(随筆) 内村鑑三「秋」より三篇


たけなわなり

庭前の竜胆りんどう 開き、菊花また こうばし。静粛の秋は地上の平和とともに来れり。これに平和の神より来る恩恵と平和の加わらんことを。

「内村鑑三所感集」(岩波文庫) 156頁

秋の感

冬について思わず、春について思う。夜について思わず、朝について思う。死について思わず、生について思う。墓について思わず、復活について思う。われらの崇むる神は死せる者の神にあらず、活ける者の神なり。光の子なるわれらは死と暗とに堪うるあたわざるなり。

同 186頁

粛殺の秋

「それ人はすべて草のごとく、その栄えはすべて草の花のごとし、草は枯れ、その花は落つ、されど主の道はかぎ りなく存するなり」。秋風吹き起こりて草木枯れ、偉人逝く、されど地は窮りなく大能の聖手 みてに存して、恩寵に恩寵を加えらるべし。われら、かれを信じて秋声を聴きて望みを失わざるべし。ペテロ前書一章二十四、二十五節。

同 282-283頁


・「秋酣なり」 明治三十八年十一月
「秋の感」 明治三十九年十一月
「粛殺の秋」 明治四十二年十一月
・全て原文ママ ルビも原文に則って記入
・「内村鑑三所感集」(岩波文庫)は現在(本記事投稿時点で)出版社品切れ