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大分で警察官の方達に伝えたかったこと

宿に着くと娘の写真と小さい方の骨箱をどこに置くか?それをまず考える。
外の景色が見える様に窓際に置こうか、やはり一緒に旅をしている気分に落ち着くベッドの近くに置こうか。
娘が死に、この世にいない事は事実としては分かっている。
しかし、心では分かっていない。
頭の中のそのザラつきを感じながら、今回はやはりベッドの近くに置くことにした。

昨年の9月中旬、大分で初めて街頭署名活動と言うものに参加した。
その大分を約1年ぶりに再訪した。
自分がどうしても実現させたい企画があったからだ。


10月4日に私は、城祐一郎先生と一緒に大分県警主催で被害者の体験談を警察官の前で語った。
私の演題はこれである。
「悪質事案は危険運転適用を視野に捜査を尽くして頂くことが最大の被害者支援」(好事例の共有&研究の推進のお願い)

昨年の9月に大分で行た署名活動は、大分で起きた時速194㎞走行車による死亡事件が、過失犯として起訴された事はおかしいのではないか?と言う問題を問うものであり、故意犯へ訴因変更を行う様に大分地検に求めるものだった。

結果、様々な要因が重なり、大分地検は本件を故意犯である危険運転致死罪に訴因変更した。

娘が死んだ事件でも痛感した事だが、検察の判断を変えるためには、「一般常識としておかしいではないか?」と言った市民感覚を訴えたところで検察の背中を押す効果はゼロに等しい。

判断を変えるためには、裁判で勝てる法的な理論とそれを立証する証拠が不可欠である。
大分地検は署名活動などにより、全国的にこの事件の異常さが注目されたので、冷や汗をかきながら知恵を絞り直したのだろう。
では、知恵を絞り直した際に、証拠の再整理をしたのは誰か?
警察であろう。

だからその現場の、そして大分の警察官の方々の前で、自身の事件が危うく過失犯で処理されそうになった体験を語りたいと考えたのである。

本来は危険運転致死傷罪の適用がある事件であっても、警察が初動捜査のポイントを押さえていない、調書作成の際に任意性・信用性に疑いが残る様な事があっては、裁判で負けてしまう可能性がある。
すなわち、過失犯とされてしまう可能性があるのである。

講演の中でも話した事だが、飲酒運転、悪質な赤信号無視、異常高速度という類の悪質な危険運転で子供を殺されて、これが過失だなんて言う事は絶対に親は受け入れられない。

その事について話した部分の講演録の一部を下に抜粋する。

子を殺されると言う事の苦しみ、悔しさ、自責の念は言葉で説明尽くせません。
はっきり申し上げて、当事者以外には絶対に分からない苦しみです。
過失犯だから、危険運転だから、執行猶予だから、実刑だから、懲役3年だから、懲役10年だから、どんな結果にしても、娘は生き返りません。
しかし、なぜ闘うのか?そして今なお皆さんの前でこの様な話をさせて頂きたいと思うのか?
親は過失なんかで子供を殺されて、絶対に耐えられない。加害者が刑務所に入らない?絶対に耐えられない。必ず最大限の罰を与える。その事に全身全霊をかけるのです。
酒、薬、逃げ、赤無視、こんな犯罪行為の結果、何の落ち度も無い子供が命を失う。
その結果が過失である。加害者が裁判で自分に有利に供述を変遷させる、そして最悪執行猶予がつく。この事の悔しさ、社会からの疎外感を皆さんも想像して頂きたいと思います。
絶対に、法で決められている最大限の罰を与えねばならない。
それが、犯罪抑止ではないでしょうか。』

『皆さんがプロフェッショナルとしてできる最大の被害者支援は被害者の心情をおもんばかる事がメインではないと思います。メインでやって頂きたいのは、悪質運転は必ず危険運転でやってやる、そう言う事なのです。』

もちろん、危険運転が立件されるかは、検察が決める事である。
しかし、証拠と法の当てはめがあって初めて立件できるのだから、検察と警察はいわば両輪の関係にある。
これらがワークしないと、危険運転を問う裁判の土俵に上がれない。

この両輪がうまくワークする事が、捜査実務においては欠かせないはずだと思っている。
その事に説得力を持って皆さんに聞いていただたくために、城祐一郎先生のお力をお借りしていると言う訳である。

城祐一郎先生とは初めてお会いした時から、大分で講演会をやりましょうと言うお話をさせて頂いていた。
「これまでの被害者を救い、これからの被害者を生まない事に貢献できるのであれば、俺はどこへでも行く」と言う城先生は真に有言実行の方であった。

私の話を聞かれた警察官の方はどの様な感想を持たれただろうか?
もう少し、遺族としての悲しみを盛り込んでも良かったのではないかと言う声もあったと聞く。

私は講演の資料を作る際に、手元にある刑事記録を全て読み直した。
娘が車体のどの部分にどの様な体勢で衝突し、どの様に引きずられたかを捜査資料は冷酷に伝えている。

一人自室で泣きながら、魂を削りながら講演の準備をした。

改めて言いたい。

プロフェッショナルとしてできる最大の被害者支援は被害者の心情をおもんばかる事がメインではないと思います。メインでやって頂きたいのは、悪質運転は必ず危険運転でやってやる、そう言う事なのです。


大分合同新聞2023年10月5日朝刊



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