(詩) 「緑風橋 晩夏」





たえず変わりゆくものと
決して変わる事のないものとの
境界で
風が 時間が 季節が
そして私自身もまた
橋となって架かっていた

嘗てない猛烈な暑気に襲われた
季節の巡りはしかし早く
この八月も一本の橋だった

立ち止まる事を許さない
雪崩となって加速する時代の中で
時の盲点のように
橋は幾つもの
境界を跨いで架かる

崩れ落ちた橋があり
やがて到来する季節は
それを再生するのだろう

私は今 確かに
それらの狭間に立っている
そしてそこから道々を辿ってゆく

緑風橋を変わらずに往来する
人々がいる
巨大な静寂の量感が
神崎川の影を濃く沈ませる
また
思いもかけない場所に
鳩は集って憩うている

私はその営みに目を止めた
俄かに風が力を強め
重苦しい団地群の裏で激しく樹木を揺らす
立ち上がろうとしてくる
秋の気配を押し留めながら

ひとつの境界を橋は繋いでいる
その橋を一歩一歩と渡ってゆく
深緑に濁る神崎川の
ゆるやかなうねりが
流れの先にあるものを
見下ろす者に示唆しながら
大木のような不動を保っている

到来するものの予兆を
私の胸に灯しながら
風が季節の声を纏って
町から流れ去ってゆく