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春入試で明らかになった多くの私立大での定員割れ。そこには“定員厳格化の緩和”の影響があったのか―厳格化のルール・経緯を確認


相次ぐ募集停止で、募集悪化が大きくクローズアップ

12月に入り、各大学では2024年度入学者選抜がいよいよ熱を帯びてきています。
 
一方、そうした盛り上がりに冷や水を浴びせるかのごとく、政府の方では、募集状況が深刻な状況に陥っている私立大学の在り方に関する議論が本格化しているのです。

具体的には――
9月、文部科学大臣から中央教育審議会に対してこの課題を含む諮問が行われました。
さっそく同審議会の大学分科会で審議が始まり、大学の在り方に特化した緊急の部会「高等教育の在り方に関する特別部会」が設けられ、第1回目の会議が11月29日に開催されたところです。来春には取りまとめが出されるとのことです。

大学関係者のみなさんは、目の前の募集活動、入試の業務に従事しながら、国の方で行われている議論がどうなっていくのか、気にされていらっしゃることでしょう。

私学事業団発表、「半数以上が定員割れ」 

振り返ると、18歳人口減少による私立大学の募集状況の悪化を心配する声は以前からありました。
すでに大学全入時代が到来したのではないか、というメディアの記事はあちこちで見かけましたが、惨憺たる募集状況、そして経営の行き詰まりについて、ここまで大きく取り上げられたのは、この春以降、わずか半年くらいと言っていいでしょう。

まず、2023年度の大学入試が終わったばかりの3月、恵泉女学園大学(東京都)を皮切りに、神戸海星女学院大学(兵庫県)、上智短期大学(神奈川県)など、続々と募集停止を発表する私立大学・短期大学が現れ、秋には追い打ちをかけるがごとく、私立大学の半数以上が定員割れに陥ったとの日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)集計に基づくレポートが報道されました。

月報私学』令和5年9月号8頁
「令和5(2023)年度私立大学・短期大学等入学志願動向」

これらのニュースや報道によって、あたかも突然降ってわいたように、私立大学の募集状況&経営不振に対する国民の関心と不安が一気に高まったというわけです。


 

もしかしたら、急激な悪化の裏に
厳格化の緩和が・・・

もちろん、遅かれ早かれ厳しい時代に突入するだろうな、と誰しも薄々は感じていたことでしょう。

しかし、これほどまで、急激に状況が悪化するとは・・・
もしかすると、18歳人口の減少とは別に、何か引き金になった別の要素があったのではないか・・・
 

そう考えたとき、ひょっとしたら、この春の定員厳格化緩和のルール変更がそれに該当するのではないか。
苦しいながらも微妙なバランスを保ちながら実施されてきた私立大学の入学者募集を、横から大きく揺るがすことになってしまったのでは・・・

そこで、私たちは今回、今春の私立大学の入学者選抜の結果に加え、定員充足率も詳しく調べてみることで、今年度、急遽適用された定員厳格化緩和が何らかの影響を与えたのかどうか、調査してみることにしたのです。

 はじめに、定員厳格化とその緩和に至る経緯について、簡単に振り返っておきたいと思います。
 

志願者数や倍率だけでは、わからない時代に

大学入試の実態を把握する場合、従来は、「募集人員(入学定員)に対する志願者数と志願倍率」、「合格者数と実質倍率」、「偏差値」・・・
といったデータがもっぱら重視されてきました。
前年比で志願者が増えたのか減ったのか、倍率が上がったのか下がったのかにより、その大学・学部の募集の評価が定まってきたと言っても過言ではないでしょう。

これら定番のデータは、いわば大学・学部にとっての年1回の“通知表”であったわけです。

ですから、入試や広報を担当されている大学スタッフのみなさんは、一人でも多くの受験生に自分の大学の存在や魅力を認知してもらい、それを出願につなげ、志願者数が一人でも多く、そして、倍率が少しでも高くなるよう、さまざまな努力をされているのです。

ところが、私学事業団がこの秋に発表したレポートにあるように、2023年度入試では入学者が定員を下回る、いわゆる“定員割れ”を起こしたケースがあちこちの大学で発生し、ついに半数以上の大学が定員割れの状態になってしまいました。

定員割れとは、実質倍率が 1.0 倍を下回ってしまう、ということですから、数字の上では無競争となり、理論上、出願すれば誰でも合格できてしまう状況です。

改めて申し上げるまでもなく、倍率が 1.0 倍を下回ってしまえば、合格最低点は意味のないものになり、実質的にどれくらいの学力が求められているのかは不明となるのです。

そればかりではありません。

なかには、合格者数を昨年に比べ多く出しているのもかかわらず、蓋を開けてみれば、入学者数は昨年を下回ってしまい、定員を埋めることに苦労した大学、あるいは、昨年より志願者が集まって一見募集は好調のようにみえていても、入学者数が昨年を下回った・・・
そのような事例も散見されるのです。

「志願者が増えた」「倍率が上がった」ことだけで、単純に募集成績が良かった、とは断言できなくなってしまったのです。

いずれにせよ、これまでのように志願者数の増減、競争率のアップ・ダウンだけ見ていては私立大学の入試の実態を語ることは難しくなってきたというわけです。

となると・・・

もう一歩踏み込んで申し上げれば、
入試や入学者選抜の結果、どれだけの人が入学したのか、つまり
最終的に定員充足率がどうなったのかまでしっかりウォッチしなければ、
その大学・学部の募集状況の実像はつかめない時代に突入
したのです。

 
 

都市部の大学の“取りすぎ”を抑制するため

次に、定員厳格化について見ておきましょう。

かれこれ30~40年ほど前、いわゆる第2次ベビーブームに該当する当時の若者が大学入試の年齢にさしかかる頃、首都圏を中心に私立大学の定員超過、つまり学生の“取りすぎ”が大きな問題となっていました。

大都市圏の私立大学、とくにマンモス大学が定員を超えて過剰に合格者を出してしまうと、地方大学や小規模大学に学生が進学せず、経営にダメージが及んでしまう、ということが言われていました。

さらには、国を挙げて推進されている“地方創生”という観点から、大都市の大学に学生が集まりすぎることは避けるべきとの方針により、東京23区内の大学については大学・学部の新設も抑制されてきているのです。

そこで、文科省は定員超過を抑制すべく、2015年以降、数年にわたって段階的に定員厳格化を行ってきました。


その結果、どうなったか。
実は、抑制の効果があがったのです。つまり、各大学の努力により、大都市圏の大学の超過率は低く抑えらました。
数字の上では、施策は成功したと言ってもよいでしょう。

2018年(平成30年)、この定員厳格化の施策が上手くいったことを踏まえて、文科省は予告していた超過した際のペナルティを取りやめるとの方針変更をしました。その際、発出された通達がこちらになります。

平成31年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)


厳格化は上手くいったはず。ところが・・・

では、上手くいったはずの定員厳格化の施策が、なぜ緩和の方向でルール変更がなされたのでしょうか。
実は、そこには想定外の事態が起きていたのです。
 
 

次回はそのあたりから見て参りましょう。
そして、ルール変更の内容、定員の定義にも触れたいと思います。

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