(詩) 「嵐の記憶」





私達は
強大な嵐が到来する先に
既に時の流れをあらかた掴む
十分な備えと用心をして
庭を片付け あとは
豪雨と暴風の現象をただやり過ごすだけだ

だが
嘗てはそうではなかった
事象の変化の徴候は
鳥や動物や選ばれた預言者によって
捉えられた
それは崇高な役目だった

人類の記憶から
神がヨブに語った言葉の数々が
ここでよぎる
嵐は神の怒りだったか
それとも権威の表象であったか

私達はただ気圧の通過を待つ
鳥の眼差しは 飛翔の方向は
また動物たちの啼き声は
彼等が何を感じたゆえか

また
古代の祭司の発した言葉が
研がれた鋭利な刃のように
誰の心臓を射抜いたのか
嵐は戒めるようにそれを告げる

雨は力を強めながら
記憶の奥深くに打ちつけている
赴いた事などない
東欧を想わせる
暗い異郷の町々が
なぜ心の襞に映しだされたのか

嵐は沈黙を巻き込みながら
はるか彼方で揺れる炎を
浮かびあがらせている

やがて
嵐は
午後になれば
気象台の説明通りに
過ぎ去っていった