臨 機清

評論、随筆(エッセイ)、自作詩を随時投稿しております。評論は文芸関係が中心になります。

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マガジン

  • ジャズ

    長く愛好してきたジャズに関する文章を綴じました。

  • 文芸関連の記事

    文芸に関する評論、エッセイをまとめました。

  • noteで見つけた傑作詩コレクション

    noteを巡りながら見つけた素晴らしい詩作品をピックアップさせて貰い、このマガジンに纏めております。随時更新いたします。ぜひどうぞ、ご覧になってみて下さい。

  • 詩編 「兆候」 (十篇)

    「流動」より「兆候 秋」までの十篇。

  • Favorite Jazz Articles

    好きなジャズの作品の記事をピックアップさせて貰い、ここに纏めました。

最近の記事

(随筆) 内村鑑三「詩作」

・明治四十二年九月

    • カロッサとリルケ

      詩人丸山薫の詩集「花の芯」(1948年)から、「カロッサとリルケ」を取りあげてみたい。 この詩において丸山は、前半十行でカロッサを、後半五行でリルケを描き、前者を後者と対照させている。要点はリルケにある。 丸山が浮かび上がらせたのは「瞳」だった。リルケの瞳は「いつも蒼く澄んでゐて 形象をふかく吸ひつくし しかも何物の投影も宿さなかつた」。 「カロッサとリルケ」の描出で面白いのは、前半部においては、カロッサの「瞳」ではなく、当時(1916年頃)第一次世界大戦勃発に伴って、

      • (詩) 「庭園 青い泉の傍らで」

        大地は降り積もる灰に覆われ 核を失くした作物が畸型の芽を吹く 時を経ずして腐爛し始め 焼けただれた土塊の上に崩れ落ちる その庭園は 地上のどの地図にも載っていない 誰の手によって守られたのだろう 知識と配慮と慎重さをもって それはまた 偉大な存在の意思であったか 園内に降り注ぐのは水晶の陽光 一面の畑が青く染まる 透き通る細い指には強度があり 如何なる地上の闇も それに触れられない 熟練の小さな手に摘み取られた ひとつひとつの果実は 園丁の彼女の掌で宝玉に変わる 開け放

        • シュペルヴィエルの詩「森の奥」から

          「森の奥」 ジュール・シュペルヴィエル ・今回の記事では、詩人丸山薫の随筆「シュペルヴィエルの詩」(現代詩文庫1036「丸山薫詩集」思潮社)に引用された箇所から取った。 ・丸山薫はそこで「シュペルヴィエルの詩はヴァレリーやリルケやコクトーの詩ほどに日本では有名でなく、関心ももたれていない。本国フランスでもたぶん似たりよったりだろう。だが私にはいちばん好きな詩人である。」と書いている。 ※ 私は長く愛好してきた町がある。そこは市街地からはなれた郊外のベッドタウンで、これま

        (随筆) 内村鑑三「詩作」

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        • 詩集「揺曳」
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        記事

          私は今年多くの樹に触れてきた。樹の生命を思う。いまリルケ「世界内面空間」をよく読み返す。鳥と樹は互いに深く結びついた存在だ。両者はある点で、分かちがたい。樹と鳥と、そして人と。人はこれらを感じ、観察するが、破壊もしている。 鳥は、樹の存在性を私(達)より遥かに分かっているはずだ。

          私は今年多くの樹に触れてきた。樹の生命を思う。いまリルケ「世界内面空間」をよく読み返す。鳥と樹は互いに深く結びついた存在だ。両者はある点で、分かちがたい。樹と鳥と、そして人と。人はこれらを感じ、観察するが、破壊もしている。 鳥は、樹の存在性を私(達)より遥かに分かっているはずだ。

          (ソネット) 「兆候 秋」

          道々に並ぶ葉が暗緑の網となり 崩れかけた紅の花の輪を包む 鳩は 何時も 思いもかけぬ所に降りて佇む 季節が次第に消えてゆく 風が境界を越えて流れてゆく 秋の川の表面を群青に染めぬき 澄みわたる日没の空が一刻輝く これらの静寂の内には 小さな足音が隠れている 崩壊を報せるように微かに 水量を増す川底に汚泥が積もり 群れ交う鳥の影が葦原に浮かぶ 訪れる夜の前には青が水際立つ

          (ソネット) 「兆候 秋」

          今朝に投稿しました(ソネット)「市街地から」につきまして、幾つか思うところがあり今回ここで掲載を取り下げます。同様のテーマで再度詩作する可能性はあります。 この間読んで下さいました皆様、有難うございました。

          今朝に投稿しました(ソネット)「市街地から」につきまして、幾つか思うところがあり今回ここで掲載を取り下げます。同様のテーマで再度詩作する可能性はあります。 この間読んで下さいました皆様、有難うございました。

          (随筆) 内村鑑三「戦争を好む理由」

          ・明治三十六年十一月

          (随筆) 内村鑑三「戦争を好む理由」

          (随筆) 内村鑑三「秋」より三篇

          秋酣なり 秋の感 粛殺の秋 ・「秋酣なり」 明治三十八年十一月 「秋の感」 明治三十九年十一月 「粛殺の秋」 明治四十二年十一月 ・全て原文ママ ルビも原文に則って記入 ・「内村鑑三所感集」(岩波文庫)は現在(本記事投稿時点で)出版社品切れ

          (随筆) 内村鑑三「秋」より三篇

          (詩) 「大地はもう黒く」

          宿命のように旋律を否んだから 体に傷を受けて飛ぶ鳥 しいられた全ての歌に背をむけて 降りやまぬ雨が 街を区切って貫く太い川をどこまでも 青く 青く 沈めてゆく 大地はもう黒く焼けただれている ただあの青い川を道しるべにして飛ぼう 取り戻せない空 夜明けに向かって伸びる細い枝を眺めて 呟き 喘ぎながら 鳥 鳥 うたをうばわれた鳥 きみのなかに宿るうたは 今もまだ眠ったまま 傷ある鳥の翼は でも美しい きみはその羽を自ら繕って ただれた土壌の土を払い落とす 薄い光が胞衣の

          (詩) 「大地はもう黒く」

          昏き季節を照らしだす灯りは青く 収めた翼のなかに守り続けた記憶を いまこそ 風の手に渡して https://youtu.be/DwAMm3kevQE?si=Uk4KLNtWu2nHiGES

          昏き季節を照らしだす灯りは青く 収めた翼のなかに守り続けた記憶を いまこそ 風の手に渡して https://youtu.be/DwAMm3kevQE?si=Uk4KLNtWu2nHiGES

          (ソネット) 「扉」

          その白い手に触れるには余りに遠い 雨が開かない扉となって立ち塞ぐ 窓を打つ滴さえ 挑むように 愛しいはずの猫の鳴き声も虚しく 室を灯す一台のランプに油をさす 少年の日から続けていること 彼がいつか鍵を外す時までの はてしない坑道を照らす小さな火 あなたの青い瞳は何処までも隠れ 彼の想いを先に読み取ってゆく いやそれもランプに光る鏡の投影 水のような息吹きで澄んだ夜は 綴った言葉が薄い香りに消える 彼女の白い指が扉に触れる夢の中で

          (ソネット) 「扉」

          (ソネット) 「鏡」

          彼女の瞳は遥かな記憶を喚び醒ます 青く暗い輝きを湛えた池 不毛の土地を百合の生命で照らし 風が辿り着く場所までその葉を運ぶ 伝説の高貴な女王が 民にかけた 解けない謎のような言葉の数々は あなたの水面に何を結んだのか いや何を描かなかったか 彼女の隠れた眼差しの輪に 私は自分の古い傷痕を浸してみる 泉はやがて五月の香気で溢れ始める 猫のように俊敏で 氷のように冷厳な あなたの鏡の淵に立ち尽くしながら

          (ソネット) 「鏡」

          (詩) 「沈吟」

          闇を次第に深めてゆく 一つの時代 ひとつの季節に 渦巻く怒号 暗い音響を彼方に聞く 透明とは 死の謂ではない 遠い記憶の内側にだけ息づいている 一輪の淡い花の輪郭 横たわる川に その冷えきった水に 誰が灯を落とすのだろう 純粋なままに 静かに燃える灯を 季節の境界の谷底を腐臭が包み 道を失くした膨大な影が蠢いている 闇が光に照らされてからは

          (詩) 「沈吟」

          (随筆) 内村鑑三「秋と河」

          原文ママ。ルビも原文に則って表記。 但し、六行目の「逍遥」は原文では“遥”が行人偏に羊にあたる漢字(さまよう、の意)だが手元の「角川必携漢和辞典」(角川書店)でも載らないため文脈から「逍遥」に替えた。

          (随筆) 内村鑑三「秋と河」

          (ソネット) 「秋の諧調」

          黄金を湛えた川縁の道 夕刻 暑気と湿気の強い残り香が漂い 午睡のような秋の静寂のなか 何処までも風を澄ませてゆく 影となって反映する記憶 水 揺れる緋の花々 車道の音響 思い思いに通行する人々 全てがひとつの諧調で束ねられる これらの事象はやがてまた 調和を崩してゆく 喪失された美と均衡を だが 開かれた秋の扉の奥処から 吹きつけてくる 黄金の風が この一刻を 永遠に染める

          (ソネット) 「秋の諧調」