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米2年債と10年債の利回り逆転が示唆するもの

3月29日の米国債市場で、2年物の国債利回りが一時10年物を上回るという逆転現象が発生しました。これを市場参加者は「逆イールド」と呼ぶのですが、これは景気後退(リセッション)のシグナルとされているため、この先、景気が落ち込むとの懸念が一部で台頭しています。市場関係のニュースでは結構話題になっていました。

この現象、マーケットの間では有名な話ですが、今一度基本に戻って、この逆イールドが何を表していて、何を示唆しているのかを考えてみたいと思います。

なぜ起こるのか

通常、景気が拡大している時には、短期金利よりも長期金利の方が高く、2年国債利回りよりも10年国債利回りの方が高くなります(順イールド)。これについては、長期の債券の方が金利変動などのリスクが高いため、その分リスクプレミアムが乗って利回りが高い、と考えたり、長期でお金を調達するにはより高い金利を払う必要がある、景気が良いため将来お金の需要が高まってお金の値段である金利が高くなるとみられている、と考えたりすれば良いと思います。

その状況が逆転して、2年国債利回りよりも10年国債利回りの方が低くなるというのは、リスクプレミアムがあるにもかかわらず長期金利の方が低いということでして、将来景気が悪くなりお金の需要が減退するとみられていることから逆転現象が起こるというわけです。

金融政策と逆転現象が仄めかすもの

もう少し足元の金融政策の状況に照らして、この逆イールドを考えてみてみましょう。

現在、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)はインフレ抑制のために利上げを開始しています。まだ3月に0.25%の利上げを行っただけで、政策金利は0.25-0.50%ですが、マーケットは年内にさらに2.00%の利上げを行う可能性を見に行っています。この流れの中、29日には2年国債利回りが上昇した一方で、10年国債利回りは低下する展開となり、2.39%近辺で逆転しました。

2年国債利回りが10年国債利回りを追い越したということは、利上げがずっと続くわけではなく、将来どこかで景気が悪くなり、利下げが行われる可能性を含んでいます。このように、足元では景気やインフレが強くて利上げを織り込みに行く動きから短期金利が上昇するけれども、先行きは景気が悪くなって利下げに転じるため長期金利の上昇が続かない、とみられている時に逆イールドが発生するのです。

景気後退は本当に来るのか

そのため、2年国債利回りと10年国債利回りが逆転する逆イールドになると、債券市場は先行きの景気後退を予想している、ということになります。

そこで、最後に考えたいのが、景気後退は本当に来るのか?です。

結論から言うと、逆イールドが続くようなら景気後退は来るとみた方が良いでしょう。過去に景気後退が来た時には、必ず2年国債利回りと10年国債利回りの逆転現象が起こっています。ただし、条件があります。それは足元の逆イールド現象が本物でありかつ一定程度継続した場合です。

①    まず、現在市場が織り込んでいる年内2%の追加利上げが実現に向かうかどうかです。もしもこの先、インフレが急速に低下に向かうようなら利上げ見通しには修正が入り、2年国債利回りは反落するでしょう。

②    現在の低水準の10年国債利回りには過去の量的緩和が影響しているとみられます。この先FRBがバランスシートの縮小に着手した場合、10年国債利回りには上昇圧力がかかる可能性があります。

③    ①②を考慮しても逆イールドが続く場合は、先行きの景気後退の確度が高まります。しかし、その場合でも、過去の例を見ると逆イールドになってから半年程度で景気後退になる場合もあれば、2年近くかかった時もあります(1998年に関しては景気後退になりませんでした)。足元の逆イールドを見て2年先に備えて今から慎重姿勢になるというのは必ずしも合理的ではありません。

そう考えると、この先、逆イールドが持続した場合は、「いずれ景気後退が来るぞ。ただしすぐとは限らないぞ」という心づもりでいるのが良いと思います。そして、資産形成を考える際も、そういったスタンスで臨むのが良いと考えます。そうすれば、いつ来るか分からない景気後退の影におびえる必要がなくなります。

また同時に、資産形成を行う上では、①や②のケースで逆イールドが解消される展開があり得るということも、頭の隅に置いておくと良いと思います。このように様々なシナリオを整理し、中長期的な目線で資産形成を行っていくことが肝要です。

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