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さよならのロックンロール

わたしは人に影響されやすい人間だ。だと思う、ではなく断定できる。結局自分のことを1番わかっているのは自分なのだ。

悪くいえば、わたしは個性のない人間なのだ。人の流行りに流されて、周りに便乗して悪口を言って、都合の悪いことがあれば自分は悪くないの一点張り。

話は変わるが、わたしは音楽が好きだ。アイドルも好きだし、ロックも好きだし、クラシックも好きだし、とにかくいろんなジャンルをちょこちょこ掻い摘んで好きだ。

 今日はわたしがロックを好きになった話をしようと思う。

大学生になり一人暮らしを始めたわたしは想像以上の孤独になれず、夜はヘッドホンが手放せない生活を送っていた。夏の夜。首筋を汗が伝う中で、お風呂上がりに冷たい飲み物を口にしながらヘッドホンをし、座椅子でくつろぐ。それがわたしの毎晩のスタイルだ。ヘッドホンをしていればわたしは孤独を忘れられるような気がしたのだ。耳には常に音楽が入っていた。

その日の夜もわたしはいつものようにヘッドホンをして音楽を聴いていた。ふわふわとレースのカーテンが揺れ、涼しい風が室内に入り込んでいた。数日前からSNSで中学生の時に付き合っていた彼氏とやり取りをしていた。内容は音楽についてだった。

『yonigeのさよならアイデンティティーきいてみて』

その晩突然来たメッセージ。ひとつの音楽を共有するのが好きなわたしは特に何も考えずYouTubeで検索をかけ、動画を再生した。

その音が途切れた時、わたしは泣いていた。悲しいとか苦しいとか切ないとかいろいろな感情が溢れ出て、最後に残ったのは中学生のあの時、あの幸せだった時間の光景だった。夕日が眩しい部活終わりの帰り道、頬を赤く染めた彼がわたしの半歩前を歩く。

ああ、そうか。わたし、今も恋してるんだ。

そう思った。夜中に呼び出されて彼から告げられた別れの言葉に泣きじゃくったあの日からずっと、わたしの恋は消えていなかったのだ。

嗚咽を漏らしそうになりながら衝動的に彼に電話をかけた。『もしもし』、あの頃よりも低い声。もう随分と時間が経っていたことに気付かされた。彼は泣いていて、わたしも泣いていた。

『ずっと忘れられなかった。』わたしもだよ。

『好きだった』わたしもだよ。

『だからケジメをつけようと思う』


電話が切れた。ヘッドホンからは何も聞こえない。窓の外で虫がないている。涙は未だに止まりそうにない、けれどわたしはスッキリしていた。

わたしは人に影響されやすい人間だ。

大学3年生になった今、yonigeはわたしにとって大好きなバンドの一つである。

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