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機動戦士ガンダムSEED(DESTINY)

1月26日より完全新作となる劇場作品が公開される『機動戦士ガンダムSEED』、私は年齢的にリアルタイムで観てはいません。
私がリアルタイムで観た『ガンダム』は再放送のファースト、そしてZです。
小学生だった当時はとにかくプラモデルにはまっていました。
他のプラモデルには興味を示さず、ガンプラオンリーでした。

それだけ夢中になったガンダムですが、大人になるにつれ普通に離れていきました。
しかし、高校を卒業した後に、レンタルビデオ店でバイトをしたときに『Zガンダム』を全巻観直しました。
その後、ファーストの劇場版3部作を初めて観ました。

もう子供ではないので、感じ方は当時とは異なりますが、むしろ物語の深淵さに脱帽しました。
こんな物語だったのか、と小学生では気づくことが出来ないテーマに感心したものでした。

オトナになって真剣にアニメーションを観始めたのは、秋葉原でとあるお仕事を始めたときからです。
ちょうどインターネットでも動画配信が始まった頃でしたので、DVD をレンタルせずとも気軽に作品に触れる環境が整ってきていました。

『機動戦士ガンダムSEED』はファーストの宇宙世紀(UC)シリーズを意識しつつ、まったく新しい世紀、コズミック・イラ(CE)を舞台にした平成ガンダムとしてとても評価が高い作品です。
2002年に『SEED』、2004年に続編『SEED DESTINY』と合わせて100話の大作です。

ファースト世代の私には年齢的なものもあったり、やはりあのビジュアル含めて違和感があって観ておりませんでした。
この作品に触れることになったのは、2009年頃だったと思います。
しかし観始めてしまえばあっという間。その壮大な世界観にどっぷりつかってしまいました。
この作品はターゲットを小学生ではなく、中高生にしていたと思いますが、それは大人が観てもかなり面白い要素がたくさんあります。
宇宙世紀シリーズで言えば『Zガンダム』の世界に近いもので、随所にオマージュも散見される作りとなっています。
テーマは深く、また遺伝子工学が進歩したことにより、ファンタージ要素よりも現実社会の歪みをリアルに扱っているところも個人的に刺さるドラマでした。

『ガンダム』という世界的な一大コンテンツでありながら、ここまで野心的な作品が作れたことに驚きを隠せません。
オールドガンダムファンも納得させるストーリ展開、若者の気持ちも鷲づかみにする濃密な設定のキャラクター。
伏線も適度に散りばめ、細かく回収していくのでハラハラドキドキが継続します。
戦闘シーンは(プラモデル販売の都合上)モビルスーツを登場させる必要があるため多めですが、それはそれでやはり楽しいものです。

この名作の続編が、20年を経過した現代に登場するということで楽しみではありますが、先日3回目の観直しを終えて色々と思うところがあったので記事にしています。
科学技術の進歩という視点で考えると、この20年という年月はかなり変化があるものと思います。
遺伝子解析やクローン技術などの進展が現実のニュースとして賑わせていたと思いますが、それをうまく取り入れています。
戦争の背景は主に9.11もあって中東を意識したものとなっています。

科学と兵器の関係は切っても切り離せないですし、その背後にある宗教(思想)や経済的、地政学的事情などが絡んで戦争が無くなることは、残念ながら現実的ではありません。
それでも、この物語は『どうやったら戦争がこの世からなくなるか』を模索します。
原因は科学か人間か、主要な登場人物はそれらを探り、正義とは何をすることかを苦い経験から導き出し、現実の不毛な戦いの中に身を置きます。

20年で科学は驚くべき進化を遂げていますが、社会は良くなっているでしょうか。
イラク戦争、原発事故、イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻、台湾有事……
残念ながらより歪な、混沌が渦巻く世界になってしまっていると思います。
『DESTINY』で指摘された『軍産複合体』が戦争が終わらない諸悪の根源、というのはある側面で言えばそうですが、当然社会はもっと複雑です。
また、『遺伝子解析を活用した争いのない社会=DESTINYプラン』はその後のアニメ『PSYCHO-PASS』の管理社会にも通じるところがあります。

争いごと(犯罪)を未然に防ぐシステムについては映画『マイノリティ・リポート』でも描かれていました。

共通することは、科学が人間を制御する、という概念です。
これは昨今のAIの進化から現実味を帯びてきてもいますが、SF大作『2001年宇宙の旅』や『ブレードランナー』が描いた重大問題がクリアになったわけではありません。

ということでオトナになって観る『ガンダム』は、深堀り可能な要素がたくさんあります。

ガンダムを懐かしい思い出として語るのは同世代では楽しいことですが、やはりオトナとして深いテーマについて議論したいとも思います。

戦争に関する政治的テーマ以外にも多様なキャラクターが生み出す社会的テーマも、豊かな人文的考察を可能にします。
運命に翻弄されながら自我と戦い、公的な平和だけでなく私的な幸福についても苦悩する彼らの葛藤は見ごたえがあります。

今回の新作が、どんなテーマをどのように描くのかは定かではありませんが、劇場用作品ですので期待はあまりしていません。
予告を見る限りはファンのための続編といった性格のように感じます。
50x2=100話を通して描き切るストーリーと比べてはいけないと思いますが、上映時間に対して登場人物が多すぎますし、ファンサービスを度外視した重厚な物語は描けるとは思えません。
とはいえ、再び彼らのその後が観られるというのは、やはり嬉しいことです。
後日譚的でいいので、あの悲劇の後、彼らがどんな活動をしているのかが描けていれば十分だろうと思います。
もともとはDESTINYの後に制作される予定のものだったらしいですが、この20年の現実を踏まえた作品になっていればなおよいなと個人的に思います。


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