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2019/12/21 舞台「マクベス」観劇

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公演タイトル:「マクベス」
劇場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
劇団:DULL-COLORED POP
原作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳・演出:谷賢一
公演期間:12/12〜12/22
個人評価:★★★★★★☆☆☆☆

【総評】
今まで古典劇をほとんど見たことない私が、現代風に脚色アレンジされた「マクベス」を観劇してまず思ったことは、やはりちゃんと原作は頭に入れておきたかったという後悔。途中の台詞回しでついていけないシーンがいくつかあった。一度本場の「マクベス」を観ておけば、今作も十分に楽しめたのではないかと思った。
しかし、「マクベス」と現代日本が持つ社会問題と上手くリンクさせて描けているのは、さすがDULL-COLORED POP主宰の谷さんだなと思った、演出技法もらしさが沢山垣間見れて面白かった。
ただ個人的には、もっと面白くできたはずではないかと物足りない、納得いかない演出もいくつかあった。
それでも、マクベス夫妻のキャスト陣のレベルの高さといい、たった6人+役のない人2人で登場人物を演じきってしまう凄さといい観にきて良かったと思える作品だった。
そして、もっと古典劇を沢山見たいと思える良い機会だった。

【鑑賞動機】
以前から気になっていた劇団であるDULL-COLORED POP、そして以前劇団4ドル50セントの公演を観に行った時に客演として出演されていた、柿喰う客の淺場万矢さんの芝居がとても宝塚のように力強くて観客を惹きつける力があって印象的だったので、もう一度拝見しようと思い観劇。
シェイクスピアの四大悲劇に数えられる「マクベス」は読んだことも観劇したこともなく初見。観劇直前にあらすじをwebで眺めた程度。古典劇自体も人生で数回程度しか観劇したことないので、そんな古典劇に疎い自分がどこまで作品に夢中になれるかを楽しみとしながら観劇。

【ストーリー・内容】
「マクベス」のストーリーをちゃんと理解してなかったので、途中話についていけなかった箇所があったが、そんな箇所も含めてざっくりとストーリーを紹介する。

スーツに身をまとったマクベス(東谷英人)とその友人のバンクォー(大原研二)は、キャバクラのような空間で3人の魔女(淺場万矢、倉橋愛実、百花亜希)と飲み交わしながらマリファナを吸って過ごすシーンから始まる。そこで彼らは魔女から、「マクベスはいずれ王になる」「バンクォーは王にはなれないが子孫が王になる」という予言を口にする。
その後、マクベスはコーダ領の領主に抜擢され出世するが、マクベス夫人(淺場)から「野心はあるがお人好し過ぎる、権威を手にするためにはダンカン王(宮地洸成)を殺すべき」と進言して王の座に就くよう後押しする。マクベスは恐る恐るダンカンを殺し、手下がダンカンを殺したかのように見せかけることに成功する。

王の座に就いたマクベスだったが、「バンクォーは王にはなれないが子孫が王になる」という魔女の予言を思い出し、バンクォーを警戒するようになる。ついにはバンクォーも殺してしまうが、息子のフリーアンス(倉橋)は逃してしまう。
マクベスは宴会の席でバンクォーの亡霊を見たりと幻覚障害に陥り精神的に不安定になり、再び魔女たちの予言を聞きに行く。そこで得た予言は、「マクダフに気をつけろ」「女の股から生まれた者に敗れはしない」「バーナムの森が動き出さない限り敗れたりしない」というものだった。女の股から生まれない者はいないし、バーナムの森が動き出すことなんてあり得ないと思ったマクベスは勝ち誇ったような気分になる。

まずは気をつけろと言われた、マクダフの夫人と子供達(百花)を暗殺した。
怒ったマクダフ(百花)と一緒にいたマルカム王子(宮地)は、マクベスの王領地へ攻め入ろうとしてバーナムの森へ移動する。それを知ったマクベスはバーナムの森が動き出したと勘違いして恐怖する。さらに、そこへマクダフがマクベスの前に現れ「我は母の腹から産まれてきた(帝王切開で産まれた)」と言って対峙する。
しかしマクベスはもう魔女の予言など信じないと強がりを見せ、マクダフを殺させる。最後にマクベスは、「マクダフを成敗した」「ダンカン王は殺していない」などを閣議決定して讃えられ終わる。

「マクベス」という400年以上前に作られた戯曲を、現代日本風に上手く翻訳して脚色された台本は非常に見事だった。マクベスを現代の野心に燃えたサラリーマンに仕立て上げたり、最後には安倍政権の閣議決定乱発と結びつけて、権力者の権威を保持するための隠蔽作戦を描くあたりがとてもシニカルで素晴らしかった。

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【世界観・演出】
DULL-COLORED POPの公演を観劇するのは初めてだったが、前作の「福島三部作」の劇中の様子を写真で見た感じだと、照明をあまり使わないため暗く、舞台もパネル等がなくて素舞台に近く周囲に小道具がいくつかある程度であることを知っており、彼らの劇団はそういった舞台装置や照明を派手にしない傾向があるのかなと思っていた。そして、やはり今作もそんな演出をしっかり踏襲していた。

舞台は素舞台に近く、中央に花道が存在し、中央奥に大きな扉があって出はけに使われる。ローラー付きのソファー椅子やバスタブ、トイレの便器、病院用ベッドなどを舞台上に移動させることで場面を転換する。舞台上にはそれだけなのに、そのシーンがどういった場所で何を意味しているかしっかりと伝わってくる。

照明も非常に少なく全体的に暗い印象があった。キャストが立っているポイントにライトがポツンと照らされるシーンが多く、それ以外は照らされず暗い。
また、舞台中央奥に立てかけられていた、6本の縦に細いサイリウムのような照明がとてもカラフルで好きで、OP音楽で青と赤で光ったり、中盤で薄水色に輝くあたりが良かった。

音楽は、ちょっとBGMのボリュームが大きすぎる気がした、あそこまで上げてしまうとマイクを使っても台詞がよく聞こえなくなってしまう。
特にOPの音楽は工夫して欲しかったかなというのが個人的な感想。

また細かい演出でいくと、中盤で客席最前列と花道付近の客席の方にグラスを配って乾杯するシーンは、発想としては非常に良いのだが、舞台が暗すぎて、また音楽もかかっていないため客席も温まっていないので、「カンパーイ」と乗れるテンションではない気がした。ちょっと気分的に無理を強いている部分があるかなと思った。
ただ、マクベスが再び魔女たちに予言を聞きに行くシーンの、布の使い方は見事だなと思った。布に赤子の顔がゆらゆら映されるあの不気味さ、布の後ろで影を上手く使って千手観音のように魔女たちが演じる演出はとても好きだった。
バスタブで泡風呂に浸かりiPadを触りながらテイラー・スウィフトの「shake it off」を聞くマクベス夫人のセクシーな演出、最後にマクベスが手を挙げながらあらゆることを閣議決定させてしまう脚本も非常に印象に残るくらい巧みな表現方法で素晴らしかった。

【キャスト・キャラクター】
なんといってもマクベス夫婦の熱演が光る芝居であったことは間違いないのだが、たった6人のキャストでマクベスの登場人物を演じきってしまう凄さも光る舞台だった。

まず、マクベスを演じた東谷英人さんだが、とても誠実で真面目そうなサラリーマンという設定が非常に似合っていて良かった。
特にあのちょっと独特な喋り方、少し堅苦しくってかっちりしている喋り方が非常にマクベスというキャラクターの性格を上手く反映していたと思う。そこから、マクベス夫人に背中を押されて暴君へと変わっていく過程で、髪を櫛で梳かしながら強そうなビジネスマンへと徐々に変貌していくあたりもとても好きだった。あの完全に変わるのではなく徐々に変わっていくあたりが好きだった。

そして、マクベス夫人を演じた淺場万矢さん、毒のあるセクシーなマダムが本当に似合っていて素晴らしかった。本当にこの役者は、しっかりと観客にずしりと届くような味のある芝居が出来る人だなと思う。
特に泡風呂のシーンで夫マクベスの、「野心家だけど優しすぎるところが難点」と呟くあたりはもうセクシーさも相まって最高だった。そして夫に甘える芝居も色気があって良かった。
また衣装も良くて、泡風呂から上がったあとの紺色のドレスを着るシーンだったり、その後の白っぽい上着を羽織っている衣装も良かった、全部が脳裏に焼きつくくらい印象的だった。

他のキャストたちは、早着替えをしながら複数の役をこなしていくあたりがとても凄いなと思った。
特に魔女も演じている、倉橋愛実さんと百花亜希さん。倉橋さんのフリーアンスは、原作には二言しか台詞が描かれていないことさえネタにして存在感を出して演じているところが良かった。百花さんは、腹話術を使いながらマクダフ夫人とマクダフの子供を一人芝居でやるあたりが好きだった。殺されてからはいつの間にか服だけ残してハケていたことに気づかなかった。

【舞台の深み】
400年以上前に書かれた作品でありながらも、現代までずっと上演され続けている「マクベス」について書き記しておく。

「マクベス」の時代設定は中世ヨーロッパの世界なので当然現代社会とは大きく異なる世界観であるが、「マクベス」で描かれているマクベス自身の苦悩と葛藤や心理は現代人にも近しい部分がある。
例えば、権力を手にしたいという野望、そして手に入れた権威を維持するために汚い手を使うことも厭わないという精神は現代にだって通用する。
先日データ改ざんでニュースになった日本の大企業を見てもそうである。ビジネスが拡大すれば拡大するほど、今の状態を維持したいと考えるようになる。その結果、今の状態を維持したいがためにデータ改ざんなどの不正を行ってしまう、そんな現状は日本中の会社で蔓延している。
また、これは会社だけではなく今の日本を統治する内閣にだって当てはまる。実際、今作の最後でもマクベスが安倍内閣の閣議決定乱発のように、権威を片手に自分の都合の良いように、権威を保持できるように事実を改ざんしてしまう場面は非常に象徴的だった。

このように、「マクベス」という作品が我々に語りかけてくるストーリーの本質は、どんなに時代が流れようとも変わることのない普遍的なテーマで、だからこそ今日までこうやって「マクベス」は語り継がれてきたのだろうなと思った。そして今を生きる我々は、そういった教訓をしっかりと受け入れて生きていくことが大切なのだなと思った。

【印象に残ったシーン】
印象に残ったシーンは3つ。
1つは、マクベス夫人が泡風呂に浸りながらiPadでテイラー・スウィフトの「shake it off」を流し、マクベスという人物のキャラクターについて語るシーン。マクベスにテイラー・スウィフトっていうのがまず良い。そして、入浴からのドレスに着替えるあたりで、淺場さんのセクシーさと演技の上手さが非常に印象に残る。
2つ目は、薄い布を使った2回目の予言のシーン。赤子の顔がゆらゆら映し出されて不気味に見える演出や、千手観音のようなシルエットの演出はとても惹きつけられるものがあった。
3つ目は、やはりラストの一番笑えるあのシーン、安倍総理のように今まで自分が行ってきたことを権威を片手に全て閣議決定で通してしまう傲慢さが、序盤のマクベスの性格とは大きく違ってとても面白かった。

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