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「続・激突カージャック」こそ、スピちゃんの最高傑作である。

スティーヴン・スピルバーグの初の劇場作品であり、実話に基づいた作品。それが『続・激突!カージャック』(The Sugarland Express)。1974年のアメリカ映画である。

日本では、あたかも1971年に制作された『激突!』の続編を思わせるよう、『続・激突! カージャック』とタイトルを変えて公開されたのだが、本作と『激突!』には何の関連もない。

『激突!』はアメリカでは、テレビ用のテレフィーチュア(日本で言うと2時間ドラマ「土曜ワイド劇場」みたいなものか?)として制作され放送された。あまりに出来が良いので、1973年に第1回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭に出品されグランプリを受賞した。

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「ともかく僕にとって、誰もそうやって見ないが、ヒーローは警察なんだ。悪役は、犯罪者夫婦に少しばかり期待を持ち過ぎて、支持した世間の人々さ」---スティーブン・スピルバーグ

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「続・激突!カージャック」は、まあ、なんというか、スピルバーグ版の「ニューシネマ」という位置づけであろうか。

若さがあって、愚かしさがあって、残酷な現実が待っていて、そんなことは若者たちも薄々わかっていて、ベン・ジョンソンなどの老人たちは見守っている。大陸横断の大移動、援護の馬が車に変わっただけ。

人生の皮肉に対して、シニカルな態度をとらずにいること。スピルバーグのこの立ち位置・距離が本作ではとてもよいトーンを作り出している。説教臭くもなければ、シニカルすぎる感じでもない。非常によろし。

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窃盗の罪で収監されていたルー・ジーン・ポプリンは出所後、同じく軽犯罪でテキサス州立刑務所に収監されている夫クロヴィスに面会し、脱走をもちかけた。

彼女は福祉局によって里子へ出された息子ラングストンを奪還するため、共にシュガーランドへ向かおうと計画していた。4か月後に出所を控えていたクロヴィスは脱走に反対するも、ルー・ジーンに離婚を切り出されて渋々計画に付き合うことになる。

刑務所を出た二人は、囚人仲間ヒューバーの両親ノッカー夫妻の車に同乗してシュガーランドに向かう。しかし、車が些細な交通違反を起こしてスライド巡査のパトカーに呼び止められてしまい、脱走がバレたと勘違いしたルー・ジーンは車を奪い逃走する。スライドは近隣のパトカーに応援を呼びかけて二人を追跡するが、二人の乗る車が林に飛び込み故障し、ルー・ジーンはスライドを人質にしてパトカーを奪い取りシュガーランドに向かう。

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三人の乗るパトカーは巡回中のパトカーに発見され、報告を受けたタナー警部はパトカーを引き連れて追跡を開始する。しかし、「息子を取り戻したい」という二人の犯行理由を聞いたタナーは強硬策に出ることをためらい、パトカーを連れて三人の乗るパトカーを後方から追跡するに留め、その間にテキサス中のパトカーが合流し、さらに騒ぎを聞きつけたマスコミが駆け付け事件を報道する。警察側は三人がドライブスルーで休憩中に二人を狙撃しようとするが、二人に感情移入し始めていたタナーによって狙撃が中止され、三人は逃走に成功する。逃走の中、行動を共にするスライドも二人に感情移入するようになる。

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三人は中古車ショップに隠れて一夜を過ごすが、警察の無線を傍受した近所の住民に襲撃されタナーに助けを求める。タナーは警官隊を引き連れて三人を助けに向かい住民たちを逮捕し、二人に投降を呼びかける。しかし、二人は投降を拒否してシュガーランドに向かうことを決め、スライドも二人に同行する。二人の意思が固いことを知ったタナーは、狙撃手をラングストンの里親の自宅に向かわせ、二人を待ち伏せるように命令し、再び追跡を開始する。三人が行く先々には報道を見た住民たちが集まり、息子を取り返そうとする二人を応援し、警察やマスコミに混じりパトカーを追いかけるようになる。

三人が里親の自宅に到着する直前、タナーは最後の説得を試みるが、二人は投降を拒否して里親の自宅に向かう。しかし、異変に気付いたスライドは家に入ることを止めるように二人を説得するが、息子を目前にして感情的になったルー・ジーンは聞き入れずに騒ぎ出し、諦めたクロヴィスがパトカーを降りて家に入ろうとする。その瞬間、クロヴィスは狙撃され重傷を負い、パトカーに乗り込み逃走する。銃声を聞いたタナーたちは追跡を再開し、川辺で停車したパトカーに近付く。そこには立ち尽くすスライド、運転席で死んでいるクロヴィス、後部座席で呆然自失となっているルー・ジーンがいた。

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泣ける!

■タナー警部と主人公たちとの間に。次第に友情が生まれていうくプロセスが、実にていねいに描かれている。ヒロインを演じるゴールディ・ホーンの幼さ(幼稚さ)を見て、彼女らを追うタナー警部は、自分の娘を見守っているかのような錯覚を感じていたのではないか。

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■タナー警部の主人公たちへの友情が爆発するシーンがある。アメリカではあたりまえなのか良く知らぬが、ライフル銃やショットガンを持った「町の自警団」らしき民間人が、ニュースで逃亡する主人公たちのことを知り、「俺たちが退治して、いっちょ、有名人になってやろうじゃねえか」と車を走らせる。で、この自警団たちが、休んでいる主人公たち(中古車センターみたいなところで休んでいたのかな?)へ襲い掛かる。主人公たちへライフルやショットガンの弾丸が、殺意を持って飛んでくる。まあ、この自警団の暴走は警察によっておさえこまれ、主人公たちは逃亡を再開する。車の前で、銃を警察に没収された自警団のバカどもが経っていると、ショットガンを持ったタナー警部がやってくる。何も言わずに、怒り狂って、ショットガンの台尻の部分で、自警団の連中の車のサイドミラーやフロントガラスをバッキバキに破壊しまくる。タナー警部は完全に犯罪者である主人公たちに感情移入している。主人公たちの代わりに怒りを爆発させるのだ。ベン・ジョンソンが実にうまく演じている。怒りを抑え気味にしながら、暴れ狂う。

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実際にあった事件をスピルバーグがプロットにまとめ、ふたりのシナリオライター「ハル・バートン」と「マシュー・ロビンス」が、あじわいのある脚本にまとめあげた。

マシュー・ロビンスは、スピルバーグたちと組んで、『未知との遭遇』、『ジョーズ』などの作品を製作した。

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日本で、「続・激突!カージャックの」の大ファンというと、俳優で映画監督の利重剛がいる。母親で「金八先生」の脚本で有名な小山内美江子に「あんたの好きな映画は何なの?」と尋ねられ「続・激突!カージャックだ」と答えたところ、「はあ?」という反応を受けたという。

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逃亡中に「俺も警官になれるかな」と呟く夫に対して、「逮捕歴がある者は警官にはなれない」と現実を突き付ける若手警官。社会の、社会からはみ出した者に対する不寛容さがペーソスをそそる演出で描かれる。

夫のキャラクターの造形は独特だ。恐らくそれまでのアメリカ映画の典型的な主人公男性とは全く異なるタイプだろう。頭は悪く小心者だが、妻のことを愛しているがゆえに妻の言いなりで行動する。後半になるにつれ、夫は(最初から乗り気ではなかったが)次第に計画が上手くいかないことを身に沁みて悟りはじめる。キャンピングカーで妻とアニメを見るショットが印象的だ。テレビに映るアニメに音がないとぼやく妻。任せろと言って、アテレコで効果音をつける夫。まるで子供のようにケタケタ笑う二人だが、アニメのキャラクターが落下しぺちゃんこになるショットが映ると、カメラは夫に寄る。彼の表情は、これからの顛末を予知したかのようにうちひしがれている。町で歓迎を受けても、夫の表情は固い。無邪気にはしゃぐ妻との対比が、余計にペーソスを煽っている。

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ラスト近く。

里親として主人公たちの赤ん坊を預かっている中年夫婦。そこへパトカーがやってきて「やつらの車がそろそろ来ます。二階へ逃げてください」。主人公たちの赤ん坊を抱いていったん階段を昇る里親のオバサン。が、すぐに降りて来て、玄関に置いてあった高価そうな壺を大切そうに抱えて二階へ持っていく。

うまい脚本だ。

「赤ん坊」と「骨董品の壺」を等価値に考える、こんな里親に育てられて、この赤ん坊は本当に「幸せ」になれるのか、と観客に考えさせることに成功している。

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ラストシーン。ヴィルモス・スィグモンドのキャメラと、ジョン・ウイリアムスの音楽が、これまた、素晴らしい。ふたりとも、スピルバーグ映画の常連となる。

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「彼らからは一発も撃ち返しませんでした」

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