから。

男に言われ二人は男を手助けしながら山を下りた。
そして三人は村の田んぼにたどり着いた。

五作:
なんでだ!水は来たには来たがまだまだぜんぜん足り
ねえ。
この量じゃとても田植え出来ねえぞ。
どうしたらいいんだ!

男:
そうか、私が作った堀は初めて水が流れるからどうし
ても最初は水がしみ込んでしまうんだ。
沢山流れるまではもう少し時間がかかってしまうでし
ょう。

六平:
そんなには待ってられねえ、育った苗がダメになって
しまう。
どうしたらいいんだ。

二人の声を聞いて、男は泣き出した、しかもびっくり
するぐらの大声で!つられて五作と六平も泣き出した

三人の鳴き声は晴れた空に響き渡るほどに上って行っ
た。

すると、急に空は黒い雲で覆われ雨が降って来た、
しかもしばらくすると大雨となった!

一時ほど大雨が続くと雨は止んだ。
田んぼはいっぱいの水で満たされていた。

近くの大木の下で雨宿りしていた五作と六平が出てき
た。水で満たされた田んぼを見て喜び、男に声をかけ
ようとしたが、男はどこにもいなかった。

ただ、雨宿りしていた大木の近くの田んぼに
片手の折れたかかしが立っていた。

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