マガジンのカバー画像

映画鑑賞記録

14
映画を観た感想記事をまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

MINAMATA -ミナマタ-

ジョニー・デップが名フォトグラファー、ユージン・スミスとなり、彼の最後の大仕事となる水俣病取材をメインに据えた作品。 映画のテーマは広い意味で公害であり、時代は変わっても今なお世界の各地で存在し続ける『不都合な真実』について問いかける。 日本に住んでいれば水俣病については学ぶし、権利問題で今の教科書等に載っていないという話だが、あの有名な写真、「入浴する智子と母」は目にしたことがある人は多いのではないか。 私は芸術系の通信教育をしていた時があったが、そこで選択した写真論で

医療について考える映画のお話

中年とは若いころのツケが出てくる年齢でして、私も御多分に洩れず四十を境に色々と…… 同時に、親もまた人生を左右する病気にもなってくるわけで、人の生き死にがリアリティを帯びる今日この頃でございます。 体の不調を改善するためには、当然のように病院にお世話になるわけですが、風邪ではない何某で通うとなると、それはそれで色々なことが見えてくるわけです。 医療や保健の仕組みは国によって異なりますが、国民皆保険の日本では有難いと思える制度が結構あることも分かりました。 そして避けて通れ

映画『SHE SAID』からジャニーズ問題を通して日本と世界の未来を考える

今年1月に公開された映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は、MeToo運動という社会現象が起きるきっかけとなった、ニューヨークタイムズ紙の調査報道に焦点を当てた作品だ。 その記事を担当したのは二人の女性記者であり、キャリー・マリガンとゾーイ・カザンが演じている。 監督はマリア・シュラーダーというドイツの女性作家。 MeToo運動についてはSNSをしている人であれば一度は目にしたことがあるハッシュタグだろう。 ニュースでもハーヴェイ・ワインスタインの所業

インターネットで最も嫌われた男

※ネタばれ有 Netflixのドキュメンタリー作品、『インターネットで最も嫌われた男』を観ました。 ”リベンジ(復讐)ポルノ”という言葉を聞いたことがあると思いますが、それが社会的に大きな問題となるサイトを作った男、ハンター・ムーアと、泣き寝入りせずに立ち向かい、勝利した被害女性の母、シャーロット・ロウズを中心に描いた作品(実話)です。    インターネットの負の側面を利用し、非道なサイトを運営していたハンター・ムーアですが、彼は匿名でもなく顔出しでTwitterで発信をし

『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』

ネットフリックスオリジナル作品『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影(2020)』を観た。 この作品はドラマとドキュメンタリー部分があるが、ドキュメンタリーに登場するのは元ビッグテックの社員で、重要なセクションで開発を行っていた人などもいる。 そんな彼らがあるとき「これはまずいだろ」と気づき、退社して啓蒙活動をしている。   ”中の人”だから分かることがあり、そんな彼らが警鐘を鳴らすことが意味するものは何か。 しかし、彼らはこれらを全否定しているわけではない。 テクノ

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』

2021年のクレヨンしんちゃん映画は中々社会性の強い作品で、個人的にとても楽しめました。 評価は全く見ずに観ましたが、かなり高評価みたいですね。 すでに地上波でも放送したとか。(テレビないので知りませんでした) かつて『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』という名作がありましたが、ちょうど20年前の2001年なんですね。    本作の良さは説教的でも、感動の押し売りでもない微妙なバランスで現代の行き詰まり社会を表現できており、かつ『クレしん』ならではの設

『ドライブ・マイ・カー』 『女のいない男たち』

 昨年の映画賞で、外国語部門での受賞ラッシュが記憶に残る作品、面白くないはずはないと思っていながら劇場に観に行かなかったのには理由があります。 その一つは、原作を読んでから観たい、と思ったからです。 というのも原作はあの村上春樹さんですから、映像化に当たってはとてもハードルが高いというか、プレッシャーも相当かかる作業であると思いました。  タイトルの『ドライブ・マイ・カー』は『女のいない男たち』(2014年)という短編集の中の一つですが、著者本人がまえがきで述べている通り、

モーリタニアン 黒塗りの記録(映画の感想)

グアンタナモ収容所に収監されたモーリタニア人の手記を基にした作品。(2021年公開) ジョディ・フォスターとベネディクト・カンバーバッチが共演というのも興味をそそられます。 グアンタナモについては実体が大分明るみに出ていると思いますが、いまだ閉鎖されていない現状をどう考えるかもこの作品の一つのテーマなのかもしれません。 社会問題を扱った作品についての私の注目点は、その問題が日本ではどう理解されているかを考えることなので、こちらもその視点で感想を書きたいと思います。 この作

『アンダーグラウンド』(1995)

『アンダーグラウンド』(1995) エミール・クストリッツァ監督 カンヌ国際映画祭パルムドールの作品なので、知っている方は多いと思いますが、もう26年も前なんですね… 当時、(と言っても劇場ではないけども)、友人に勧められてビデオを借りて観たのが20歳前後なのかな… ものすごくインパクトのある作品だったこともあり、最近ブルーレイを購入しました。 改めて観直してみると170分があっという間で、面白さは変わりませんでした。 しかし、当然ながら若い時分とは違い、知識もそれなり

ホセ・ムヒカさん

『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』 タイトル長い! このドキュメンタリー、というには少し異質な作品は、私が大好きなエミール・クストリッツァが監督。 え? そう、映画があるのは知っていたが彼が監督だったとは観るまで知らなかった。 さて、この作品は70分程度の短いドキュメンタリーで、ムヒカさんの人生をがっつり描こう、というスタイルではなく、何というかムヒカの庭みたいなところで、クストリッツァとふたりで談笑している中に色々なシーンが挟みこまれている。 南

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を観て

「人間と人間の間に媒介として言葉が、力があった時代の最後だったと思っている」 三島の論客、芥正彦氏の今の言葉です。 この作品を語る上で、この言葉をどう理解するかが重要だと思っています。 人間の多くは言葉を通してしかコミュニケーションを図れませんし、他の動物との大きな違いは、人類が言語能力を獲得したことであるのも確かだと思います。 しかし、言葉は完璧な道具ではありません。 それを如実に物語るのは哲学者の記した書物ではないでしょうか。 文字は読めてもストレートに意味が分かるこ

映画『パラサイト』

昨年、コロナ禍での鑑賞となったアカデミー賞の作品と監督賞を受賞した作品。 迷わずパンフレットを買ったが、その中にそれを短くまとめたコメントがあった。 コメントは映画監督から俳優、芸人、タレントなど様々だが、やはり鋭い言葉を発していたのはどれも私が好きな映画監督の言葉だった。 李相日監督 "笑いながら観ていたはずが、気づけば背筋が凍る衝撃に慄いてしまう"(抜粋) 西川美和監督 "これだけ社会の重い病巣を描いているのに、どうしてこんなにも面白く観られてしまうんでしょうか。ど

シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 1回目の感想

※ネタバレありで書きます。 未見の方は読まない方がいいと思います。 新劇場版も最終章となりました。 前作の『Q』から9年。 1作目が2007年、2作目が2009年、3作目が2012年、そして最終2021年と、奇しくも”14年”の歳月をかけて完結した物語です。 私はテレビ版(1995年)をリアルタイムではなく、友人に勧められてDVDを借りて観ました。 その後の劇場版も一応観ましたが、記憶が曖昧です。 テレビ版は観直したこともあったのである程度は覚えています。 新劇場版も一

『ウトヤ島、7月22日』

『ウトヤ島、7月22日』 2011年7月22日、ノルウェーで起きた連続テロ事件は、単独犯として最悪の77人の犠牲者を出した。 記憶にはあったが、その詳細を当時調べることはしていなかった。 2011年3月11日以降と言えば日本にとっては東日本大震災のことでいっぱいだったということもあっただろう。   2018年、凄惨な事件から7年を経て、ノルウェー人によるノルウェー語でこの事件をテーマにした作品が公開された。(日本では2019年3月公開)   映画の概要、特殊性についてはこの